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洞窟の影 #20

自転車を止め声の方へと目をやるとそこには同級生の宮本がいた。
「おーい、こっちこっち!加藤もこっち来いよ!」
 宮本の手には周囲の人と同じく煌びやかなドリンクが握られており、顔全体がやけにてかっていた。しっかりとテーブルを確保しており、数メートル離れていてもわかる立体的な笑顔は脅迫的だった。同じくこちらを向いている女子生徒は全く知らない顔だった。多分、違う高校の生徒で宮本の彼女だろう。宮本とは対照的に控えめな彼女の笑顔に少し好感をもち、思わず会釈をした。
「久しぶりに話そうぜー。」
 同じ高校の生徒とは思えない程派手な格好をした宮本が飛び跳ねると商品タグみたいな装飾品も波打っていた。ここで僕があちら側に行かなかったら宮本が不機嫌になり、どこのだれかも知らない女子生徒に迷惑がかかる気がした。それだけは避けるべきだと本能的に察し、僕は重い自転車を持ち上げて方向転換し、彼らの元に向かおうとした。しかしながらタイミングが悪く横断歩道は赤信号でお互い認識しているのに会話が生まれない事に気まずさを感じた。焦りから信号を無視しようかとも思ったが、見ず知らずの彼女のためにうずく足をなんとか押さえて青信号に変わる瞬間を待った。思いのほか長く待たされたが焦りを悟られない様に細心の注意で自転車をゆっくり押した。徐々に宮本たちとの距離が縮まり、女子生徒の顔がはっきりと確認できた。色白で小さな頭部には神様が配布したであろう説明書通りにそれぞれのパーツが乗っていた。涼しげな目元と薄すぎない眉はそれぞれを引き立て合い、慎ましくもスッと通った鼻筋は顔全体の寂しさを綺麗に振り払っていた。それらのパーツを下支えする口元はやや大きい印象を受けたが、その口元は女子生徒の表情を晴れやかにするだけではなく少女性をも演出していた。とにかく女子生徒の顔はどうにも蠱惑的であった。

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