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あなたの幸せを願いながら

あと何回書けるのだろうかと思いながらはがきに向かう。この丸文字が崩れてしまったかのような下手な字とももうお別れかもしれない。いや、よく考えたら手帳で日記を書くようにしたのでこれからもあるか。だけど誰かに届けるための文字と、自分自身一人だけのために書くだけの文字は違うのだ。

買い物に行ったら年賀状と一緒に年賀じまいのはがきが同じくらい売られていた。先日はがきの値段が一気に値上がりをしたタイミングであるし、印刷関連の会社としては苦渋の選択なのかもしれない。年末年始に出せる商品が年々少なくなっていったら事業自体がなくなってしまう。かつて年賀状を彩っていた様々な種類のスタンプやシールなどは姿を見なくなってきた。いつもの手作り年賀状をやめて印刷もののはがきを買ったのは私にとっても初めてのことだった。


独身である私にとって年賀状というのは楽しみの一つだ。何故なら友達の子供たちがすくすくと育っている様子を見ることができる機会だからだ。けどきっとこれも小学生くらいまでなのだろうなと思う。赤ちゃんの頃に会ったことのある子や、会ったことがない子。どちらでも勝手に親戚になったような気持ちで見守っているような気持ちになる。友達にもそれを伝えている。

みんなLINEでもつながっている間柄ではあるが、タイムラインで「あけましておめでとう。今年もよろしくね」とメッセージを送ったとしてもそれは簡単に履歴に埋もれてしまうのだろう。私はLINEのやり方がまだイマイチわかっていないから。手元に残る確かな重みとは全く違う。けど年賀状がたまったところで出てくる問題もある。それは処分する際の個人情報の取り扱いであったり、自分自身の何ともいえない何かがわだかまるような気持ちだ。


年賀状ファイルを出し、今までもらったはがきを順番に見ていく。「受験頑張ろうね」「卒業しても遊ぼうね」からしばらく空いて「結婚しました」と二人のウェディング姿だったり「出産祝いありがとう」と赤ちゃんの写真付きのはがきになっていく。その時々で感じたこともいろいろあったと思うが、誰かの人生の移り変わりに出会えたことを嬉しく思う自分がいた。


最近は何年も長く友達でいようとすることよりも「価値観が合わない友達とは距離を取る」「嫌な気持ちになった友達とは離れることを考える」「自分を利用しようとする人とは友達をやめる」という考え方が主流になっているようだ。後者二つは自分を守るためにはやったほうがいいことだ。けどライフスタイルの変化があるということだけで縁を切ってしまうというのはもったいないと私は感じる。

私自身、自分が結婚していないことで結婚したり育児をするようになった友達とは微妙な時期があった。やはり忙しくなってしまうし、会えなくなる時期が続いたりした。向こうももしかしたら私とは価値観が合わないと遠巻きにしようと思ったときもあったのかもしれない。だけど続いている。会えるのは数年おきになってきてはいるが、友達を続けてくれている。

そのことが涙が出そうになるくらいに温かい。




はがきにメッセージをつづっていく。といってもスペースが狭いので大したことは書けない。せめてという気持ちでいつもよりも字を丁寧に書くことを意識した。最後になる可能性も含めて例年よりきちんとしたことを書きたかったが、結局いつもと同じようなメッセージとなってしまった。

「寒い日が続いているから体調には気を付けてね」

ラストはいつもと違い、気遣いの言葉で締めくくった。


今朝は雪がちらついていたらしい。あの秋までも侵食するくらいに暑い夏から一気に寒くなってしまった今の季節。友達みんな幸せになって欲しい。そう思いながらペンを置いた。

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