その“月経痛”、ガマンし続けて大丈夫?
前回は、日常生活で見過ごされがちな「月経異常」についてお伝えしましたが、今回はもう少し深掘りして「月経痛」にフォーカスしたいと思います。
月経痛の強弱は、人により、またその時の体調によっても異なります。近頃、月経を「個性」ととらえることへの議論が巻き起こっていますが、その是非はともかく、個人差があることは確かです。
ただ、仕事や暮らしに支障をきたすほどの痛みを毎月感じているのなら、異常を疑ってみた方がいいでしょう。日本ではなぜか、「月経痛はがまんするのが当たり前」と思われていますが、たいていの場合、「痛み」には原因があるもの。
月経を引き起こす主な原因と気をつけてほしい諸症状、痛みを和らげるヒントについて順にお伝えしていきます。
【関連記事】
症状があらわれるのは“月経前”と“月経中”
月経痛の主な原因、それは「プロスタグランジン」という物質です。
月経のとき、子宮内膜が剥離する(はがれる)ことによってプロスタグランジンが産生され、子宮を収縮されます。このプロスタグランジンが過剰に分泌されると、子宮が強く収縮して下腹部痛が起こるのです。
また、卵巣ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)とプロスタグランジンがアンバランスになると、子宮内膜の剥離不全が起きたり血行障害が発生したりします。
プロスタグランジンは、“月経”というメカニズムを正常に動かすためになくてはならない存在ですが、多く出過ぎたり、他の成分とのバランスを欠いたりすることによって、私たちのカラダはいろいろなパターンで辛くなってしまうのです。
月経困難症
「月経困難症」とは、とくに出血が多い時期の24〜48時間の間、強い下腹部痛、腰痛、頭痛、悪心、嘔吐などが発生し、日常生活に支障が出たり、治療を必要とするほど症状が重いケースを指します。
【月経困難症の種類】・器質性月経困難症 …骨盤内に月経痛の原因となる疾患がある月経困難症
・機能性月経困難症 …原因となる疾患はないが月経困難症をともなうもの
「私の生理って重くて辛いんだよね。軽めの人が羨ましい…」と感じている人は、一度認識を改めてみてください。月経だから痛みがあるのではなく、上記のように原因となる疾患があり、その疾患のもたらす症状が月経とともに現れているかもしれないからです。
月経困難症の原因となる疾患とは、案外多くの方が持っている子宮筋腫、そして当事者が「歩けなくなるほどの痛み」「痛みで気を失ったことがある」と口にすることが多い子宮内膜症も該当します。
ほかにも、子宮の形が正常ではない(子宮形態異常)ために月経血流障害が起こっている場合などが考えられます。
疾患が見つかれば治療の手立てを講じることができますし、非ステロイド性消炎鎮痛剤や低用量ピルの内服といった薬物療法で痛みが軽減されることも多いです。
毎月大きながまんを重ねて心身共に疲れていては、仕事のパフォーマンスに影響するどころか健康そのものを損なう恐れもあります。痛みを放置しないで、ぜひ婦人科を受診してくださいね。
月経前症候群(PMS)
こちらは、月経中ではなく月経が始まる3〜10日前に自覚症状が現れ、月経の訪れとともに減少したりなくなったりするのが特徴です。
【月経前症候群〈PMS〉の主な症状】
●情緒的症状
うつうつ、イライラする
怒りが爆発しがち
不安や混乱におちいる
気持ちが落ち着かない
引きこもる など
●身体的症状
乳房のハリや痛みを感じる
下腹部の膨満感がある
下腹部痛、腰痛
頭痛、頭重感がある
関節痛、筋肉痛
体重増加
手足のむくみ など
上記の症状が、連続した過去3回の月経前5日間のうちに1つでも存在し、社会活動にはっきりとした差し障りがあれば、PMSと診断されます。
日常に差し障りがある月経症状というと、まず“痛み”を想像しがちですが、PMSには抑うつ、不安、情緒不安定といった精神的な症状が強く出る人もいて、とくに「PMDD=月経前不快気分障害」と病名が付けられています。
“気分”とか“不快”といった言葉が使われているため、「そんなの気合いの問題では?」「甘えでしょ?」と受け取られてしまいそうですが、このPMDDでも3〜8%の女性が、深刻な症状に悩まされています。
“月経”の痛みや重さは1人ひとり違う
PMSもPMDDも、仕事や日常が立ちゆかなくなくなるほどの症状を抱える人は、月経がある女性のうちのだいたい2%〜10%程度といわれています。ただ、そこまでひどくはないものの、実際にはこれまであげてきた症状に心当たりがある女性は少なくないのではないでしょうか?
