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洋書天国へようこそ 宮脇孝雄
この本はいろんな海外の名作を、原文を交えながら紹介してくれている本です。
ヘミングウェイや、CSルイス、レイモンド・チャンドラー、エドガー・アラン・ポーなどなど。ジャンルは様々に、海外文学の有名どころがたくさん。
Kindleの無料期間にダウンロードして読んだのだけど、面白くていまだに手放せないです。
お気に入り。買おうかな。
読んだことあるものを見つけるのも楽しいし、
まだ知らない作家さんのことを知れるのも興味深いです。
私は「ここにこんな単語使ってるの最高〜!」っていえるくらい原文を味わえるほどの英語力はなく。
原文解説が入ってて楽しめるかな、という不安もありましたが…
実際読んでみるとものすごく夢中で読める本でした。
読むと、あれも読みたい!これも読みたい!と、読書欲を掻き立ててくれる本でもあります。読書スランプ期に読むのもおすすめです。
気になった作品
◉好きな作家さんのところでゆくと、以前も記事にしたことのあるチャールズ・ディケンズの章がおもしろかったです。
クリスマス・キャロルを書いた作家さんなのですが、執筆時は躁鬱を患っていて、物語の運びにもそれが現れているらしい…
すごくテンションがぶち上がっている躁状態で書いている時と、
ものすごく気分が落ち込んでいる鬱の時とで文体が全然違う。
自伝映画でも結構ハイテンションで叫びながら創作するシーンがあって、そういう性格、もしくは芝居なのだと思い込んでいたけど、違ったんですね。
リアルでぶち上がっていたことが、原文だとすごくわかるみたいです。
また、クリスマスを発明したということも誇張ではなく、この物語の波及から、なんでもない日にそういうしきたりが始まったらしいです。
文化を作り出しちゃうのがすごい。
◉エラリー・クイーンの「エジプト十字架の謎」も気になりました。
推理小説は好きな方だけど、この人の本はまだ読んだことないです。
名前だけ聞いたことある…。
このお話は、十字架に首無しの死体がはりつけられて見つかるという、凄惨かつ奇妙な殺人事件の謎を解くもの。
宮脇さんの解説を読むと、犯人がなぜ被害者の首を切ったのか、というところが鍵らしく…。
その狙いは身元特定を遅らせるため。
今の時代だと、指紋認証やDNA鑑定ですぐ分かっちゃうけどね、という言葉を読んで、ふと立ち止まる。
なんかすごく似たような事件をどこかで読んだことがある気がするなあ…
と、しばらく考えて、浮かんできたのは東野圭吾さんでした。
容疑者Xの献身!!!!
たしか、あの話も首無し死体で始まるんだよね。
しかも、時代が現代だから、首だけではなく、
身元がわからなくなるように手足の指紋が、ガスバーナーか何かで焼かれていたはずなんだ…
クイーン作品には、Yの悲劇とか、Xの悲劇もあって、タイトルにもなんとなく影響が伺えるような…ひょっとして現代版アレンジなのかな!
そういうミステリの系譜!とちょっと感動してしまいました。
ミステリのツウだったら一発でわかることなんだろうけど。
いつか読もう、クイーン。
◉翻訳らしいところでは、C.Sルイスのナルニア国物語が面白かったです。
ナルニア国に迷い込んだ男の子のエドマンドが、悪役の白い魔女に出会い、いい人だと勘違いしてお菓子をねだるシーンがあります。
原文だと、ターキッシュ・ディライトといって、日本人には馴染みの薄いイギリスのお菓子が出てくるのですが、日本語訳だとプリンと訳されているんですね〜。
この訳は今では失笑をかっている
と書かれているんですけど。
実際、中学生の時に読んで、この部分で笑ったことを思い出しました笑
それまですごくイギリス情緒いっぱいだったのに、いきなり馴染みがありすぎるワードだったのと、響きが可愛くて拍子抜けするのとで、何故かすごく笑った記憶があって。
必死で、「どうかお願いです、陛下。プリンをください!あと一つだけ!」っいってるエドマンドのシーンもすごく覚えています。
魔女の食べ物を食べると、他のことはもう何も考えられなくなってしまう、悪役に心を奪われてしまう一大事なんですけどね。
でも、宮脇さんは昭和の世代にとってはプリンがどれだけ憧れの食べ物だったかを説明して、訳者がいかに的確に言葉を選んでいるかを擁護されていました。
エドマンドが無我夢中になってしまうのも無理ない食べ物。
スーパーで気軽に買えるようになったのは、1970年以降らしいです。
そういえば、ナルニアって物語の進行文で、「君たちの時代よりもっともっとお菓子が美味しかった時代の話です。」みたいなことも、書かれていたような記憶…。
子どもだったからこそ、どんだけおいしんだろうか…となんとなく羨ましく思った気がする。
今の時代、どんなお菓子だったら訳としてふさわしいのでしょうか。
考えるなぁ…
◉作家としてすごいと思ったのは、アントニイ・バージェスの時計仕掛けのオレンジ。
というか、これ映画は見たことあるんだけど、原作があったんですね〜。
知らなかった。
映画の方はスタンリー・キューブリック作品で、公開当時は過激すぎてしばらく放送禁止だったなんて耳にしたことがあります。
実際今見ても、なかなか暴力シーンに溢れてて、見た時は名作だとは思いつつ、ショックだった記憶です。
何がすごいかというと、このバージェスという人、言葉遊びが大好きで、オリジナルの若者言葉を考案したことですね。
実際、映画でもよくわからない言葉がたくさん出てくるんだけど。
近未来の話だから、今と同じ言葉を話してるわけないだろ、という理念のもと、リアルさを出すために、よくわからない造語がたくさん使われています。
ナッドサット語と名前もついていて、あまりにも難解になるため、本の巻末には辞書まで掲載されているらしい…。
たしかに、昨今も「ゴン責め」なんて言葉が流行っているし。
言葉の流行ってすごく早いよね…。
しかし、作ろうと思ってもなかなかつくれないことを考えると、天才的だなともいます。
このタイトルも昔下町のイギリスで使われていた「時計仕掛けのオレンジのように奇妙な」という比喩表現から取った、と作者は説明しているそうですが、
言語研究者たちは、「そんな言葉が存在した記録はない」としているそうで、つくづく謎な作家さんです。
◉アーネスト・ヘミングウェイの移動祝祭日
これ、ずっと気になってる。
昨年、老人と海で初めてヘミングウェイを読んだけれど、正直あんまり相性は良くなかった…。
おじいさんがずっと大魚と戦っている話で、いまいちどう扱っていいのかわからない話でした。
でも、この本で紹介されていたこの作品はちょっと読んでみたいかも。
ヘミングウェイがパリで過ごしている時の記録で、レストランで他の席に座っている女の子を眺めながら、あーあの子かわいいなーと、牡蠣を食べているだけだったりするんだけど。描写がすごく美味しそうでおしゃれ。
ヘミングウェイは結構女好きで、内向的で繊細な人が多そうな作家さんの中では、めずらしく男らしいというか、荒っぽいイメージがありますね。
近いうちに読みたい。
他にも読んでみたい本がたくさん。
まだ知らない作家さんってたくさんいるなーと圧倒されます。
時代読みといって、同じ時代の違う国で読み比べするというのも書いてあって、すごく面白そうだなぁと思いました。
どう影響しあっているのかとか、同じミステリでも、お国柄で好みが分かれたとか、そういうのも知っていくと学びが深まりそうです。
海外文学、読んでみたいけど何から読んでいいのかわからない!という人にもおすすめの一冊です。