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サンダンス映画祭でうっかりしたはなし。

皆さんお元気にお過ごしでしょうか。

さて、気がつけばインスタントハグやらボルシチの話で、お芝居関係の事をあんまり書いていなかったので、ちょっとこの辺りでお仕事関係のお話もさせて頂こうかなと思います。

ところで、こちらロサンゼルスはStay Home Orderが早くても7月頭まで延長となりました。(小売店などは7月4日の独立記念日に向けて営業再開を狙い、自宅待機はおそらく7月末まで。少しずつ緩和しながら社会再起動に向けていく流れになりそうです。)ロックダウンから何日経ったのかな、とカレンダーで数えてみると、75日間。10週間経って、まだ約半分の折り返し地点となかなか長丁場が続きますが、一日一日丁寧に生きたいなと思う今日この頃。

ロックダウン前の世界がなんだか蜃気楼のように霞んで見えますが、2020年はかなりエキサイティングになりそうな予感満載のスタートだった、という方もいらっしゃったのではないでしょうか。私もそんな中の一人で、年末年始に里帰りしていた日本から1月半ばに帰ってきてすぐ、サンダンス映画祭に行くという機会を頂き、ユタ州のパークシティに向けて出発。まさかその数ヶ月後に世の中がこうなるとは、夢にも思いませんでした。

サンダンスに行くきっかけとなったのは、2年程前に出演した『The Wind Phone(風の電話)』という映画でした。(岩手県にある私設の電話ボックスと、そこを訪れる人達を元にしたお話)ちなみに同名ですが、ベルリン国際映画祭で国際審査員特別賞を受賞された諏訪敦彦監督の作品『風の電話(英題)The Phone of the Wind)』とは別作品です。

映画『The Wind Phone』、有り難い事に色々な映画祭で上映されており、サンダンス映画祭とタイアップしているWindrider Forumという映画団体からもBest Narrative Award(日本語で言うとベストストーリー賞と言った感じでしょうか)を頂きました。当然、監督のクリステン(女性)が招待されたのですが、彼女はその時妊娠4ヶ月。じゃあプロデューサーは、というと仕事の関係でオーストリアに行っててアメリカにおらず、「と言う訳でミア、私は赤ちゃんがお腹にいるから飛行機に乗るのは避けたいし、リンダ(プロデューサー)も今オーストリアにいるから、ミアがもし興味あれば行ってもらえたらと思うんだけど、どう?」というクリステンからの有り難い申し出を断る理由は一つも見つからず、(サンダンスは行きたい映画祭の一つだったので)首をブンブン!と縦に振り二つ返事で引き受け、手配してもらった飛行機に乗り込みユタへと飛んだのは1月26日の事。

1月だと言うのに初夏並みの暑さ(30度ぐらい)が続いていたロサンゼルスから、極寒のユタへ行くとなれば何を着るべきか。ユタに飛ぶ数日前に、エージェント(日本でいう芸能事務所)の所に顔を出しに行くことがあったので、エージェントのローラにその事を話したら、彼女は肩まで伸びた、美しいホワイトブロンドの髪の毛を揺らしながら

「サンダンスは10年ぐらい前に行ったわね〜。今じゃ有名になっちゃってセレブがドレスアップとかしてるけど、サンダンスはね、スキーリゾートにモコモコのあったかい格好して楽しむ、ゆる〜い感じの映画祭だったのよ。真冬のNYに行くみたいな格好で行けばいんじゃない?あとね、スノーブーツはマストよ。(圧)」と、ローラにスノーブーツを売らせたらたちまち100足くらい飛ぶように売れるのではないか、という説得力でアドバイスをくれました。

他にもサンダンスに行ったことのある友人にも話を聞いて、同じように「スノーブーツはマストよ」ということだったので、出発前日にスノーブーツを入手。

ロサンゼルス空港より飛んで、2時間弱でユタ州のソルトレイク空港に到着。わずか数時間のフライトで、まったくの別世界。ロサンゼルスではもう何年も見ていない雪が積もっていて嬉しいが、とにかく寒い。

お迎えの人が車で着てくれる手筈になっていたので、その人に連絡をしよう、と思っていたら携帯にその人からグループメッセージが。

「みんな、ターミナル6番のピックアップ場所にいてね。迎えに行くから」

そういえば、連絡をとっていた責任者のウィル曰く、他の州からも何人か来るので空港からステイ先までは相乗りで行くと言ってたな、なんて思いながら指定されたピックアップ場所へ向かいます。

