プロダクト提供価値の解像度を上げるデザインリサーチのススメ
こんにちは。Voicyでデザイナーをしている京谷です。
Voicyでは最近、プロダクト提供価値の解像度を上げるためのデザインリサーチを行いました。
以前よりユーザーインタビューを通して、ユーザーを定性的に理解し、プロダクト開発に生かしたいと思ってきました。しかしながら私一人で実施した際にはうまくアクションに繋げられず、不完全燃焼に終わってしまっていました。インタビューに参加したデザイナーのユーザー理解度は上がるものの、どうやってプロダクトに生かせば良いのだろう?とモヤモヤしていました。
今回のユーザーリサーチではVoicyの株主でもあるD4Vに仲介していただき、IDEOのデザインリサーチャーである山口 由利子さん(プロフィール)にサポートいただきながら進められたことで、プロダクト開発に活かせる形にすることができたと感じています。この取り組みを備忘録的にまとめたいと思います。
以前行ってうまくいかなかったリサーチとの差分やポイントを記載しています。
プロダクト開発において、デザインリサーチを取り入れたいけど、どのように始めたら良いかわからない。そんな方の参考になればと思います。
※リサーチ結果や内容の詳細は非公開となるため、フレームワークとして抽象化し、記載していきます。
デザインリサーチとは?
IDEOではデザインリサーチを以下のように定義しています。
固定概念や先入観をアンラーニングし、真っ新な状態で100%“人”からインスピレーションを得るつもりでリサーチに取り組みました。
【1】リサーチの目的設定
基本的なことですが、まずはリサーチの目的を設定します。
今回行ったリサーチは “Voicy”というプロダクトの提供価値を明確にしたかったため、目的を
“Voicyは、誰に対してどのような価値を提供できるだろうか?そのインスピレーションを得るためのリサーチ”
としました。
振り返ってみると、以前あまりうまくできなかったリサーチではこの目的設定が甘く、複数の目的が混ざり合ってしまっていたと思います。プロダクトの課題を抽出したいのか?それともユーザーについて知りたいのか?ソリッドな目的を立てることで、リサーチの精度が高まると感じています。
【2】リサーチ設計
目的を叶えるためのリサーチを設計していきます。私たちはプロダクトの提供価値を明確にするためステークホルダー3者にインタビューを実施することにしました。
ステークホルダーについて
設計開始時、社内メンバーにもインタビューしてはどうかとリサーチャーの方に提案いただいた時は意外だと感じました。私は、リサーチとは社外に向けて行うものだと思っていたからです。
しかしながら、今回のリサーチがVoicyプロダクトの提供価値であり、私たちが社会に対してどうゆう価値を提供したいと考えているかも重要な要素だと知って、とても納得しました。
インタビュー実施人数について
今回のリサーチは2weekでギュッと実施することを決めていたので、各ステークホルダー3名ずつのインタビューを行いました。
社内からは「n=3では意見が偏るのではないか?」という懸念の声もありましたが、結果的に、インタビューで得た言葉をそのまま受け入れるのではなく、抽象化して重要なエッセンスに昇華させたため問題ありませんでした。
ただし、対象者を三者三様、さまざまなタイプの人を選ぶことがインタビューを成功させるコツだと思います。
【3】インタビュー設計
各ステークホルダーに対して、具体的なインタビューシナリオを設計していきます。単なる対話だけでなく、アクティビティなども織り交ぜながら、さ
まざまな切り口で人の思考を深ぼっていきました。
シナリオ設計で意識したことは過去・現在・未来を意識すること。Voicyと出会う前・使い始めた今・使い続けたこの先の変化や期待を明らかにしていきます。
また、Voicyに関連する話だけでなく、その人がどのような思考を持った人なのか理解するための質問を多く設けました。
a. 社内メンバー
Voicyという会社が社会にどのような価値を提供していきたいと思っているのかを明らかにするため、IDEOが提唱しているPurpose Wheelを使ったアクティビティを交えながらインタビューを設計しました。
b. パーソナリティ