実はPMS的な症状は、全女性の60〜80%が自覚しているといいます。
「仕事を休むほどではないけれど、痛い」
「生理休暇を取りたいけれど、使っている同僚がいないから…」
「身体に症状はないけれど、パフォーマンスが上がらない」
「イライラが止まらなくて、何も手につかない」
そういうしんどい状況をこらえて、月々多くの女性が仕事や家事などに向き合っているのです。
「女性なんだから、月経は来るのが当たり前」――確かにそうではあるのですが、だからといって「痛いのも、辛いのも当たり前」とするのはどうなのでしょう?
なぜ、毎月月経は来るのか?
月経痛はどうして起こるのか?
痛いのは本当にあたり前なのか?
実際、どのくらいしんどいものなのか?
重い月経痛を放っておくとどうなるのか?
どんなケアやサポートがあれば助かるのか?
そんなことを女性同士だけではなく、性別を超えた職場の同僚同士、上司、パートナー、家族など、すべての人たちと共有し、いたわり合える環境を作ることができればいいですね。
【ヒント】生活習慣の改善でグッと楽になることも
つらい月経痛は、日々の暮らしを改善することで軽減することもあります。今日からできる見直しポイントとして、以下の4点を提案します。
① 食生活の改善
② 冷え、血行対策
③ 月経痛解消体操の取り入れ
④ ツボ刺激などの補完代替療法
詳しくみていきましょう。
〈食事〉基本はやはり規則的にバランス良く
健康維持のためだけではなく、月経痛を軽減させるためにも、バランスの良い食事を規則的に摂ることはとても大切です。
加えて、大豆・ゴマ・小麦胚芽・いわし・かつおといった食品を意識してメニューに加えてみましょう。
これらの食品は、ビタミンB6やマグネシウムが豊富です。PMS症状の改善には、ビタミン、ミネラルの補給が役立つとされています。
またビタミンB6は、神経伝達物質と関係があり、ビタミンB6を摂取することで、イライラしたり、怒りっぽくなったり、情緒不安定になったりすることを和らげてくれるといわれています。
一方で、控えた方が良いのが、カフェイン、チョコレート、アルコール等の刺激物。また、血行が悪くなる“むくみ”を起こさないためにも、加工食品や味の濃い食品は避け、塩分の摂取を抑えましょう。
〈冷え・血行対策〉意識したい“めぐるカラダ”作り
下半身の“冷え”も骨盤内の血行を悪くし、月経痛がひどくなる原因になります。長時間のデスクワーク、ガードルやぴたっとしたパンツで体を締め付けることも血行不良につながります。
他にも、以下の4点を意識して暮らしに取り入れてみてください。
1. 毛布やひざ掛け、カイロなどで腰回りを温めましょう。血行が良くなって、痛みが軽くなることがあります。
2. 長時間のデスクワークも血行を悪くします。30分に1回は立ち上がって、屈伸運動やストレッチなどを行うようにしましょう。
3. ウォーキングやジョギングなどを習慣にし、全身の血のめぐりを良くしましょう。
4.月経時は、カラダを冷やすカフェイン入りの飲み物(コーヒーなど)は避けた方が無難。血行をうながし、イライラを抑えてくれるマグネシムが豊富に含まれる、ココアなどがおすすめです。
〈マンスリービクス〉骨盤を意識して動かして
定期的に適度な運動を行うことも、やはり健康維持と月経痛軽減双方におすすめです。カラダを動かせばリラックス効果も高まるので、月経痛の精神的要因も減らしてくれますよ。
月経痛を和らげる目的で運動を行う場合は、骨盤を意識的に動かして、骨盤内の充血をうながし、筋肉や靱帯を緩めるようにするといいでしょう。
【おすすめマンスリービクスの一例】
*ロールアップ&ロールダウン
