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存在しない友達との思い出を語る【後編】

前編をまだお読みでない方はこちらからどうぞ。
存在しない友達との思い出を語る【前編】|通学路徒歩子 (note.com)


後編ではもう、空想の~とか架空の~とか付けず、イマジナリーフレンドの存在を当然ものとして、私に見えていた世界の事を語ります。

なぜかイマフレの話とかしたことない後輩から「先輩、なにも娯楽がない土地に住んでる人みたいっすね」って言われたことがあります。


引っ越し

(イマジナリー)友達を増やしたい、みんなでワイワイやりたい。という話をタルパさんとし、「とりあえず、今の山小屋では友達と騒ぐのには向かないから、都会にセカンドハウスを持とう」ということになった。

引っ越しのため、住みたい街を Google map で調べて、ストリートビューで歩き回った。
名古屋市某所、薄緑の外壁の、外階段の付いた建物が素敵だったので、新居はそこの二階に決めた。

次は内装決め。映画やドラマに出てくる部屋って、やたら素敵なのが多いよねと思って検索すると、映画に出てくる部屋を紹介する シネマどり というサイトが本当にあって驚いた。部屋の画像がたくさん掲載されている上、見取り図まで作成されていて最高。
どれも素敵とシネマどりを眺め、見たことのない映画に出てくる部屋が気に入って、それを採用した。
そこは二人の女の子が一緒に住んでいる設定のマンションで、ダイニングキッチンの他に部屋が二つあり、一部屋は黄色、もう一部屋は青色を基調としてお洒落にレイアウトされていた。私たちはそれぞれを自分の部屋にした。ダイニングはパーティーするのに十分な広さがあるし、個人の部屋があるから、人を家に上げてもプライバシーも守られる。
映画は結局見ていない。

メイドの運転する軽自動車で森を抜け、長い下り坂を降りると町がある。
町で電車に乗り、長い長い間揺られると、新居のある街に着いた。

Google式友達探し

それから、本題の友達作りに入る。
私はこの世界の創造主だから、自分と気の合うキャラクターを作って今日から友達、とやるのは簡単だ。でも、この世界はファンタジーにはしたくなかった。だから、現実でも実行可能な方法で、友達を探すことにした。

新しい友達とは、絶対に本の話がしたい。でも、本を読む人は少ないし、note みたいな長い文章を読んでくれる人さえめちゃくちゃ貴重だ。うちの母親なんて、私が書いた小説を見せたら「エエー、こんな長い文章読む人なんているの~?」って言ってた。本気で言ってた。

なので、普通に歩いていて本好きと出合うのは奇跡みたいな確率だ。でも、同士は日本のどこかには必ずいる。少なく見積もっても五千人くらいはいる。だって、そうじゃないと私の好きな作家先生方が本を売って生計を立てていることの説明がつかない。

そんなまばらに散っている同士を見つけるのに、私たちは「Google社採用試験方式」を取ることにした。
Google社は、高速道路沿いの看板に、高度な数学の知識がないと解けない問題を書いて掲示した。問題の答えはURLになっており、そこにアクセスするとさらに難解な問題が出される。それらを解き進めていくと、Googleの特別採用ページにつながる。こうして優秀な人材を効率的に採用しようという試みが過去に行われていたのだそうだ。

私たちは、これを真似することにした。
私たちと同じ趣味を持っている人が集まる場所と言えば、高速道路ではなく図書館だ。
図書館の、私たちの好きな何冊かの本の間に、同じジャンルが好きな人でないと分からない問題を書いた小さな紙を挟んでおく。もちろん問題の答えはURLになっており、そこにアクセスするとさらにマニアックな問題や性格診断が出題される。そのテストで合格点を取ると、この新居の住所、メールアドレス、集会のお誘いが表示されるのだ。

こんな仕掛けを仕込んで、待つこと数か月。
私たちは二人の新しい友達を得た。

「ようこそ、悪の秘密結社へ!あなたたちは厳正な審査を通過しました!」
名古屋の新居を初めて訪れた男女に、私は芝居がかった調子で言った。
「はあ」
初めは二人とも少し当惑していたが、厳正な審査を通過してここに辿り着いたつわものだけあって、すぐに打ち解けてくれた。