ソルトレイク空港はこじんまりとしたいいサイズ感の空港だったので、さささっと歩いてその場所へ向かうと、すでに来ている人が二人。ハイ、と挨拶して自己紹介。

一人はイスラエル出身でLA在住(LAから別便で来ていたそう)のオマール。屈託のない笑顔で話す彼は、AFI出身の映画監督。(AFI-American Film Insutituteという、アメリカ映画界では知らぬもの無しという有名映画芸術機関・訓練校。ちなみにAFIは1998年からアメリカ映画ベスト100リストを発表しているので、映画好きな方はチェックしてみるのも面白いかもしれません。)もう一人はサンフランシスコから来たクールなヒップスター、といった印象のオースティンで、アニメーター兼映画監督とのこと。二人に「君も監督かい?」と聞かれたので、自分は役者で、監督とプロデューサーの代わりに来ている事を説明していたら三人、四人、五人と人が集まり、そうこうしていたら車でのお迎えも来たので、皆でバンに乗り込みました。

車の中で再び自己紹介の続き。アーカンソー州から来た、綺麗なブルネットと口角のくっきり上がった笑顔が印象的な女性レベッカはジャーナリスト(映画のQ&Aは彼女がインタビュアーとなって進行してくれた)。もう一人のブロンドの女性、ニットキャップに眼鏡の奥のくるくると良く動く目が可愛いルースも同じくジャーナリストだそう。合流地点からずっとしばらく携帯電話で忙しそうに話していた長身の男性はクリスで、映画プロデューサー。彼もルースもLAから来ているというので、そうなんだ私も、なんて話しているうちに空港から40分ぐらい走り、パークシティに到着。雪山に囲まれていて、本当にスキーリゾート地、と言った感じです。

今日の夜レセプションが行われる建物の前に着いて、イベントの責任者であるウィルと会ってまたまた皆、自己紹介。雪焼けした肌に快活な笑顔が良く似合うウィルは、このイベントを何年も手がけていて、普段はコロラドに住んでおり毎年この時期になるとユタ州パークシティの住人となるそう。

サンダンス映画祭は1月の下旬から11日間に渡って行われるのですが、Windrider Forumでのイベントは3日間。サンダンス映画祭の会場のすぐ近くで行われます。1週間ステイしてもいいよ、と言って頂いたのですが、わたしは他の仕事との兼ね合いもあり3泊4日と言う形をとらせてもらいました。(今思えば1週間いたら雪山でスノボとか出来たな、、、、とか少々惜しく思っちゃいます)

ウィルにパークシティにいる間の流れを説明してもらって、その夜はWindrider Forumレセプション会場の向かいの劇場(サンダンス映画祭は映画が上映される劇場が点々と散らばっており、その数10数軒)で、ショートフィルムプログラムを観ました。

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コアな映画ファンの聖地・サンダンス映画祭の会場内は、映画愛で繋がった観客達からの熱気がむんむんとこもっており、雪降る外の寒さとはすごい違いです。熱気で蒸し暑いほどの劇場内部にはプログラムの最初にプレゼンターがステージに上がり、「それでは皆さん!2020年のサンダンス映画祭!楽しんで下さぁぁい!!」と言うアナウンスをした後、観客からは大きな拍手が巻き起こります。さぁ始まる、これから銀幕の魔法がー、と高鳴る胸。

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サンダンス映画祭はインディペンデント映画をサポートし続けていて、数々のインディ作品を有名にしてきた事でも知られています。実験的な作品も厭わないので、エクスペリメントな映画も多いのですが、この短編映画作品集はかなりマイルド目に言っても刺激が強すぎて目に痛い、(過度に暴力的、見てて痛い)かつ実験的すぎて、ちょっとふむ?となるような作品が多かった気がしました。(中には面白い作品もありましたが。)それでも来たかったサンダンスに来させて頂き、劇場で皆と映画を観ている事だけでハピネスホルモンが脳内で増えて増えて仕方なかった私は、一緒に観に行ったオマールがプログラム最後の方でもう出ようというまで、劇場の席にしっかりとへばり付いておりました。