Voicyで発信を続けてくださっているパーソナリティさんが、どんな点に価値を感じているのか、他の発信ツールとはどんな違いがあるのか。発信を続けたその先にどのようなことを期待しているのかを明らかにするためのシナリオを設計しました。さまざま発信ツールと自信との距離感をマッピングしてもらうようなアクティビティも含めました。
c.リスナー
Voicyを習慣的に聴いてくださっているリスナーさんがどんな点に価値を感じているのか、他の音声や動画メディアなどのインプットとはどのような違いあるのか。どのような期待を持って使い続けているのかを明らかにするためのシナリオを設計しました。Voicyにラブレターを書いてもらうというアクティビティも取り入れながら、思考を言語化していただきました。
【4】インタビュー実施
インタビューはオンラインで1時間〜1時間30分/1人ずつ行いました。
IDEOのデザインリサーチャーの方にインタビュアーをしていただいていたのですが、インタビューというより会話のように自然に対話を深堀されていたのが印象的でした。
対象者の方にリラックスしてより自身をさらけ出してもらうことがポイントだと思います。
インタビュー後のダウンロードの実施
インタビュー後、インタビューに同席したメンバーで印象に残った言葉を書き出しながら気づきを話し合います。(この時間をIDEO Tokyoではダウンロードと呼ぶそうです)
IDEOの中では「このダウンロードをしなければインタビューをする意味がない」というほど重要なものなのだそうです。インタビューで得たインスピレーションを噛み砕きながら自分の中に染み込ませていくような重要な時間でした。
ダウンロードで話すテーマは例えば以下のようなものです
名言TOP3
印象に残ったエピソードTOP3
これをインタビューに参加したメンバー(できれば、デザイナー・エンジニア等さまざまな視点を持つメンバーに同席してもらう)で議論しながら残していくことで、網羅的に重要な言葉を残すことができました。
たしかに、以前行ったインタビューはこれを実施せず、議事録を残すのみであったため、得たインスピレーションの中での強弱をつけられていませんでした。そして、時間の経過とともに自分の中の解釈が変化してしまっていったり、他のメンバーに共有する際に一般化された解釈になってしまい、気づきや発見が得づらいアウトプットになってしまっていたと思います。
【5】抽象化
社内メンバー・パーソナリティ・リスナーから得たインスピレーションを一つの机上に全て並べ、関連するものをまとめ、抽象化したキーワードを定義していきながら(KJ法に近いやりかた)、ストーリーを作っていきます。
それぞれのステークホルダーから得たインスピレーションを付箋で色分けしたままグルーピングしていくと、どのテーマに対してどのステークホルダーからのインスピレーションが多かったかが明確にわかるため、あとで分析がしやすかったです。
以前行ったインタビューでは、このフェーズも飛ばしてしまったので、インタビュー対象者からいただいた言葉をその言葉のまま施策に取り入れようとしてしまい、プロダクトに活かしきれなかったのではないかと思います。抽象化してエッセンスに昇華させることが重要です。
【6】インサイトの抽出
抽象化してまとめたストーリーから、各テーマについてインサイトを抽出していきます。インサイト発見のポイントとしては、以下のようなことです。
認識と異なっていたこと
認識はしていたが、解像度が上がったこと
【7】まとめ/その後の流れ
インサイトをまとめていくと、リサーチの目的であった
“Voicyは、誰に対してどのような価値を提供できるだろうか?そのインスピレーションを得るためのリサーチ”
に対して、
“Voicyが、パーソナリティとリスナーに提供している価値”を言語化することができました。
その後、提供価値をベースにて問いかけをつくり、そこからアイデアを創出して具体的な施策に落とし込んでいきます。
このリサーチを通して、ユーザーの解像度が上がったとともに、噛み砕いてプロダクトに生かす道筋が見えた、とても有意義な活動でした。
プロダクトの施策に起こしていく活動も、今後記事にしたいと思います。
デザインリサーチの実施についてやスタートアップ初期のデザイナーの役割について、気軽にお話ししませんか?