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【コラム】マーメイドはひとりで躍る⑰

ももすももすの「アネクドット」には、
こんな一節がある。

「去年と違うシャツを着せる
 心臓より大切な気持ち」

いやいや待って、
当たり前だけど、
命より大切なものなんてあるはずないし、
生きるために必要不可欠なものこそ心臓だ。

たかが一枚のシャツを着せる気持ちなんかが
心臓より大切なんて、大袈裟過ぎる。

でもよくよく考えてみると、
この部分に"ももす"なりの
「生き方の流儀」みたいなものが現れてくる気がする。

チェス盤、
いや、今着てる上着をひっくり返して考えてみよう。

え?見た目が不安?
大丈夫だ。そいつはリバーシブルだと思え。


ももすが込めた思いと裏腹に、
去年と違うシャツを着ずに生きていくとしよう。

つまり今年も、
去年と同じシャツのラインナップで
日々を過ごしていくとしたら、
アナタの日々はきっとこうなる。


眠気に負けそうになりながら
ゆっらゆら電車に揺られ、
いそいそ労働に勤しんで、
昼飯はコンビニで済ませちゃって、
「会議」とやらを構成する一部になって、
終わらない締め切りに追われて、
見たかったドラマが始まる時間にもオフィスにいて、
帰ってテレビをつけたら、
見たい訳なんてない
3時のヒロイン・福田麻貴が主演のドラマが流れている

そんな彩度0%の平日を乗り切った先には、
猛スピードで通過する休日が待っている


とまあ、さすがにここまで
散々な日常を過ごす者はいないかもしれないが、
週5で同じ会社に働いて、基本帰りは夜遅くて、
休日はなんかあっちゅう間に終わっちゃうな、
なんて思う人は、きっと少なくないはずだ。

そんな日々を過ごしながら、
「シャツ」すら新しくできないとしたら、
その命は、本当に生きているといえるだろうか。

うん。確かに生きてる。
生きてるんだけど、
生き生きはしていない気がする。

ここで「シャツ」を他のものにも
置き換えてみてほしい。

例えば、
バッグとか、iPhoneとか
香水とか、7番アイアンとか
仕事とか、上腕二頭筋とか、
あなたの身の回りにあるものなら、なんだっていい。

平日、同じバッグに同じiPhone入れて
同じ香水つけて、同じ仕事に向かう。

休日、上司とのゴルフでは
使い続けた7番アイアンを使うけれど、
あの頃と筋力が変わらない上腕二頭筋のせいか、
ショットの精度は変わらない。

そんな日々を
1年も2年も続けていたとしたら、
というか、
続けたいと思うだろうか。

いや、足りない。
確かに健康だし、
最低限仕事もあるし、上司との付き合いもある。

でも、足りない。
生きる上で必要な何かが足りない。

そんなのないものねだりだよ、って
KANA-BOONから
馬鹿にされるかもしれないけど、

それでも、足りない。

何が足りないんだろうか。


答えはなんと、
日能研生なら絶対知ってるでおなじみ、
「日本国憲法第25条」にあった。

「すべて国民は健康で文化的な
最低限度の生活を営む権利を有する」

そうか、「文化」が足りなかった。
シャツだって、iPhoneだって、
ゴルフだって、全部文化だ。

仕事だって、
「働く」という文化だと思うし、
上腕二頭筋は…
「筋トレ」という文化の大事な一部だ。


ももすの世界に舞い戻ってみよう。

ももすにとってシャツは、
文化を表す具体例の一つだった。

「去年と違うシャツを着せる」とは、
「去年と違う文化を享受する」こと。

確かにただ生きるためには、
心臓が動いてくれさえすればいい。

だけど、我々が憲法で保障されている
健康で文化的な最低限度の生活を営むためには、
新しい文化に触れ続ける気持ちこそが大切だと
彼女は歌詞に込めているのかもしれない。

そこに一アーティストとしての
文化を造り続ける者としての
「矜持」みたいなものが感じ取れた気がした。

きっとこのフレーズには、
あの「文化に触れな侍」もえびす顔を見せている。


そうして、僕はZOZOTOWNで新しい文化を買った。
いままで触れたことのなかった白パンツだ。

数日後、置き配とかいう令和の文化によって届けられた
白の文化を着てみる。

え?
サイズデカすぎるんだけど??
L買ったよね俺?
ちょっと待って、
これじゃ歩いてるだけで裾汚れちゃうし、
ワイドパンツだとしても
ワイドすぎるんだけど??

さすがにこれは返品…と思った刹那、
「全方向美少女」が耳元で囁いてくれた。


「運命なんて生まれた日より
 選んだ服で決まるもの」


いつもより、ぐっとお腹寄りでベルトを締めて、
夕方の街を歩き出した。

この日初めて訪れた、
近くの秋田料理の居酒屋、
ご飯もお酒も最高だったなあ。

きりたんぽという文化にも初めて触れられたし。

あのダッボダボな白い文化を
身に着けておいて本当に良かった。

だから、ZOZOTOWNで買ったあの白パンツは、
絶対に失敗なんかじゃない。
サイズは合ってないかもしれないけど、
あの日コイツを選んだから、
またひとつ好きな店ができた。
そういう運命だったんだと思うことにした。

文・マーメイド侍


●ももすももす『アネクドット』

●KANA-BOON『ないものねだり』

●文化に触れな侍
女性お笑いコンビ・AマッソがM-1グランプリ2017敗者復活戦で披露した漫才。尖りまくってる加納に敗者復活戦の客も付いていけていない。これを面白いと思える人はいい意味で狂ってる。マーメイドは大好き。


●乃紫『全方向美少女』


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