その後レセプション会場に戻り、そこからステイ先へ。この時期はホテルがいっぱいなので、ウィルが皆のためにバケーションハウスをいくつか借りてくれていました。(そこに何人かで泊まり、お家をシェアする感じです)雪に囲まれた、ゆったりとしたログハウスでゲストとしばらく喋った後にベッドに入り、初日はあっという間に眠りにつきました。

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さて、行って分かった事なのですが、サンダンスの会場。自分が観たい映画が上映されている劇場から劇場への距離が遠く、(中には車で20分ー30分の距離も)渋滞混雑の最中、行きたい劇場に移動するのに結構な時間がかかります。

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      ダウンタウンのエジプシャンシアター前にて。


パークシティが劇場から劇場までを縦横無尽に繋ぐ無料のシャトルバスシステムを導入しているのですが、バスは文字通り街中を縦横無尽に走っているので非常に乗り換えが多く、なかなかややこしい。(AからB地点に行くのにバス4−5回乗り換える、など)慣れてしまえば楽なのかも知れませんが、監督オースティン、ジャーナリストのレベッカ&ルースと4人でこうでもないああでもない、と言いながらバス移動しました。あんまりにも時間がかかるので、最終的にはUberでの移動が増えたのですが。(笑)

2日目は朝からコメディ映画『Downhill』(主演ウィル・ファレルとジュリア・ルイス=ドレイファスによる、夫婦間の『恥』がテーマのなかなかディープなコメディ。面白かったです)のプレミア試写会、その後ドキュメンタリー映画『Giving Voice』を観て、夕方から夜にかけてWindrider Forumの試写会イベント第一段(オマールやオースティンの作品の上映。2本とも素晴らしかった)、その後の授賞式に出席。壇上でクリステンの代わりに賞を頂き、3日の午前中はWindrider Forumの試写会イベント第2段で、『The Wind Phone』と『Kintsugi』(日本の伝統工芸である金継ぎと、金継ぎアーティストであるナカムラクニオさんのドキュメンタリー)の二本立て上映、その後の映画に関する質疑応答タイムがあって、(これが一番緊張しました。)必要とされていたタスクは無事終了。反省点はあれども無事に終わり、肩の荷がおりてほっと一息。

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   日本から来られていた金継ぎアーティスト、ナカムラクニオさんと。

次の日の夕方のフライトまでの間に、映画『Miss Juneteenth』(生活苦の中バーで働く元ビーティクイーンのシングルマザーと娘の人間ドラマ)を観たり、皆が試写会→ミーティング→試写会→会食や映画のピッチセールスと忙しく動き回っている中で出会う人が人を呼び、最終的に十数人(うち10人以上初対面)でテーブルを囲んでランチをしたり、Windrider Forumメンバーの方のお宅に皆で招かれて夕食をご馳走になったりと、予期せぬイベント盛り沢山の中たくさんの人に会い、忙しいながらも良い時間を過ごさせて頂きました。(サンダンスはご飯を食べる事も忘れるぐらい忙しいとよく言われるそうですが、その意味がちょっぴり分かった気がします。)

このサンダンス映画祭で観た映画長編4本、どれも良かったのですが(6本観ようとしていたけれど時間がなく断念)でダントツに素晴らしかったのが『Giving Voice』と『Minari』の二本。

『Giving Voice』は、アメリカの劇作家オーガスト・ウィルソンと、彼の戯曲からのモノローグ(独白・独演劇)・コンペティションに焦点を当てたドキュメンタリー。勝者はブロードウェイでのパフォーマンスという千載一遇のチャンスを掴むべく、アメリカ各地で予選を勝ち抜いた10代の若者達がNYで行われる最終選考に挑むー、というお話なんですが、この映画、コンペティションもののドキュメンタリーながら、映画のテーマはオーディションものによくある競い合わせ勝敗ではなく、芸術への情熱魂の渇望。それがものすごく高い熱量で描かれており、そして、モノローグコンペティションに挑む10代の彼らがお互いを競争相手ではなく仲間として支え合いながらアーティストとして成長していく感情の動き、そして彼らの素晴らしい独演劇の数々が、観ている観客の心を震わせます。

オスカー受賞アクターのヴァイオラ・デイビスやデンゼル・ワシントンをエグゼクティブ・プロデューサーに迎えたこの作品、二人をはじめとした名優陣も所々で出演し、コメントを残すのですが、その中で

