見出し画像

『一線の湖』で水墨画への一線を越えてやるぜ 【砥上裕將:一線の湖】

先日、何の前情報もなしで、島根県の足立美術館へ行った。

美しい庭園
北大路魯山人の名品の数々
横山大観を始めとした日本画壇の巨匠たちの名画

アメリカの日本庭園専門誌『数寄屋リビングマガジン/ジャーナル・オブ・ジャパニーズ・ガーデニング(Sukiya Living Magazine: The Journal of Japanese Gardening)』によると
2023年日本庭園第一位だそう。
空も含めて絵になるぜ

本当に素晴らしかった・・・
と言えたらよかったのだけれど、

いかんせん 
私 日本美術の見方が分からない!!
見方が分からないと興味が・・・薄い・・・。

折角の素晴らしい美術館に足を運んでおいて
心底申し訳ないのだが、

へー

という感想のみを抱いて帰宅しました。


アートは
好みだと思うし、

いつでも自分じしんで率直に見るということが第一の条件

岡本太郎 『今日の芸術』光文社 カッパブックス 49頁

と敬愛する岡本太郎も言っているけれど
興味がなくて、何も感じない・・・
のは、いかんともしがたい・・・。
でも、それはそれで悲しい。

と、残念な感じで終わった足立美術館への訪問。


しかし

その直後
そんな私にまさかの転機がやってきます。

近所の図書館の返却棚で
(返却されてから既存の本棚へ戻すまでの間の本の待機場所。
ここの本も利用者が借りられるので、私はよくここからお借りする。
自分の趣味とは違う本に出合えてなかなか楽しいのだよ)

色々な読書好きさんのSNSで見かけていた

砥上裕將 『一線の湖』

を見つけ、借りてきた。
これまた前情報なしで。

それゆえ、途中まで、全く知らなかったのです。

この本が、水墨画の話だなんて。
この本が、続編だなんて。
しかも、前作『線は、僕を描く』が映画化されてたなんて。

めちゃくちゃ簡単に言うと
両親を事故で亡くし、孤独に陥った主人公・青山霜介が水墨画と出合い、
人生を再び歩き始めるまでの物語

なのだが
水墨画を描く描写がすごい。

墨色の線 たった一本に
数多の表現があり
そして、
余白=描かないこと にも表現があることに驚愕する。

だってよくよく考えたら
水墨画って墨一色なのに、
雲とか川とか岩とか人とか
あらゆるものが表現されていて
白黒のはずなのに、
あれ?カラー?
って気がしてくる。

確かにこんなアート、他にはないかもしれない。

水墨画家でもある作者の砥上さんが描いた
見返しやとびらの水墨画も素晴らしく、
永遠見てしまう。

この葉っぱの一本一本
この沢蟹の甲羅の部分
何も書かれていない余白
にどんな思いが込められているのか
考えずにはいられない。

水墨画の見方が解説されているわけではないし、
日本画の歴史が書かれているわけでもないけれど、
難しい話は抜きにして
水墨画の楽しみ方を教えてくれるような物語に
これはもう、生で水墨画見に行かないとだめじゃない?
という気にさせてくれる。

なんだよ、めちゃくちゃ面白いじゃないか!水墨画!!

これを読んでから足立美術館行きたかった~!
横山大観とか、なんで流し見した?!自分!!

そして改めて何度も言うが、

見たい。水墨画。

あんなに興味ないとか言っていたのに、
この本のおかげで掌返すどころか
掌240度くらい回転して
もう骨折寸前なくらい、水墨画を見てみたいのである。

おかげで早速、『水墨画の見かた』の本まで入手する始末。

どうしてくれるんだ、一体。
この素晴らしい出合いを。

こうなったら、一気に

水墨画への一線 越えてやんよ!


【参考】
・砥上裕將 『一線の湖』 講談社
      『線は、僕を描く』 講談社

・島尾新・監修 『すぐわかる水墨画の見かた』 東京美術

・神林恒通 新関伸也 編著 『日本美術101鑑賞ガイドブック』 三元社

・岡本太郎 『今日の芸術 時代を創造するものは誰か』 光文社

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?