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月に数回、朝、駅までの道を早足で歩いているとき。横断歩道を渡るところですれ違う小さな女の子がいる。小学校に向かう途中だろう、 私は彼女をマイメロの妖精と心のなかで勝手に呼んでいる。
向こうも1人、私も1人で、道路沿いの細い道を通り過ぎる。数回、顔を合わせるうちに、すれ違いざまに手を振るようになった。どちらが先だったか分からない。お互いに、目があって、ほとんど思わずという感じで、手を振ったように思う。
あまりに小さい少女。肩までの髪の毛がふわふわしていて、まるで妖精のようだと思った。妖精に会うたびに、ぱっと小さくて淡いひかりを、私の朝のはじまりは浴びた。少しだけ明るくなったその瞬間をけれども駅に向かう頃にはもう忘れかけているのだけれど。
時々、胸のあたりで小さく手を振ったり、すれ違うときに口角をあげにっこりしてくれるときもある。そのたびに私は彼女の反応と同じように返す。ときには、す、と目をそらして通り過ぎるときもあったので、その時は私もさり気なく目をそらしてすれ違う。
このあいだ、久しぶりに妖精とすれ違った。
あれと思い、ふと顔をあげると向かう少し先に少女がいた。いつものように薄い紫色のランドセルを背負って淡い色のブラウスを着て、髪の毛は結んでいなくてふわふわの細い毛が風に揺れていた。
少女の背中を、その少し離れたところに立っている女性が、見守るように見つめているのがわかった。体の線の細いひと。腕を組み、無表情に小さな背中を眺めている。彼女がお母さんだろうか。母親だとしたら、少女の年齢に対してずいぶん年を取っているようにみえた。いや、祖母かもしれない。
その日は、そばをすれ違う私と少女はお互いちらりと目を合わせたきり、すっと知らないふりをして通り過ぎた。