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ラウンドアバウトを降りてみた

それは、拍子抜けする程簡単だった。

物心つく頃には、すでにラウンドアバウトの上だった。

背中には時間と比例して重くなる荷物、足枷を引きずりながら、回り続ける。

ひとしきり探したが、出口は見えない。出口なんてきっと無いのだ。ここを去るのは、この世を去る時しか有り得ないのだろう。

ラウンドアバウトの上を、いかに上手く回って幸せになれるか、創意工夫を凝らすことにした。苦しい道のりを、歯を食いしばり、ひたすら回り続ける。「負けたくない」と、自らを鼓舞し、あらゆる周り方を試した。視線を感じると、笑顔を見せた。

時折、気まぐれな賞賛や高揚感が訪れたが、また元の虚無と孤独感へと戻る。その繰り返し。

身体の疲労は傍に置けても、ある日、かつてない程の絶望に足をすくわれ、とうとう倒れ込んでしまった。倒れた低い目線の先には、小道が有った。ずっとそこにあったのに、どうして見えなかったのだろう。

狭い小道に入るのに引っ掛かったので、背中の荷物を下ろしてみた。久しぶりに見た中身は、全て醜いガラクタだった。自分の荷物ですらなかった。足枷は、着脱式だった。どちらも、まるで要らないものだった。

体ひとつで小道を行くと、そこは船着き場だった。一艘の帆船。

船は沖へ向かった。沖から見えたのは、ラウンドアバウトが有るだけの、小島だった。小島は既に、私の過去だった。