叔母とドライフラワー
枯れた花
僕がドライフラワーを販売する理由。
それは大切な想い出からきている。
僕が小さい頃のはなし。
叔母はよく花を贈られる人だった。
誕生日だけでなく記念日などには花束が贈られ、誰からも好かれるような天真爛漫な女性で。
その明るさから向日葵のように笑顔絶えない人、厳しくて凛としている人。祖母を介護しながらも、決して僕たちに弱音を吐かない人。
だからこそ周りから自然と花が届けられていた。
叔母は華道もやっていて、生け花なども嗜んでいた。
とにかくとても花が好きで。
寝室には無数の花が天井から下がっていたことを覚えている。
エアコンや扇風機で揺れ、カサカサと音を立てる花束。
横で寝るといつも聴こえる音。
当の僕は枯れた花が吊るされている理由はつゆ知らず。
それをきれいだと想えたのは大人になってからだった。
思い出の花
高校の卒業を間近に控えたころ、叔母を亡くした。
癌が転移し抗がん剤治療も効かず、母と兄と三人で神に祈るように買ったものは大地の命だったかな?よくわからない1万円したキノコを粉末にした飲み薬。
根拠はない”絶対に良くなる””、それが魔法の言葉だった。
将来を思い描いてたことがあり、
こどもがいなかった叔母に孫を見せたかった。
いやそもそも、ちゃんとした彼女も。
幼少期から母親以上に面倒を見てくれた叔母には、ただただ見せたかった。
縋る様な想いだったが、最期に見る姿は延命措置を施されているところだった。
通夜からお葬式の期間、叔母の家に遺品整理をしつつ滞在した。
まだほんのり残るタバコとシャンプーの香りがそこにいたことを知らせていた。
涙でなにも見えなくなって。
一日では片づけられず、叔母の家で寝ていた時。
天井に吊るされた揺れる花たちを見てとても儚く感じたことを憶えてる。
生活のための花
叔母の死を分かち合えた兄が亡くなり、僕はすべてのことを自分で背負いこみ、生きなければならないとそう心に誓っていた。
一旗揚げることが目標になり、起業までのカウントダウンが始まった。
新たな事業の責任者として海外に誘われミャンマーに向かった時、見た光景に目を奪われた。
一つはゴミの山。
もう一つは車が通る道で花を売る人達。
2つの光景を目にこの現状を変える為にどうすれば良いのか考えさせられた。
ゴミ山を漁り、必要なモノを探す人。
車が行き交う中を立ち尽くし花を売ろうとする人。
ゴミ山から出る汚染水は、日常生活で用いられていること。
交通マナーなんてない道路上で命よりも花を売ることに懸命になること。
何もかも目を瞑ってはいけないこと。
日本は衣料の生産を年間で29億着ほど生産し、内14億着しか消費しない。
ユニクロなどサステナブルな取り組みをする企業は増えたものの、衣料の仕組みは少し間違った方向を辿っていた。
多くのモノを保有していてもいつまでも満足できない欲が、遠い異国を汚している実態を知ったとき、花の届け方から整理しなければいけないこと、それらを変えなければいけない使命感を持った。
まずは自分が変わらなければいけない。
そう感じて。
ドライフラワー
海外から帰国し、兄を亡くしてから10年もの間片づけられなかった遺品を整理した。
突然死の故人の遺志がわからないモノたち。
放置しておけばこういったモノが行き場を失くし、土壌を汚染することもある。
ただ、愛着ある全てのモノを棄てなければいけないことに心が揺れ、叔母の時を想い出していた。
一つ一つに思い出があり、あの時と同じように涙が溢れた。
とても大事なモノでもいつか手放すときは必ず来る。
片づけていたら叔母の想い出が溢れてきた。
叔母がいない部屋の天井から吊るされた花を一つ一つ取り外し、弔うように焼いたんだ。
煙になって消えていく、その全てが悲しかった。
それと別に花束を受け取り満面な笑みを浮かべていた叔母の顔を思い出して。
贈られた花を嬉しそうに天井に飾っていた姿。
そのことを心に焼き付けておけばいい、その想いを表現すればいい。
花に対しての価値観が大きく変わった瞬間はこの時。
いつか教えてもらった生け花のこと。
いつか教えてもらったブーケの作り方。
いつかの花を愛する姿を思い出して。
枯れていた花の価値にようやく気付くことが出来た。
そして今があります。
僕の発信は未だ小さい事ですが、少しずつ変わってきていることがあって。
今日もまた1人の人がシェアしてくれる、それだけで世界の中の0.00001mmでも良い方向に動いていると思っていて。
意味がなく生まれ出たモノなんて無いはず。
産み出した以上、最期まで全うさせたい。
別れがあるからこそ、今を精いっぱい輝かせること願っている。
そのために廃棄生花を使わせてもらい、
"ドライフラワー"に色の想いを込めて贈る。
どうか1人でも多くの人に届きますように。
「花の生命を永く、そして美しく。」
色を贈る
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