「――という訳で、悪の秘密結社を立ち上げるのです!」
私の言葉に、あきれ顔で男性が訊いた。
「……悪の秘密結社って何すんの?」
「それはこれから考える」
「おいおい」
「とりあえず、悪の秘密結社なので、皆さんお互いの素性は明かさなくていいです」
「悪の秘密結社ってそんなとりあえず結成するもんじゃないだろ」
私は彼のツッコミを無視して続けた。
「えー、綾辻行人の『十角館の殺人』では登場人物たちはあだ名として著名な推理作家の名前で呼び合っていましたよね。これをリスペクトして、我々は小説の名犯人の名前で呼び合うことにします」
「ネタバレじゃん」
「そう。存在自体がネタバレの邪悪な行為!なんてったって、我々は悪の秘密結社だからな!」
「名犯人って、存在が矛盾してるんだよなぁ……」
「あはは。まぁ、良いんじゃない?」
女性も笑って賛同してくれた。

こうして「悪の秘密結社」最初の活動は、お互いの呼び名決めとなった。
自分はあのキャラクターが好きだ、君はあのキャラクターに似てる。あの作品はもう読んだ?という風に、各々が自己紹介を兼ねて好きな作品を言い合った。

そうして決まった4人の呼び名は以下の通り。私とタルパさんのニックネームは、本当に未読の方の読書体験を損なう恐れあったので変えてある。

<ホスト>
リジー・ボーデン:私。空想の世界ではアバターの姿で存在している。
ジェイムズ・モリアーティ:タルパさん。国内ミステリ、幻想文学が好き。一人称「ぼく」。

<ゲスト>
ハンニバル・レクター
:ホラー小説が好き。男性。(文芸サークルに居た男性の先輩のイメージを寄せ集めて作った存在。中身は8割理系、2割文系。)
アイリーン・アドラー:海外ミステリが好き。女性。(文芸サークルに居た女性の先輩のイメージを寄せ集めて作った存在。文系。)

秘密結社の活動として、大嫌いな研究室のボス(現実)にどんな嫌がらせができるか考える組織にしようかとも少し思っていた。
だが、ゲストの2人にとっては「誰それ?」だし、そもそもそれは楽しい空想ではないので、早々に立ち消えになった。

代わりに、私たちは「読書クラブ」を開くことにした。
「読書クラブ」とは課題本を読んで、皆で感想を言い合う会だ。
これがとても楽しかった。

秘密結社のための読書クラブ

現実世界で、まず料理とお酒を用意する。
そして部屋を暗くして、空想世界で読書クラブを始める。

読書クラブは、新居のダイニングテーブルに4人座り、飲食しながら行われる。最初、まだしらふのうちに、その回の担当者が本のあらすじと見どころをおさらいする。その後、一人ずつ本の感想を言っているうちに酔いが回って来て、みんなでやいのやいの言い合う。
この時、それぞれのメンバーの発言を、実際に声に出してしゃべる
お酒を飲んでしゃべっていると、本当に人と飲んでいるような気分になってくる。(これを始めた時、ちょうどコロナ渦でバーチャル飲み会が流行っていたが、私はイマジナリーフレンドとお酒を飲むことをこっそりバーチャル飲み会と呼んでいる)

一度読書クラブの様子を録音したことがあって、忘れた頃に聞き返したら本当にそこに人が居たかのようで結構感動した。
現実は4人分の本の感想を、自分で考えてしゃべっているだけのはずだが、なぜか他人の感想に対して「なるほど、そんな意見があったのか」なんて、新たな発見があった。

例えば、録音してあったアンソニー・ホロヴィッツの『カササギ殺人事件』の回。海外ミステリ好きなアイリーンの担当回だった。

録音は、アイリーンが「文学賞四冠も納得のトリック。翻訳も最高すぎる。これを日本語で読めたことが幸せ」という話をするところから始まっていた。聞いていると、「ホロヴィッツは実は児童書も書いていて、『女王陛下の少年スパイ』シリーズの日本語版は荒木飛呂彦が表紙を担当してる」とか、私が知らない(っていうか完全に忘れている)情報を彼女がしゃべっていて、本当に他人がそこにいるようだった。

