
夕波の遠鳴りが聞こえる。
16年来の付き合いがある友人と、今年のGWに岩手県へ旅行に行った。とはいっても、綿密な旅行計画は立てておらず、ほぼほぼ弾丸旅行に近いもの。
タイトな日程だったこともあり、足を運べた観光地らしい観光地は『龍泉洞』のみだった。
ただ、「海が見える場所でゆっくりしたい」というのが希望だった僕にとっては、十分に満足できる旅だった。なぜなら、窓から海を見渡せる旅館に泊まれたから。
ひとしきり観光を満喫した僕たちは、夕方頃に旅館へ到着する。旅館は、海辺を走る国道44号線沿いに静かにたっていた。
予約前に入念に調べていたので、窓からの絶景は把握していた。だけれど、実際に目の当たりにしたその風景は、想像よりも“絶景”だった。
夕間暮れの朱色に包まれた海。遠くに見える磯場には、カモメやウミネコらしき鳥が数多くとまっていた。
そしてなにより、夕波の遠鳴りが耳にしみる。目をつむれば、白砂を転がしながら満ち引きを繰り返す浜辺が、まるで目の前に広がっているかのように錯覚するほどだ。
窓を閉めても遠鳴りが聞こえてくる。
「今夜はさざ波の音でぐっすり寝られそうやな」
「え、そうか?俺にとってはただただうるさいだけだわ」
夕波の音が心地よいと感じていたのは、どうやら僕だけだったようだ。
今でも、目を閉じればあの日の遠鳴りが聞こえてくる。