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「好き」の向こう側にあるもの(Free!)

みなさんはお気に入りのキャラクターというものを決める時に何を重視するだろうか。見た目や声、キャラクター性。まとっている雰囲気に背負っている過去など、いろんな要素が思い浮かぶと思う。私もいろんなキャラクターを好きになるが、その中にはなんとなくの傾向性というものが見て取れたりもする。

けど作品を見てからの時間の経過でその感情は薄れていくこともあるのではないだろうか。飽きるとかそういったことでなくても、新しい作品に触れる度に消えていくような。もちろん、思い返す度に「やっぱり好きだ」と思う人もいると思う。ずっとお気に入りのキャラクターで、何年も創作をし続けたりする人も実際にいる。私もそんな時期があった。

一方でそこまではいかなかったものの、どうしてか心の奥底へと住み着いてしまったキャラクターが私には存在する。それはFree!の松岡凛というキャラクターだ。どうしてそういった位置へと沈んでしまったのだろうかと思う。しかも気が付いたら見た目や声など、表面的な情報は取り払ってしまっている。例えるのなら魂のようなものを受け継いでしまったかのような気になるのだ。


最初に彼から受けた印象はあまりいいものではない。夢を掴みに海外へと飛び出したものの、うまくいかずに帰国してきたという設定だ。そこでかつてライバルであった主人公の七瀬遙に感情的に絡んでくるような役回りから物語は始まっていく。けどたまに差し込まれる純粋だった頃の姿に、どうしてこんなに変わってしまったのかと思わせられる。自暴自棄になっている様子はとても痛々しい。

そんな折に私は主人公ではなく彼に感情移入していることに気付く。あんな姿ばかりを見ていたのに、どこに興味を持つだけの理由があるのかと思った。それなのによく考えてみると、私と彼には「夢見ていたことが叶わず、どうしようもない感情を抱えている」という大きな共通点があったのだ。八つ当たりしている姿を見ているのに自分を重ねるのは、私自身が心の奥でやりたかったことだからかもしれないと。この瞬間から私にとって松岡凛は親近感のあるキャラクターになった。

その後かつての仲間との絆を取り戻したことをきっかけにちゃんと救われる展開になっていく。そして最終的には復活を成し遂げるわけだが、すっかり明るくなった表情を含めて私の心の中にはいつもどこかに彼が住んでいる気がしている。思い出すたびに切ないような愛しいような、泣きそうな気持ちになる。こんなに気持ちが強く共鳴するキャラクターは彼だけだ。おそらくこれは普通の「好き」だったり「推し」だったりする感情とは違っていると思う。「尊い」とも違うのかもしれない。もっと複雑で奥深くて、面倒くさいと呼ばれるようなものなんだろう。


人は基本的にいろんな性格の面を持っていて、そこには整合性が取れなかったりすることもしばしばだ。一貫性のない発言をする人が苦手だと言っている人が、自身はそういうタイプだったりもする。矛盾を抱え、時には嘘をつき、いろんな形で自分を守っているのが人間なのではないだろうかと私は考えている。

一筋縄ではいかない面倒くさい箇所があったりするが、ここがとらえようによっては「人間らしい」と好かれることもある。人間らしく弱さがあったりずるさや意地悪な面がある人でも「裏表がない方がいい」と好む人もいる。

人間を、そしてキャラクターを好きになる理由は人によってそれぞれあると思う。表面的なアイコンとして好きになったとしても、理想のタイプだったりして長く好きでいる人も多いだろう。私のように共感したり自己投影したりして好きでいる人もいるのかもしれない。

好きになる理由は、千差万別だ。
だけど、そのどれもにきっとドラマがある。

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