奇を衒う (きをてらう)
『きをてらう』なんて言葉がある。
私がサラリーマン時代にお世話になり始め、いまだに扶養家族のように面倒をみてくれる大先輩がいる。
京都駅南のディープなエリアでよく酒をごちそうになった。
「誰が見てるかわからんから、お前は金を出すな」がその方の口癖だった。
いろんな行政マンと付き合いをしたが、地域と地域の住民の生活を一番に考える尊敬できる方である。
在日コリアンの方が生活されているこのエリアでよくごちそうになった。
美味しい韓国料理をここで初めて知った。
それまで知らなかった世界、生活も教えてもらった。
知らなくとも生きていける多くを教えてもらった。
それがたぶん今の私の血肉となっている。
よく行った韓国料理中心の何でもある居酒屋、カウンター中心で奥に小上がりのあるどこにでもある居酒屋である。
ここは何を食べても美味かった。
特に煮物がよかった。
いつもその方と頼むのは肉じゃが、よく味が染みわたり、私の好きな糸コンニャクは、細く歯ごたえがある中に出汁が染み込んでいた。
ニンジンはそれほど好きではないのだが、カレーと肉じゃがのニンジンは許してやる、これも美味かった。
ジャガイモはその形を保ちながら一度箸を立てれば、ほろりと崩れる柔らかく口の中にジャガイモと調和のとれた肉汁の味を広げる一品だった。
ここで『奇を衒う』の登場である。
なんとその方、その美味しい肉じゃがにウスターソースをかけるのである。
「エッ、ウソだろ」の世界であった。
その上に肉じゃがが隠れるほどの七味を振り掛ける。
それを美味そうに箸で突きながら酒を飲んでいた。
たぶん、いつも私のような疑問を持つ奴がいるのだろう。
あっけにとられる私に「宮島君、オレは子どもの頃からずっとこれや」とさらっとおっしゃった。
しかたなし、一度はやらねばと思い勇気を持ってソースをかけて食べてみた。
そうしたらなんと、これが美味かった。
醤油にソースなんて私にとってあり得ないことで、まさしく『奇を衒う』の世界であったのだ。
この方との世界もまさにワンダーランドだった。
またそのうち登場願います。
(実は一度登場してます。放置竹林整備事業NPOの理事長です。)
そして、最近同じようなことがあった。
私が餃子の話を続けていた時にnote仲間の松さんに「宮さん、水餃子はウスターソースに七味ですよ」と教えられたのである。
これまた最初は「ウソ―」と思いつつ、そんなことはまったく顔にも出さず「ありがとう」と営業トークで済ませていた。
醤油ベースの水餃子にソースである、信じられなかった。
そして、恐る恐る試すとこれが美味かった。
同時に肉じゃがのことも思い出していたのである、、
ここでも目からウロコ、私の目のウロコは落ち切って、今ならキラキラ輝いている、、、
さすが大阪は天神橋筋商店街でブイブイ言わせて少女時代を送って来ただけのことがある元気なおばあちゃんと、この場では尊敬しておこう。
松さんには何かとお気遣いいただき感謝ばかりしている。
基本がしっかり理解できるから、『奇を衒う』がわかると思う。
それは合気道にも、生きることにも通じること。
以前と比べるとずいぶん単調な生活を送るようになった今であるが、
まだこの先、出会うであろう『奇を衒う』を楽しみにしたいと思っている。
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