見出し画像

「殺戮にいたる病」我孫子武丸:感想

 少し前に、スーファミの「かまいたちの夜」にハマっていました。その様子を見て、夫がプレゼントしてくれた本が「殺戮にいたる病」。
 「かまいたちの夜でシナリオを書いた人の、いちばん有名な小説だから読んでみて」とのこと。
 グロテスクな場面も多く、何度も「ひゃあ〜」と身の毛がよだつ思いをしながら読了。何でこんなにリアルにかけるんだ…。
 物語の運びはスリリングでとても面白かったし、心に残る作品でした。

以下、ラストシーン含む感想を書いていきますのでご注意。


 読み終えたとき、本当に呆然としました。途中、何度か違和感は覚えたものの(幼少時の回想シーンなど)、まさか…!という感じ。そして込み上げてくる気持ち悪さ。息子=父親として最後まで読めてしまったことに対する…

 犯人発覚によって「若者による、衝動的な犯罪」ではなく、「現代日本の家庭で脈々と受け継がれている、遺伝的な病気のひとつとして現れた犯罪」になってしまったことが、グロテスクな描写以上に恐ろしかったです。

 また、犯人に限らず主要な登場人物は、何かしら病的な欲求を持っているように読めました(母への、父への、家庭への…)。
 自分のなかにある永遠に満たされることのない欲求を、他人で埋め合わせようとしている。そしてその欲求を満たすものに、「恋」や「愛」を当てはめる。
 普遍的かつ病的な欲求を、登場人物を通して「あなたの中にもあるでしょう?」と突きつけられたような気がしました。
 タイトルにもある「病」はシリアルキラーだけが患っているわけではないのかも。


特に気になった登場人物。

母親(雅子)

 物語の中で、度々登場する母親。犯人と同じくらい気味が悪い存在でした。家庭への、特に息子へ異様な執着を見せます。
 息子の「性」の部分まで徹底的に管理しようとする彼女は、何とかして子どもの自立を防ぎたい一心で狂っているように見えました。終盤、息子を亡くしたショックから、事件などなかったかのように家に帰っていくさまは、言いようのない憐れさがあります。「家族の絆」という幻さえ消えてしまったあと。さらに追い打ちがかかるのですが。
 息子と違って、娘に執着がない(関心がない?)のも、コントラストが感じられ、薄気味悪かったです。

信一

 実際の息子であり、異常性癖かつシリアルキラーである父親・稔を自分の手で殺そうとした大学生。読み返すと、なぜここまで自分の手で解決しようと無理したのかが気になる。
 彼も雅子のように、何事もなかったかのように事件を収めたかったのかな?それとも、個人的に父親に何らかの復讐をしたかったとか…。

敏子

 随分年の離れた樋口に、父親から与えられるべきだった愛情を見出していた彼女。切なそうな表情や、稔との会話の端々から、自分のコンプレックスを理解しながら樋口に好意を寄せていたのかな、と感じました。
 頭ではわかっていても…ということ、現実でもよくあります。とても人間らしい女性でした。それだけに、殺されてしまったことが虚しく、樋口の無念がありありと感じられました。

 とっても面白かったので、他の作品も読んでみたくなりました。かまいたちの夜は、いつか栞を制覇したい…。

この記事が参加している募集