“ピル”を味方にするために知っておいてほしいこと
「はたらき続ける上で毎月の月経がつらい」
「来月の大事なイベントに月経がかぶってしまいそう」
そんな女性の悩みは、婦人科を受診することで解決できるかもしれません。前回は、ピルを服用する目的やよくある誤解についてお話しましたが、今回はどのようなニーズにピルが対応できるのか、服用のタイミングや日数の目安、そして心に留めおいていただきたい注意点についてお伝えします。
*
現在日本国内では、婦人科を受診して血液検査などで健康状態を把握した上でピルが処方されることがほとんどです。あなたのライフスタイルに合わせて服用方法や薬の種類をドクターと相談しましょう。
【ニーズ1】避妊したい、普段の月経を軽くしたい
1ヵ月のうち21日間服用し、7日間休薬して月経を起こすタイプや120日間連続服用が可能なタイプなどがあり、体質やニーズに合わせて選べるようになってきています。診察の中で適している薬剤を選び服用をスタートさせます。
基本的には自費診療ですが、月経時に症状がつらい月経困難症や子宮内膜症などの治療として処方される場合には保険適応になるので、クリニックで相談してみましょう。
【ニーズ2】月経の日を移動したい
一時的にピルを服用することで月経日を移動させることができます。服用のしかたによって早めること、遅らせることどちらも可能です。
●月経を早めたい場合
早めたい月経から1つ前の月経日の早い時期(5日目程度)から約2週間中容量ピルを服用します。飲み終えて2~3日後に少量の月経が始まるため、通常よりも月経日を早められます。
*服用日数などはクリニックの方針によって異なる場合があります。月経中からのピル服用が必要なため、1つ前の月経前、遅くても月経中に受診しましょう。
*月経が来てほしくない期間(イベント期間中)に服用せずに済む利点がありますが、服用後の月経が何日続くかは個人差があるので、長引いて月経が来てほしくない日(イベント)に重なってしまう可能性もあります。
●月経を遅らせたい場合
月経開始予定日の5~7日前から月経を遅らせたい日まで中容量ピルを服用します。飲み終えて2~3日後に軽い月経があります。
*排卵後のピル服用になるため、妊娠検査が必要な場合があります。服用中に月経を遅らせたいイベントがあることになり、中容量ピル服用のマイナートラブル(吐き気などの不快感、出血など)が出るケースもあるため注意しましょう。
*中容量ピルは、他にも不正出血を止める方法の1つとして処方される場合があります。
原則、自由診療のため費用は医療機関によりますが、月3000円前後になることが多いようです。
【ニーズ3】緊急避妊が必要な場合
性交時に避妊をしなかった場合や避妊の失敗などが起こった時、性被害に遭ったなどの際に服用し、妊娠を防止する方法のひとつです。
性交から72時間以内に黄体ホルモンを主成分としたピル(レボノルゲストレル:LNG)を服用します。妊娠する危険性を90.8%減少させることができます。できるだけ早い時に服用することで妊娠確率を下げることができます
ただし、あくまで緊急事態の対処法なので、日常的な避妊法にはなりません。自由診療のため、費用は医療機関によりますが、内服指導料・処方料込で1回1万5000円前後が多いようです。
*現在は、緊急避妊法は婦人科での受診が前提となっている場合がほとんどです。できるだけ早く受診するようにしましょう。
*性犯罪や性暴力被害の場合、各地域に「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター」が設置されています。電話、面接、メール等による相談や、地域によっては医療費等公費負担制度も設けられています。
《資料》
性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター(内閣府男女共同参画局)
体調や状況などにより服用できないケースも
さまざまな女性のニーズに対応でき、毎日を快適に過ごしたり仕事でのパフォーマンスを上げるのに役立ちそうなピルですが、「服用すれば、100%問題解決!」とならないことも、ここでお伝えしておきたいと思います。
長期間服用することが多い低用量ピルは女性ホルモンの含有量も少ないのですが、それでも不快症状(副作用)を感じる方はいます。
皆さんにご紹介するにあたり、私自身も数ヵ月ピルを服用したことがあるのですが、服用開始当初のみとはいえ、なんとなく気持ちが悪い感じがありました。人によっては吐き気の他に、頭痛、不正出血、むくみなどの症状があることもあるようです。
血液が固まりやすくなり、血栓症などの重篤な副作用が起こることもありますし、喫煙者や、手術予定の人、高血圧などで服用が禁止されるケースもあります(禁忌例)。
必ず婦人科の専門医に相談したうえで服用するようにしましょう。
「うっかり忘れ」で効果が得られなくなるのでご注意
また、ピルは毎日決まった時間に飲むことで効果が表れる薬です。飲み忘れるとその効果が得られにくくなったり、なくなったりしてしまいます。「忙しいから」と婦人科が受診できず、ピルの服用が途切れても同じです。
効果があるのに飲み忘れや「なんとなく」でピルを止めてしまうのはもったいないかもしれませんね。はたらく女性は多忙だからこそ、定期的に婦人科に行く時間だけは確保して、自分のケアをしてもらいたいと思っています。
若い学生たちにすすめているように、ピルは決して危険な薬ではありません。私の大学生の娘も、月経管理のためにピルを服用しています。いきいきとした毎日を送るために、また仕事で十分なパフォーマンスを発揮するためにも、上手に活用してください。
最後に、男性にも気をつけてほしいこと
ピルには一定の避妊効果があることが知られていますが、「ピルを飲んでいるからコンドームはつけなくていいや」というものではありません。
HIV(エイズ)をはじめとした性感染症(梅毒、淋病、クラミジア、ヘルペスなど)は、ピルでは防げません。コンドームをつけて、性器への直接の接触を避けることでしか感染は予防できないのです(ただし、コンドームも万全の予防方法ではありません)。
女性が自分のからだを守るためには、このことを忘れないでほしいと思います。パートナーの男性にもきちんと知ってもらい、安全でやすらげる関係づくりへの配慮がお互いにできるといいですね。
西岡 笑子(にしおか・えみこ)
防衛医科大学校 医学教育部 看護学科母性看護学講座教授。順天堂大学医学部非常勤講師。順天堂大学医学部助教、神戸大学保健学研究科准教授を経て現職。母性看護学・助産学とウィメンズヘルスが専門分野。2児の母でもある。mezame女性研修の監修を行う。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?