椅子に浅く腰掛けて肩の力を抜き、上半身をゆっくり前に倒していきます。上半身を完全に倒したら足首をつかんでゆったりと2〜3呼吸。またゆっくりと上体を起こして元の姿勢に戻ります。
*片ひざ抱え
膝を立てて仰向けに寝ます。片方のひざを腕で抱え込むようにして胸元に引き寄せ、そのままゆったりと2〜3呼吸行います。元の姿勢に戻り、逆のひざを抱えて同じようにします。
*猫の背中
ヨガでいう「猫のポーズ」です。四つん這いになり、息を吐きながら手とひざの位置は動かさずに背中を丸めていきます。頭を下げ、ヘソのあたりを見ながらゆったりと2〜3呼吸。次に、息を吐きながらゆっくりと背中を反らしていきます。目線は天井に向けポーズをキープしながら2〜3呼吸。
〈補完代替療法〉ツボ押しなどを気軽に取り入れて
月経痛緩和に効果があると言われる手のツボを一例として紹介します。
*合谷(ごうこく)
手の親指と人差し指の骨が交わるところにあるツボ。血の巡りをよくして痛みや炎症を沈めます。まんべんなくもみほぐすように刺激を。
*内関(ないかん)
手首の内側。手と手首の境目から指3本分ひじ側に進んだところにあるツボ。自律神経のバランスが整い不快感が和らぎます。
*三陰交(さんいんこう)
内くるぶしの頂点から指4本分あがったところで、骨と筋肉の境目にあるツボ。控えめな力でゆっくりと息を吐きながら押し、息を吸いながら戻します。これを1度に3回ほど繰り返しましょう。
女性の人生の6年半が「生理中」
一生のうちで女性に月経が訪れる期間は35〜40年間。
子ども産む数が多かった100年ほど前の女性たちは、生涯に50〜100回程度の月経を経験していましたが、現代女性はなんとその約9倍の450回。時間に換算すると6年半以上もの時間を月経とともに過ごさなければいけません。
一度きりの人生のこれほどまでに長い時間を、痛みに耐えて過ごしたり本意ではない低いパフォーマンスに甘んじたりするのは、あまりにもったいないと思いませんか?
【関連記事】
だた、重い月経痛を患う現代女性が多いのは、月経回数が増えたことでトラブルが起こりやすくなったせいもありますが、一方で気持ちの問題が影響している場合もあるといわれています。
「また生理」
「毎月毎月ゆううつ…」
「ああ、またあの痛みがやって来るのか」
といった嫌悪、恐怖をともなう、月経に対するネガティブな感情。
また、幼い頃に周囲の大人や異性から言われた心ない言葉で傷ついた経験、女性であることや自分自身を肯定的に受け入れられない、自信がないなどの心理的な在り方も月経痛に関係があるといわれるようになってきました。
月経痛から女性が解放されれば社会は変わる
すべての原因を取り除くことは難しいかもしれません。けれど、少なくとも食事の改善や運動をとりいれて、少しでも快適に月経期間を過ごせるようにすることはできます。病院で適切な治療や投薬を受けることで、痛みやツラさから解放されることはできます。
女性の身体的、精神的、社会的に影響を及ぼす月経は、つまり、女性の人生そのものに大きく影響を及ぼすもの。一人ひとりが自分のカラダと向き合って、QOL(生活の質)を少しでもあげることができたら、個人の人生のみならず、きっと社会全体が前向きに変わるのではないかと思っています。
西岡 笑子(にしおか・えみこ)
防衛医科大学校 医学教育部 看護学科母性看護学講座教授。順天堂大学医学部非常勤講師。順天堂大学医学部助教、神戸大学保健学研究科准教授を経て現職。母性看護学・助産学とウィメンズヘルスが専門分野。2児の母でもある。mezame女性研修の監修を行う。
(構成/阿部志穂)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?