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『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック 女子刑務所での13ヵ月』パイパー・カーマン(著) 村井理子・安達眞弓(訳) 感想


 
 女子刑務所にもイベントはある。子どもがいようがいまいが、受刑者同士顔を合わせれば「母の日おめでとう」と声をかけ合う母の日。受刑者の母親や子どもたちがやってくるだけではなく、施設内では、かぎ針の赤いバラを「ムショのママ」にプレゼントする日でもある。そう、刑務所内にも「擬似家族」が存在するのだ。
 子どもの日やハロウィーン、クリスマスもそれぞれ受刑者たちが工夫を凝らしてさまざまなかたちで祝われる。そして、誕生日パーティもある。本書の主人公(書き手)であるパイパーには友人も多いので、面会室に設えられた宴席にチラキレス、チキン・エンチラーダ、バナナ・プディングといったご馳走が並ぶ。とくにチーズケーキが美味しそう。生クリームの手に入らない環境で、バニラ・プディングとコーヒークリームを代用にしてチーズクリームを作るレシピだが、「なるほど、よく考えたなぁ」と思う。
 そして、「あんたは内も外もきれいな人だから、みんなが祝ってくれている」。「まさかあんたみたいな女とここで出会って、友だちになれるなんて思わなかったよ」などと書かれた寄せ書き。部屋の外はモデルや酒瓶の写真でデコられ、パイパーの大好物、DOVEのチョコレート・バー、食べきれないほどのキャンディーが貼ってある。ロッカーには手作業でレース模様に切ったボックスが留められており、さらにシャワーサンダル2足分の底を張り合せて、ピンクと白の綿の糸で繊細に編んだスリッパのプレゼントをくれた友だちもいる。
 もちろんこれらはとくべつな日であり、ふだんは、割り当てられた「仕事」をし、最も大切な掃除道具である生理用ナプキンをうまく使って掃除をする毎日が続く。刑務官や検診ドクターのパワハラ、セクハラに怒りや無力感を覚えながらも、10キロのジョギングとヨガと欠かさず、友人にフットマッサージをしてあげる。したたかに、たくましくパイパーが刑務所生活を送る様子がスピードに乗った語り口で綴られる本書は、勇気とパワーを注入してくれた。

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