担当者のスピーチが終わると一人一人感想を言っていくのだが、この時点で感想は大体ネタ切れなので、ここからはアドリブで適当にひねり出す。

「ぶっちゃけ俺翻訳もの苦手なんだよね。登場人物の名前覚えられない」
レクターの言葉に私も同意した。
「分かる。私も覚えられない。それでも、古典パートよりも現代パートの方が登場人物を上手く把握できた気がする」
「えー、そう?なんでだろう?」
アイリーンに促されて考えてみた。
「……もしかして、現代パートの方が『感情の乗った関係性』が多かったからかも。『主人公の浮気相手』とか。古典は『隣に住んでいる牧師』みたいななんの感情も発生しないキャラ多くなかった?」
「んー、なるほどね。感情に訴えかけられたら自然と覚えるかもね」
これは自分が創作する時にも参考になるな。我ながらナイスひらめき。そう思っているところにレクターが水を差した。
「てゆーか、単純に現代パートの方が登場人物が少ないだけじゃね?」
「え?まじ?」
本を開いて登場人物表を確認する。
「1、2、3、4……あー、そうかも。……って、あ!?上巻(古典パート)と下巻(現代パート)とで登場人物表が微妙に違う!?」
「本当だ!私も気づかなかった!」
……楽しい。

読書クラブのお陰で、古参なのに口数が少ないタルパさんにも喋ってもらえるのも嬉しい。
「モリアーティはどこが良かった?」
「そうだね、仕掛けと翻訳が素晴らしいのは自明だから、それ以外で言うとねぇ……」(私の脳みそのCPUが唸っているとおぼしき数秒間の沈黙)「君たちには不評だった古典パート、ぼくは結構好きだよ」
「ほう」
「クロフツなんかと比べたら大分読みやすい。ヌーディストが出てくる辺りとか、発想は現代的だと思うね。舞台が百年前なだけで」
「あー、確かに」
「これで読みにくいとか言ってる君らの修行が足りない」
「はひ~」

『カササギ殺人事件』の内容、大分忘れて録音だけ聞いて書き起こしてるので、うっかりネタバレしてたらごめんなさいです。(今更……)

課題本のメモを見るに、こんな感じの読書クラブを、私は6回くらい開催したらしい。最近はやれていないが……。
一回の読書クラブに結構エネルギーを使うし、きっといろんな理由があってやらなくなってしまったのだろう。でも、楽しかった記憶しかないのでまた再開したい。

現在の脳内住民構成

最初、悪の秘密結社に招待した二人とは、読書クラブの時にしか会えない関係だったが、クラブが楽しすぎたので、レクター氏をメイドやタルパさんと同じ、レギュラー脳内住民に加えることにした。

アイリーンはサークルのかっこいい女性の先輩のイメージを詰め込んだ存在=自分より上位の存在であり、会話にかなりエネルギーを使う。そのためレギュラー住民化はできなかった。タルパさんの原型を作った時と同じ轍を踏んでしまったわけだが、彼女は読書クラブのバランス的には欠けてはならないメンバーなので良しとする。

レクターもサークルのかっこいい男性の先輩のイメージから創られているはずだが、高卒設定を付与したことにより弱体化されて手ごろな感じになった模様。
そして、一人称「俺」の人間が頭の中にいるということは、怒るのが苦手な私には結構心強い事だった。私は嫌なことがあるとじっとり引きずり、挙句私にも非があったかも…とか思ってしまいがちなのだが、一人称俺だと「うるせーバカ!ふざけんじゃねーよ!〇すぞ!」という発想になり、過度な自己批判に陥らずに済んでいる。あ、いや、レクター氏は他人なんだけどね。私が演じてる訳じゃない(ってことになってる)んだけどねっ。



おわりに

S&Mシリーズの「すべてがFになる」アニメ

森博嗣のS&Mシリーズに出てくる真賀田 四季というキャラクターがいる。彼女は天才プログラマで、彼女の脳内は一人の人間には有り余るほど広い。だから二人や三人、頭の中に再構築することなど容易で、彼女の中には何人かの人が住んでいる。

このシリーズを中・高生の時に読んでいたからか、私は実世界に存在しない友人と話すことに対して、ネガティブな印象を持っていない。むしろ、脳のキャパが大きくないとできない行為、あの天才・真賀田 四季がするような高尚な行為なのだ、と思っている。
実際、読書クラブをやっていて、自分がイマフレの思考を上手く発生させられずに、自分の脳内の狭さにがっかりしたことが何度もある。

自分は天才とは程遠いのだなぁと思うし、凡人だけど、頭の中の人たちともっとうまく会話できるようになりたい。


ちなみに、やっぱり美しい夢を見ることは辛い現実を生き抜く秘訣となりうるらしく、私は無事3年で博士号を取得し、小さい会社だけど研究で就職できた。
奇人変人の烙印を押されてもお釣りがくるんじゃないか。
私のイマフレ最高、で、何の問題もないよね。益しかない。

以上、ここ10年の存在しない友達との思い出でした。彼女らの存在を、文字に残せてよかったです。
長文お読みいただきありがとうございました!

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