見出し画像

家でアートを眺める瞬間、感情が息を吹き返す。アートコレクター インタビュー Episode.3

アートシーンにおけるコレクターとは、また、そのコレクションとは、一体どのような存在なのか。伝説的コレクター、チャールズ・サーチが、「MY NAME IS CHARLES SEAATCH AND I AM AN ARTOHOLIC」という本の中で答えているQ&Aを、現代のコレクターに問いかけるシリーズ。

第3回は、子ども向けの教育コンテンツ開発(intoArt Program / Instagram : @intoart_shirokane)でアーティストと関わりながら、ギャラリーのように自宅をリノベーションし身近な友人とサロン的な集まりを開催するなど、公私でアートに携わる中村亮太さん(Instagram : @ryota_archive , X : @ryota_intoart )を訪ねました。

コレクタープロフィール
30代 埼玉生まれ
教育コンテンツ開発 責任者・男性

Q1- What's the point of art?
Q1- アートの目的は何ですか?

例えば引っ越しをしたとき、いい家具が欲しいなっていう感覚は、誰にでもあると思うんです。そこでアートを選ぶ人は、今はなかなかいないけど、歴史的にも本来アートは家具と同じように、生活を豊かにするツールの一つだと思っています。

僕がアートを買い始めたときは、新生児科の看護師をしていました。NICUっていう保育器に入った未熟児の中には、死んじゃう子や病気が残っちゃう子もいて、それを親御さんに伝えたり、小さすぎて妊娠の実感がないまま生まれちゃったから、自分の子どもだって認められない、そういう親御さんと向き合ったり。僕自身、思うことがいっぱいあった時期でした。

ただ、職業柄、感情を出してその人たちに向き合うのは良くないと思っていたから、自然と感情が動かないように、心を閉じ込めていた気がします。僕が初めて絵を購入したのは、そういうタイミングでした。コロナ禍に病院で働いていたので、給付金をいただいたんですよ。全然予想していなかったお金だし、有意義に使いたいなって。

昔から、美術館に行くことはありましたが、絵を買ったことはなかったから、アートフェアに行って、 衿香さんの作品を買いました。それで、実際に飾った瞬間から、それまでの生活とのギャップをすごい感じたんです。職場で固まっていた感情が揺さぶられる、心を解放できる瞬間でもあったと思います。

だからみんなにも、その心地良さみたいなのものに気づいてほしい、っていうのが、この家のコンセプトでもありますね。

Q2- What keeps you going?
Q2- 何であなたは続けているのですか?

作品を買うと、アーティストとの距離というか、近づき方が全然違うんですよね。会話をするのもそうですけど、圧倒的に作品を見る時間が長くなるので、作品のことや、アーティストの思いをより深く考えるようになる。僕はそこが面白いというか、価値があると思っています。

僕がコレクションしているアーティストは、同世代が多いのもあって、決して楽ではないアーティストという職業を選んで貫き通している強さや、一つのことに没頭している姿を見て、僕ももっと頑張ろうと思う。コレクターっていうと、社会的に成功してお金を持った、年配の方も多いとは思うんですが、僕みたいにアーティストと同世代だと、これから一緒に時代というか、歴史をつくっていける。新しい時代は、自分たちの世代でつくっていくんだ!みたいな話を、アーティストとするときもありますね。

Q3- How do you choose what to buy?
Q3- 購入する作品はどうやって選んでいますか?

限られた資金の中で購入しているので、極力アーティストと話してから買いたいとは思っています。すでに売れているから買うのではなく、会話して決めることが多いです。

Q4- What do you look for when buying a work of art?
Q4- アート作品を購入する際、何を重視しますか?

アーティストの思いが作品に乗っていることと、その作品を誰が描いたか一目でわかるのは、結構大事にしてるかもしれないですね。描きたいものが確立しないと、そうはならないと思うので。

Q5- What is the most honest thing you can say about yourself?
Q5- 自分自身について、最も正直なことは何ですか?

素直で正直。そう生きたいし、そうあるべきだと思っています。仕事で接している子ども達にも、そういう姿を見せていかないといけないと思ってる。

元々、素直な方だったとは思うんですが、意識してそうありたいと思うようになったのは、アートと出会って、アーティストと親しくなってからですね。看護師の仕事にもやりがいを感じていましたが、より楽しそうな仕事に変えたり、思ったら動くみたいことができるようになったは、アーティストの影響が大きいかもしれない。

Q6-What is the one thing you now really wish you could buy?
Q6-今、本当に買いたいと思うものは何ですか?

もう少し都心で、もっと広いスペースというか、家が欲しいですね。同じコンセプトで。今、生活空間としては、この部屋(リビングダイニング兼ギャラリースペース)と寝室しかないので、生活のしづらさはやっぱり出てくるんですよ。妻と一緒に暮らしているのに、僕の主張が強すぎるから…(笑)。


Q7- Which artists do you display in your own home? Are you constantly changing the works you have there? Is there a core of favourites which stay there?
Q7- 家で飾っているアーティストはだれですか?定期的に入れ替えたりしますか?またその時の基準は?

依岐さんが多いですが、今飾っているのは、渡邉 太地さんや、新井 さん、中森 かりんさん、木津本 さん、那須 佐和子さん 、オートモアイさんなどです。

新しい作品が増えたときや、人が来るときにはその人のことを思い浮かべて、絵を掛け替えたりもします。ギャラリーだと、ちょっとかしこまっちゃったり、敷居が高いと感じたりすることがあると思うんですけど、ここではフラットにアートを眺めて、なんか居心地がいい空間だな、と感じてもらえたら嬉しいですね。

那須 佐和子 作品
中央上 / 渡邉 太地 作品
左 / 新井 碧 作品   右 / 木津本 麗 作品

Q8- Who are the artists you are most pleased with discovering?
Q8- 最初に見た時に、一番喜んだ作家は誰ですか?

やっぱり、南 依岐さんです。彼の展覧会に行ったときに初めて、アーティストと話すことなく購入を決めました。その時は、何が描かれているのかもわからなかったけれど、絵画の力強さみたいなものをすごい感じて、猛烈に欲しくなっちゃったんです。

実は、最近この部屋を使って、南さんのドローイング展を開催しました。彼とはこれからも何か一緒に取り組んで、共に時代をつくっていきたいと思っているので、作品との出会いは運命だったような気がします。

南 依岐 作品

Q9- If you could wish any work of art in the world into your collection what would it be?
Q9- もしどんな作品でもコレクションに加えられるとしたら、誰のどの作品が良いですか?

物故作家とか。誰かはパッとは出てこないんですが、具体(美術)のアーティストや作品なども、探してみたいですね。ここにある現代を生きるアーティストの作品と、歴史を築いてきたアーティストの作品を並べて、浸ってみたい。

Q10- What did you collect as a child?
Q10- 子供の頃にコレクションしていたものはありますか?

ポケモンの指人形を数百個と、ポケモンカードも集めてました。ポケモンのゲームも持っていたので、カードを使って対戦することはできたんですけど、僕は、ファイリングしたカードを眺めるのが好きでしたね。

Interview and article by Yae Kawano


この記事が参加している募集