「ローストビーフ」
昨日の夕食は「ローストビーフ」だった。それに合わせてビールを少々飲んでると懐かしい感じとちょっと酔いが来たのか悲しくなった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
二十歳の成人式、私は東京にいた。美大の受験のため上京したのだ。希望に満ちた一人暮らし。なんでもスケールのでかい『ザ・トウキョウ』
成人式の前に何回か地元の友に「成人式くらい帰ってこいよ」といわれたが人生を駆けるくらいストイックになってたため、地元に帰らなかった。
でも、勉強なんてできなかった。みんな浮かれているのに勉強なんてできる分けない。地元に帰れば良かったとその時おもった。
その日の東京は雪で真っ白で振り袖姿の二十歳の女性達がよちよち多摩川の土手を歩いていた。
それを見て、一度外に出てみようと思い。原付で雪道の中、立川の駅前まで行ってみた。
華やかな成人式を迎えた若者でいっぱいだが知り合いもいないのでかえって落ち込んだ。
自分のアパートに帰る時ビールを何本か買ってかえり、東京の友だちに電話したがみんな用事があって、一人アパートにもどった。
暖房が効くまで間、
本気で「自分何やってるんだろう」
「何のためにこんな日に寒さを耐えてるんだろう」
孤独感に苛まれた。
そして冷たいビールを開け一気に飲みほした。
暖房が暖かくなって、ホットとした。
そして、涙が出た。
ボロボロのダウンを脱いで冷蔵庫を開けた。
中には親がお歳暮としてもらった「ローストビーフ」をまた宅急便で送ってもらったものだ。
それを真空パックから取り出し
泣きながらかじった。
むさぼりついて泣いた。
ビールで流し込んで泣いた。
そんな「成人式の日」だった。
それから、時を経て都落ちも経験したところで故郷に戻った。そしてそんなことを思い出して悲しくなったのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
次の日、ピザ屋のバイトの配達の帰りに眺めのいい緩いカーブを下りてる時、
「今は別にあの頃みたいに寂しくないな。
みんないるし、
あの頃は人生を背伸びして生きていて、
なんとか自分の理想に届くように行動してたけど、
マイペースも心がけなきゃな。
それは重要だ」とかおもった。
自分にあった道があるだけいいことなんだな。
ていうかなんで思い出の味は
『ローストビーフ』なのかな?
かなり贅沢じゃない?とか。
孤独な貧乏話の方が思い出に箔がつくんじゃない?
とか考えながら…
六月の風になって、
緩い下り坂をバイクで降りていった。