Just Like Honey⑥
翌朝、特に気まずさはなかったけど、気を使ってるのか後悔なのか罪悪感なのか、妙に優しくしてくれた。
シマ君は仕事だったから一緒に家を出た。
すぐ近くの駅に着くまでに、寒いからっていって手を繋いでシマ君のコートのポケットに入れてくれたりして。はーあ、青春。
駅で別れてから、シマ君の気持ちはわかんないけど、好きになるなーって考えながら、通勤ラッシュの電車にむぎゅっと乗りこんだ。
何だか浮ついた気持ちでそのまま家に帰ってすぐ寝るのも勿体無いから、喫茶店でしこたま煙草を吸ってモーニング食べて考え事をしてからやっと家に帰る気になってきたんだ。
で、寝る直前にふと思った。
昨日、みんなでいる時初めてシマ君に下の名前で呼び捨てにされて、あ!多分結婚する!って思ったのはこの出来事の予兆だったとか、、?なんてさ。
シマ君よりもよく喋ってたケイトのことはとりあえず忘れてしまってて、なんとなく幸せな気持ちで、やっと自分のベッドで熟睡した。
思い出したくない時期もあったけど、この時の朝のことを思い浮かべると懐かしくって、愛しい気持ちでいっぱいになる。
シマ君は元気にしてるだろうかって思いを巡らせたりもする。
会いたいような気もするけど、当時の楽しかったことも辛かったことも全部1つのきれいな思い出だから、このままでいいかってなるんだよね。
多分、時間が解決してくれたってやつ。
2度寝から目が覚めてもまだ浮ついた気持ちが続いてた。なんか良いことあるかも、とか考えながら友達と会うために出かける準備をした。
翌日からまた仕事の日々だったし、帰宅後早めに寝てたら、夜中に仕事終わりのシマ君から電話がかかってきたんだよね。
シマ ごめん、寝てた?
私 うん、でも大丈夫。仕事おつかれ様。何かあった?
シマ いや、何かって、、、特には、、
私 そういえば忘れ物したからさ、次まで置いててね
シマ うん、わかった。ていうか、昨日、、、
私 、、、私と付き合えばいいのに。お互い恋人もいないしさ。なんか、感覚とか合いそうだよ、多分
シマ えーと、とりあえず次の休みに会おう、で、話そう!
私 うん、わかった。電話ありがとう、おやすみ
、、いや、ちょっとさぁ、、熟考大切やて。
自分の心守るためにもちゃんと考えよ?若さゆえの勢いもいいかもやけど、自分を大切にしいや。
って今なら言えるんだけども。
せめて数日考えてから、付き合って、っていうと思うよ、多分だけど。
“次の休み”までの数日間、上の空が過ぎて、世界ぼーっとする選手権日本代表(参考:森見登美彦)になれるぐらい、上の空だったな。
ハナに彼氏ができるかもしれないって話たら、ケイトだと思ったって言われた(この期間中、ケイトのことは1㍉も考えれなかった。シマ君で手いっぱいで)。
そしてハナも、現在の私と同じく、ちゃんともっと出かけたり話したりした方がいいんじゃない?いくらシマ君でもさ、って言ってくれたんだよね。
一回寝たぐらいで好きになるって、ちょっと急ぎすぎだけど寂しかったし焦ってたってのもあるんだ。そして何より怖いものなしの20代だったし。
ハナも彼氏いて、実家出て1人ってのは結構余白の時間多いなー、って。
とにかく1人じゃなくなりたくて、寂しくなくなりたかってっていうのもある。
でも誰でもいい訳じゃなくて、ちゃんと好きな人、好きになれそうな人。
お互いの“次の休み”当日。
前電話してからこの日まで、シマ君は毎日連絡をくれてた。
そんなことされたら期待しない方が無理じゃない?
13時にここで待っててって送られてきたリンクは、行ったことのない喫茶店だった。
Googleによると、結構夜遅くまで営業してるみたい。
店内はダークな色調の木の柱と白壁が落ち着いた内装で、平日の昼ということもあり、お客さんは少なかったと思う。
カウンターの後ろにはたくさんのコーヒーカップが飾るように並べられていて、その前を通り過ぎ、席数の少ない空間の奥、ゆるくゾーニングされた喫煙席に座った。
シマ君から少し遅れるって連絡が来たから、先にコーヒーを注文して煙草を吸いながら待ってたんだ。
ふと見ると、伝票の裏に詩(?)が書いてある。
えー、なんか運命っぽい。
いつか年をとった時、その時シマ君とどうなってるかわからないけど、今日のことはどんな記憶として思い出すことになるのかなーってぐるぐる考えてたら、シマ君がきた。
はぁ〜、シマ君に恋してた時の気持ちを今でもこんなに覚えてたことに感動するよ。
時々思い出すって大切だね。
なんか予定より随分長くなりそうな予感。
で、ケイトはどこいった?って感じだけど、そこに行き着くまでのシマ君の話も、こんなにも思い出深かったって忘れてたよ。
すごく短い期間だったけど、大好きだったからさ。