 You have to be arrogant-at least to some degree- to call yourself an artist.自分がアーティストだと名乗るためには、ある程度の傲慢さは必要だ。

という一言があり、(原文ままではないです、失礼をば)本当にそうだよなぁと勝手に共感しておりました。(特に私は小心者な故、こういった気概はことさら必要である)芸術を志している方、表現者の方には特に、心から強くお薦めする一本です。

2本目は『Minari』。(ミナリは韓国語でセリの事だそう。)

アーカンソー州の郊外にトレーラーハウスと土地を買い、農場を作るべくやって来た韓国からの移民家族の姿を追うこの映画、韓国系アメリカ人であるリー・アイザック・チョン監督自身の幼少期を元に描かれているだけあって、情景描写が美しくも切ない、観ていて「なんだか懐かしい、この景色」と言う気持ちになる映画です。

出演は韓国系アメリカ人俳優のスティーブン・ユァン(The Walking Deadのグレン役、ポン・ジュノ監督のOkjaでのK役など)に韓国人女優のハン・イェリ、ヨン・ヨジュンがその脇をがっちりと固め、その素晴らしい演技の数々に我々観客は涙なしでは観る事ができず、会場のいたる所からすすり泣きが聞こえてくるという事態に。(笑)観終わった後のオーディエンスの一体感が爽快で、映画の力というものに改めてガッツポーズを送りたくなるような、心温まる、本当に素敵な作品でした。(後にサンダンス映画祭のウェブサイトを見てみたら、U.Sドラマ部門で審査員賞と観客賞の2冠を受賞との事。いぇい。)

こちらの二本、もし機会があれば是非観て頂きたいなと思います。


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  メインキャスト+監督による、『Minari』試写会後のQ&Aセッション。

さて最後にオチなのですが、サザエさんもびっくり仰天のうっかりっぷりを発揮し、なんとサンダンス映画祭の劇場に財布を忘れてくるという大失態をやらかした私。

車で空港まで送ってもらった後、搭乗ゲート前の待合で気付いて、顔からさぁーと血の気を引かせながら慌ててさっきまでいた劇場に電話をかける、、繋がらない。(映画祭の時は劇場が大混雑するので劇場側も電話をあえて取らない様子)

最後にいた劇場のカフェでセルフサービスのコーヒーをポットから入れるのに、サンドイッチと財布を両手に持っていたあの時だ。財布をコーヒーポットの手前に置いてコーヒーを入れた、あの時に違いない、、、!!ああ、なんとうっかりしていたんだ私よ、と思いながらまだ違う劇場で映画を観ていたウィルに心の中で猛烈に謝りつつテキストして事情を説明すると、すぐに「これが終わったらすぐその劇場に確認しに行くよ、安心して」と神のような一言が。

搭乗時間になったのでそのまま飛行機に乗り、ロサンゼルス空港に着いて携帯の電源を入れるとウィルからの留守電が入っていました。

「ハーイミア、名探偵ウィルが君の財布を無事劇場から見つけたよ、だから安心して送り先を教えてくれ。2日以内にはそちらに届くようにするからね。」

すぐウィルに電話してお礼を伝えたら、「気にしないでいいよ、これも名探偵の務めさ。」と何ともクールな返答が。親切な名探偵が見つけてくれたお財布は2日後に中身も外見もそのままの状態で、無事私の元に帰って来ました。ありがとうウィル、、、、!!!

私、お財布をどこかに忘れてきてしまうという行為を5〜6年に一回ぐらいの確率でやってしまいます。その度にもう今回は見つからないかも、、、、と思うのですが、有り難い事に、今まではそのままの状態で戻って来てくれています。今回の事もそうですが、世の中には心の優しい人がたくさんいるのだな、と、頭が下がります。

去年スペイン巡礼をした時は行く先々で人々の落し物を見つけ、それを私が持ち主に届けまくるという、はてこれは落し物カルマの解消か何か?(笑)というような出来事もあったのですが、それはまた別の機会に。

また劇場で、安心して映画やお芝居を観れる日が1日も早く戻る事を祈りつつ、今日はここで筆を置かせて頂きます。


今日も皆さん良い1日を!





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みあ
えっ、、、、神様ですか?

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