性の多様性に学校教育はどう向き合うか

#問いを立てるデザイン

はじめに

 長谷川先生の講義(2019年5月23日)は、途中で受講生から不適切な発言があり、若干内容が偏ってしまった感覚を覚えるが、性の多様性について考えるよいきっかけになった。
 さて、私は教育に携わる研究をしており、近年増えている性の多様性に関する問題については、これまで表出してこなかった問題が表出してくるのではないかと考えている。非常勤だが学校に勤めており、今一度どう向き合うことが必要なのか、学校ではどう向き合っているのかを整理する必要がある。本稿では、近年の学校において、「性の多様性」についての取り組みを、いくつかの論文や紀要から検討する。

文献Review

 佐々木(2018)では、性的指向や性同一性をはじめとする性の多様性を中学校の授業で取り扱うことで、生徒がもつそれらへの嫌悪が低下するのかを、公立中学校への実験で検討した。結果としては、授業を実施した学校の生徒では、授業後に嫌悪の減少が見受けられた。また、男子においては、多様な他者の理解や太陽な意識の向上が嫌悪の低減と関連していた。この研究は、人権教育推進校の指定を受けた学校で行われたものであるが、今後、このような実践が他の学校へも広まることで、より多様性が受け入れられる社会の実現に近づくのではないだろうか。

 福島(2015)では、神奈川県公立高校の養護教諭である著者が、セクシュアリティ教育として、性的マイノリティの方へのインタビューや生徒同士での考察を行う授業を実践している。授業後、生徒の性的マイノリティへの理解度は上昇しているが、2回という授業でのみ行われたものであることは課題として挙げられている。神奈川県で行われている「支援教育」を推進する一時的支援の手立てとして有効であるとも考えられており、同様の取り組みが他の自治体でも行われることが期待される。

 李・畠山・城(2018)では、性の多様性の社会的・教育的事情、LGBTの認知的状況などを、東京学芸大学在学性237人にアンケートを行った結果から考察している。その結果、LGBTを知っている学生が69%であり、学校教育の中で知識を得た学生は19%、義務教育課程で知った学生は2%であった。ある大学の主に1年生を対象とした結果ではあるものの、子ども達が生への意識に目覚める早期段階と言える義務教育課程では、性の多様性やLGBTの理解教育がほとんど行われていないということが分かった。本研究は最近の
ものであり、これが日本の現実であると受け止めると同時に、性の多様性をどの学校段階で取り扱うのか、早急な検討が必要である。

 渡辺・楠・田代・艮(2011)では、「性の多様性」をテーマに、子ども達が自らの問題として捉えることのできる授業づくりを行った。多様なセクシャリティについて説明を行ったり、特集番組を視聴した後、ゲストとして当事者に来てもらい、理解を深めるという授業になっている。本研究では「当事者性」が一つの焦点として取り上げられている。それは生徒の当事者性だけではなく、指導する教員の当事者性も含む。当事者性を持ち思考することで、自分自身がそのような場面に直面したときの行動の変容を促すことが必要だと考えられている。

個人的な考え

 私としては、性の多様性に学校だけで完全に対応できるとは考えていない。もちろん、教職員が多様性に理解を持つことは必要であるとは思うが、当事者や、それらの人に関わってきた人だけが寄り添える場面もあるはずである。学校では、家庭や専門家ではカバーできない部分をカバーできるよう、児童生徒からの要請にこたえられるようにしておかなければいけない。そのためには、必ずしも教員が当事者である必要は無いが、当事者性を持って対応することが必要である。センシティブな話題であるからこそ、取り扱うことを避けるのではなく、慎重になったうえで取り扱うことが必要ではないだろうか。筆者は専門外であり、もしかしたら失礼なことを述べていたかもしれないが、一男子大学院生の考えとして捉えていただきたい。

引用文献

佐々木掌子(2018).中学校における「性の多様性」授業の教育効果 教育心

  理学研究,66(4),313-326.DOI 10.5926/jjep.66.313
福島静恵(2015).多様性を認め合う関係づくりを目指したセクシュアリティ

  教育の試み──支援教育の視点に立った組織的な取組を通して── 神奈

  川県立総合教育センター長期研究員研究報告,13,55-60.
李修京・畠山佳穂・城渚紗(2018).’性の多様性’理解と’LGBT’認知のための教

  育 東京学芸大学紀要 人文社会科学系Ⅰ,69,127-143.
渡部大輔・楠裕子・田代美江子・艮香織(2011).中学校における「性の多様

  性」理解のための授業づくり 埼玉大学教育学部附属教育実践総合セン

  ター紀要,10,97-104.DOI info:doi/10.24561/00016259
 

追伸 

 そういえば、長谷川先生の授業で疑問に思ったことをいくつか書き残しておきます。どこか何かしらの媒体でこれらの疑問に対する答えが聞ければ嬉しいです。
①. デザインベイビーとか同性間の子どもとか実際に作れると思うんですが(というか最近中国とかが話題になってましたね)、それらに対して権威、いわゆる上級国民と呼ばれるような人たちからの圧力はありますか?人権団体とかのほうが多いんでしょうか。
②. 男と女から子が生まれるというのは哲学や進学の観点での議論がありそうですが、同性同士で子を産めるということについて、それらに対しどう答えますか?

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