マガジンのカバー画像

ノベルマガジンロクジゲン

129
むつぎはじめの書いた小説が読めるマガジン。 メインはSFというかファンタジー。
運営しているクリエイター

2020年8月の記事一覧

【おねショタ】女エージェント(笑)京夏ととある少年【前編】

「……こんにちわー」  盆も過ぎた夏の頃、遠路はるばる母方の田舎に帰ってきた女エージェント糸屋京夏《いとやけいか》を迎え撃ったのは幼い少年の声だった。  かつては親族の墓があった寺だか神社だかの横の、水琴窟でのことである。 「こ、こんちわ」  女エージェント……要は位置情報ゲームの廃プレイヤーなだけだが……は突然の声にびっくりして、いかにも不審者丸出しの吃りがちな声で挨拶を返す。そういえば不審者には初手挨拶せよと最近は学校で教わるらしいと彼女は思い出した。子供もいなければ彼

Mine&Industry #7

最初から 前へ 「勝手に銅を拝借させて頂きました。すみません」 「いやそれはいいんだけど……」  そう言ってマユラさんは、怪我をしていた足をかばいながらもこちらへゆっくり歩いてくる。 「治療を?」 「ええ。完璧ではありませんから、街で治療は必要でしょうけど。  そしてこの子の名前は【エメラルド・ドール】。《現象体》と言って、私達が魔法を行使するときの媒介になるパートナーのようなものです」 『キュララァ!』  小人のようなそれが可愛らしい声(?)を上げながら空中でくるりと一

#同じテーマで小説を書こう  鏖滅騎士シュピナートヌィ・サラート・ス・ヨーグルタムの休日

「おはようございます。閣下、本日はどうされますか」 「ああ……まずは紅茶を一杯。ジャムを付けてくれ」 「承知致しました」  この屋敷唯一のメイドたるラクサが、絹織物のようなしなやかさで言われた通り茶を給仕する。  年若くして特例男爵……すなわち単騎で軍団に匹敵する人間兵器である彼の、可愛らしいとも言えるその嗜好を知っている事実は、彼女の密やかな楽しみでもあった。  熱い茶を冷ましながら少しずつ飲み、シュピナートヌィは目を覚ましてゆく。光の具合によっては緑にも視えるほど美しい

白天抜刀サキュバシィ #2 「炉」

前へ 「おねえさま、今日はどちらに?」 「T-9-Bの炉のエーテルが切れかけだったはずだ。そっちに回って帰ろう」  中年男性を襲撃した後、迂闊な一人歩きをしている男らから更に《リキッド》を搾取した三姉妹は、地味な巻頭衣とボロいゴーグルで変装し、三輪トラックで非正規居住区を走っていた。長女ノルンは助手席、次女リタは運転席、三女マリアは荷台で三人分の装備類のお守りである。  元気な少女、女性、婆と、枯れ木の如き爺らで騒がしい露店街のそこは、人をかき分ける様にのろのろとしか走れ