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【基礎教養部】『生きのびるための流域思考

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そちらの記事リンクは後日追加致します。しばしの間お待ちください。
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日本と河川の繋がりは深い。
日本ではどの都道府県、どの地方、どの都市に行ったとしても必ず河川を目にすることだろう。川自体が観光の対象(温泉街や非常に透明度の高い川などなど)になっている場合もあるだろうし、川が日常の風景に溶け込んでいる様に趣を感じるということもあるのだろう。それに加え、いわゆる観光の対象としてだけでなく便利な存在としても用いられる。県境の設定(日本を飛び出して考えれば国境の設定)や荷物を運搬するための運河など、我々の手の届かない自然の力を上手に活用しているというわけである。

日本の昔話にも川という存在が登場することはしばしばある。桃太郎や一寸法師などの誰でも知っているような昔話においても、川はごく日常的で当たり前のものとして登場している。
古くは江戸などで荷物の運搬に川に浮かべた舟を用いていたという歴史もある。
また、少し本書の内容とは離れるが、死後の世界の話でも川は登場してくる。
三途の川などはまさにそれである。どうやら生前に良い行いをした者は船で川を渡ることができるが、悪人は流れの急なところを泳いで対岸まで渡らなければならないらしい。
昔話や死後の世界といった話まで書いてやや脱線気味ではあるが、要するに川が我々人間にとっていかに日常的なものであるかは伝わっただろう。

その中でも本書が対象としているのは、「都市と川」ないしは「都市と流域」というところである。まず、ここで流域という言葉の意味を確認しておこう。著者の岸由二氏の言葉をそのまま引用すると流域とは、「地球という水の星の大地に降る雨を川に変換する不思議な大仕事を果たし続けるマジックランド」であるらしい。やや詩的で抽象的な表現だが、水の循環とともに発生する現象・存在こそが流域なのである。
このように書いてはいるものの、私自身もこれまで流域という言葉をしっかりと認識していなかったし、ほとんどの人は私と同じように流域という言葉に聞き馴染みはないだろうと思う。
しかし、日常生活の中で川はよく目にしている人が大半を占めるというのは面白い。
現在自分の住んでいる町にも、県を跨ぐような比較的大きな川や水がとても澄んでいてよく水遊びをしていた川(今では川遊びは禁止されているらしい)があるが、氾濫を起こしているのは見たことがない。豪雨が降った時などは、水が茶色く濁り水量も増しているのは知っている。特に大きな川の方の上流部にはダムがあり、水量を管理している。また、駅の近くに川の流れている場所では、川がかなり橋の下に位置している。
もう一つ自分の身近なところの例を挙げるとすれば、市役所の移転である。この移転は市役所の老朽化が原因なのかと考えていたが、話を聞いてみるとどうやらそれだけでは無いようなのだ。どうやら、ハザードマップ上で現在の市役所の位置が川が氾濫した際の浸水予想地域に存在していたらしい。そのような背景を知ると、図らずとも「流域思考」が自分の都市に生かされていると実感できたのだった。
これがおそらく「都市と流域」の関係なのだろうと思う。都市をデザインしていくにあたって、元から存在している川の位置は大きく変えることは難しい。しかし、重要な建物はしっかりと建てていく必要がある。そこで大切になってくるのが流域思考なのだ。

最後に、私自身の本書を読んだ感想を書いてみようと思う。まず「生きのびるための流域思考」という言葉がかなり面白いと感じた。流域の後に思考という言葉が来ること自体予想できなかったこともあり、タイトルに惹かれる。
中身としても流域とは何かということがしっかりと理解でき、面白いと思う。一つ言うことがあるとすれば、鶴見川流域の話は鶴見川をよく知っている人でなければ実感が湧きにくいという部分だろう。個人的には流域という言葉一般についてより掘り下げてもらえれるとより面白かったと感じた。

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