【音楽紹介】Lil Ash 懺悔のラップスタア誕生 応募動画
とりあえずこの曲を聴いて欲しい。Lil Ash 懺悔というアーティストがラップスタア誕生という番組のオーディションに応募した時の映像です。
まずこの曲はフック(サビに相当する)からスタートする。そのサビの中で大体の自己紹介を完了させてしまい、その中で「お金がないこと」「身体(精神)的な問題があること」「今どこにいるか」などが語られます。
その中でも特に注目してほしいのは、「兄貴からもらったお気に入りのヴィトンのコピーのカバン」「そんで喧嘩別れしちゃったママに渡す札の束」
のような部分です。
過去に発表した音源の中で、ケースワーカーや支援者に「もっと家族のこととか書いたらいいのに」というありがた迷惑なアドヴァイスをされていることが歌われていたのだが、ただ家族への感情を歌うだけでなく、自己紹介の一部に組み込む、というかなり高度なテクニックを用いています。あと父親への言及がないっていうのもポイントですが、これは後で効いてきます。
の後にそれぞれ配置されていますが、聴く人がLil Ash 懺悔のバックグラウンド想像するのに難しくないような展開をしていて自己紹介ラップのフックとしては満点の出来だと思います。最後に他の出場者への勝利宣言でフックを閉じるところまで流れがとても綺麗(というか話が飛び散ってない)。
ヴァースでは彼の半生、人生のうねりが描写されます。時系列を前後させて描写することで、
の効果倍増です。半生を開陳したあと、それについての要約を、最初のフックで言及された「ママ」の不在への再度の言及でまとめる...起承転結の「承」の展開としては1000点満点だと思います。ライフイベントをピックアップしつつそれを綺麗にまとめるの、すごく上手い。
さあここから彼の本領発揮です!!これまであった全てのマイナスを力に変えてくれます。もう一度この歌詞を見てみましょう。
「転」としてはここは国宝級ヴァースだと思います。
このパートの目的、つまり「昇華」を提示します。ですが、「痛み/悲しみを力に変えるってなに?」「じゃあどうやって?」と思うかもしれません。
ここからはまあ私の想像なんですが、父親なしの一馬力家庭だと経済的に苦しいことが多いのは想像に難くないと思います。それに加えて彼には精神障害がある、という人生における「あきらめ」の連続に繋がる、ということが想像できるはずです。
この部分の締めくくりである「仕方ないだろ!」の部分って、きっとLil Ash 懺悔が親や周囲の大人に色々なことを無理矢理納得させられた時に死ぬほど聞き飽きた言葉だったんじゃないかな?と(私は)思い至りました。 その言葉を、これまで受けてきた「痛み」を、競争相手たちをなぎ倒す「力」に昇華し、聴く人(その中には「ママ」や周囲の大人もいるでしょう)に突きつける。 展開が完璧すぎる。本当に美しい。
そしてもう一度フックに戻ります。彼の半生と「昇華」のスキルフルさを見せつけられた後、このフックの説得力と攻撃的な三連符フローがより効果的に聴く人の頭を揺らします。なんてクリエイティブな2分間! ノーベルラップ賞あげたい。
みんなもっとこれ聴いてくれ!! 以上!