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SS作品/ラムネ瓶の妖怪

 妖怪という存在に憧れている。
 妖怪は毎日が夏休みで、宿題も無くて、なんなら学校も試験も何にも無いと言うでは無いか。
「だから、ぼくは妖怪になりたいんだよ」
 じりじりと焼け付くような青空の下、木陰で言い合う僕らの真上を蝉が鳴いている。みんみん鳴いているからきっとミンミンゼミだ。
 駄菓子屋で買ったアイスが溶けて手のひらをべとべとにする。僕はそれをべろりと舐めて隣に座る友だちを横目で見た。
 おかっぱ頭に糸目で、水色の着物に素足で草履。近づくだけでひんやりとする人型保冷剤の彼は、何を隠そう僕の友人で妖怪だった。証拠に、こんなに暑いのに汗ひとつ流していない。
「なぁユキ。それはなぁ、どうかと思う」
 ゆきひと、というのが僕の名前だけどなぜか「ユキ」と短く呼んでくる。女の子みたいでなんか嫌だ。でも、そういう僕もこの子に「アオ」という名前を付けたから、眉根を寄せるのはお互い様だ。
「妖怪は寂しいぞ」
 と、アオは綺麗な声で言った。確かに、学校は無いし勉強もしなくていいけどさ、と少しため息もつく。
「いいじゃん、ずっと遊べるじゃん」
「そうだよ、ずーっと遊んで、それで、気がついたら帰る家が朽ち果てて無くなるぞ」
「えっ、なんで」
「妖怪には妖怪の時間があるんだよ。一日寝たと思ったら一ヶ月経ってることもあるんだ」
「ええっ!」
「でもなぁ、美味いものは食べ放題だな、太らないし」
 妖怪にしたいのかしたくないのか分からないよ。
「アオはいいなぁ。ずっと夏休みだ」
 僕はべとべとの手をべろべろ舐める。そよそよと吹く風が生ぬるくて、僕はもう少しだけアオに近づいた。
 あたりだ、と、アオが細い目を見開いて僕の手元を見た。
「え? なに?」
「これ、これ! あたりだって! お、お前駄菓子の婆ちゃんに言って早く貰ってこい!」
 なぜかアオの目がるんるんと輝いている。当たったのは僕なのに何だかアオのほうが嬉しそうだ。
 僕は虫あみと水筒をアオに任せて、木陰から飛び出した。駄菓子屋は丘を下ったすぐそばにある。
 僕が後ろを振り返ると、アオは楽しそうに手を振った。ひらひらと水色の袖が舞う。
 僕もまた、僕が名付けた友達の名を叫んで笑った。

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