あたたかい
数年前、普段降りない駅の近くを歩いていると、
書店を見つけた。
ピカピカで新しい本屋さんではなく、古びた(すみません)古本屋さんだった。
外にも棚があり、いくつもの書籍の背が目に入った。
当時、私は宮本輝さんの作品にハマっていて、その古そうな書棚に、『海岸列車』があるのが目に入った。
まだ読んでない作品で、わりと綺麗な状態だった。
吸い寄せられるように、『海岸列車』(まだ文庫本が出版されていなかったので単行本)上下を棚から取り出し、レジの近くにいるおじさんに「これお願いします」と手渡した。
紙袋に書籍を入れてくれ、「ありがとね」と、嬉しそうに言われた。
紙袋で本を抱えるのが初めてで、それがなんだかすごく嬉しかったのを覚えている。
おじさんの嬉しそうな顔も、本も、そして紙袋も、なんだか全てがあたたかく、心を満たした。
『海岸列車』は自宅で読破した。
なんとも言えないくらいの読後感に、ひとり浸った。