はじめてお爺ちゃんになったよ。
秋田の冬らしからぬ青さが広がる空のもと、午後3時過ぎに愛犬の散歩に出かけた。
先月の半ば以来、雪らしい雪は降っていないと記憶している。今年は暖冬になるとは言われていたけれど、ここまで甚だしい(はなはだしい)とは思わなかった。
とにかく雪がない。例年ならば、あたり一面が白銀世界に変貌しているはず。しかし、眼前に広がるのは秋とほとんど変わらない景色だ。秋と違うのは、先月降った雪の溶け残りが、離れ小島のように点在していることくらいだ。
これだけ雪が少ないと、ノーマルタイヤでも余裕で走れそうだ。ノーマルタイヤのままで車庫に冬眠状態の愛車でも引っ張り出して、どこかにドライブにでも出かけたくなるな。
などと思案していると、近所に住んでいる幼馴染の父親と鉢合わせた。彼もまた、愛犬の秋田犬と散歩中だった。
「こんにちは!そういえば、年末年始に〇〇〇〇は帰ってきた?」
「〇〇〇〇は1月2日に来たよ」
「そうなんだ。〇〇〇〇は元気でやってる?」
幼馴染の◯◯◯◯とは、実は中学校を卒業してから一度も会っていない。
「元気だよ。去年の10月に子どもが生まれたんだ。だから、俺もお爺ちゃんになったよ」
幼馴染の父親は、破顔(はがん)しながら嬉しそうにそう言ってきた。
「そっかあ、〇〇〇〇も父親になったのか。なんだか感慨深いね。〇〇〇〇によろしく言っておいてね」
「わかった。じゃあまたね」
ゆっくりとした足取りで再び歩きはじめた、幼馴染の父親の背中をしばらく目で追う。
心なしか、幼馴染の父親の足取りは軽く弾んでいるように見えた。