見出し画像

『無限と連続』遠山啓【基礎教養部】

はじめに

この記事は私の所属するジェイラボというコミュニティの書評活動の一環として書かれたものになります。後日公開される書評記事を見ていただけると大変嬉しいです!
書評の記事はこちらになります。

この本を選んだ理由

私自身数学を専攻しているのですが、数学に関しての本を読むのは専門書が多く、数学がテーマとなっている一般書を読む機会は多くありませんでした。そんな私の少ない数学一般書体験の一つは、以前書評活動として吉田洋一氏の『零の発見-数学の生い立ち』という本を読んだことでした。この本も本書『無限と連続』と同様に名著とされる本ですが、一読したときに0という概念の発見がもたらしたことの大きさに改めて気付かされました。数学を学んだ人でなくとも理解できるような平易な言葉で説明されていることに加えて、自然の世界に一見存在しないはずの零という概念が登場したことによってどのように世界が変わったのかが明快に示されています。この明快さの快感に釣られてまた数学の名著を読みたくなったというのが本心でです。

内容について

本書は「無限」と「連続」というテーマについて具体的に濃度や群について考えていくことでそれらのつながりを明らかにしていくという構成になっている。日常の場面において、無限や連続という概念を使って何かを考えることはたまにあるように思うが、数学で登場する無限と連続とはニュアンスが若干異なる。また、無限と連続はそれぞれ別々の場面で使われていることが多く、数学におけるこれら2つとのギャップは大きい。数学を専門に学んでいる者はこれら2つの概念が密接に関係している事を知っていると思うが、全員がその関係を深く知っているわけではない。そこで2つの性質を個別にそれぞれ述べていこうと思う。

数学における無限(infinity)は、数や集合がどれだけ大きくても終わりがない状態を指します。以下にその基本的な概念をまとめます
無限の種類
実無限 (Actual Infinity)
 - 具体的に存在する無限。例えば、実数直線上の点の数は無限です。

潜在無限 (Potential Infinity)
 - 理論的に無限に続くもの。例えば、自然数の列はどこまでも続くが、特定の時点では無限の数は存在しません。

無限の扱い
無限集合
 - 無限に要素を含む集合。自然数全体の集合(ℕ)、実数全体の集合(ℝ)など。

濃度 (Cardinality)
 - 集合の大きさを表す概念。無限集合でも、その「大きさ」には違いがあります。
 - 例えば、自然数の集合と実数の集合は異なる濃度を持ちます。自然数の濃度を「可算無限」、実数の濃度を「非可算無限」と呼びます。

無限の性質
無限の加法や乗法
 - 無限同士の加算や乗算では、直感とは異なる結果が得られることがあります。例えば、無限大(∞)と無限大の和や積も無限大ですが、∞ + ∞ = ∞や ∞ × ∞ = ∞といった形。

極限
 - 数列や関数が無限に向かうときの値を考える場合、極限を用いてその挙動を解析します。

悩ましい問題
無限のパラドックス
 - 無限を扱うと、直感に反する結果が出ることがあります。例えば、ヒルベルトのホテルのパラドックスなどなど…。

無限は数学の中で非常に重要な概念であり、数論、解析学、集合論など様々な分野で深く研究されています。しかし、その性質はしばしば直感に反し、哲学的な議論も引き起こします。

ざっくりと無限の性質をまとめてくれているが、ここで注目したいのは無限はブラックボックスであるということである。有限の範囲では起こり得ないようなことが起こったり、直感に反するようなことがしばしば起きるのだ。これは無限の特筆するべき性質と言えるだろう。分かりやすい一例として濃度の話をしてみよう。簡単に言えば、無限という制約を課した時には自然数と整数の個数は同じとみなせるというものである。数学的には集合同士を全単射として繋ぐことができる(一対一対応の関係を作ることができる)と集合の大きさは同じになる。それに対して無理数の濃度というのは自然数、整数などとは異なる。高校までで勉強する数学の感覚ではこの無限の感覚というのは分からない。このように無限が絡むと有限の時では考えられないような結果が見えてくるのだ。それほどまでに無限は奇妙なものなのである。

次に連続について見ていく。

数学における「連続(れんぞく)」は、主に以下の2つの文脈で理解されます。

1. 連続関数(連続写像)
  -定義
ある関数 f(x)が区間内で連続であるとは、任意の点cにおいて、関数f(x)の値がその点の近傍の値に「滑らかに」近づくことを意味します。
 
性質
  - 連続関数は無限区間でも値が急激に変化しない。
    - 中間値の定理や極値の定理が適用可能。

2. 連続体(集合論における連続)
  -概念
集合論では、「連続」はしばしば「連続体」や「連続体仮説」と関連して議論されます。特に、連続体仮説は、実数の連続体が可算集合より大きく、かつ最小の非可算無限集合であるという仮説です。ここでの「連続」は、無限集合の性質としての「連続性」を指します。

数学における連続の重要性
- 解析学
微分積分学の基礎を成す概念で、関数の振る舞いを理解するために不可欠です。
- 位相空間論
連続性の概念が空間の性質を定義する鍵となります。

このように、「連続」は数学のさまざまな分野で異なるが関連する意味を持っています。

ここで出てきたように、連続とは解析学と位相空間・集合論で特に重要な概念として現れてくる。例えば極限や微分・積分といった概念を考える際には、連続という概念なしに考えることは不可能である。上の説明でも無限という文言が多く登場したように、無限と連続は表裏一体のものとして取り扱わねばならない。

おわりに

本書は数学を深く知らない人でも、無限と連続がどのような関係にあるのか、それらがどのような歴史を紡いできたのかが書かれている。数学とその歴史に興味がある方には是非一度読んでいただきたい。

いいなと思ったら応援しよう!