2023年『新聞歌壇』掲載短歌
【読売歌壇】
俵万智選
俺たちにないのは明日じゃなく昨日 振り向けば春一番が吹く
《特選一席》
2023/4.10
ぼくは船きみは潮騒きみは凪きみは満ち潮きみは引き潮
2023/5.16
金魚から目を離さずに僕たちはかなしみをやり過ごしていたね
2023/6.26
【東京歌壇】
佐佐木幸綱選
酔いどれの日常だけを垂れ流すそんな小説読むのが好きだ
《三席》
2023/6.11
【毎日歌壇】
水原紫苑選
なぜ自死を選んだのかなぜ自らを遠くへと手放したのかM
2023/2.20
ウィリアム・ブレイクの詩の解法を教えてくれる春の粉雪
2023/3.20
逢いたくて 竜の最後の羽ばたきを見ていた白亜紀の水の我
《二席》
2023/3.27
近いのにもっとも遠い現実が鏡の中のわたしの顔だ
2023/4.18
涙の斜面を急降下してくるのはあれは野苺の妖精だろう
2023/5.16
一枚の落ち葉ひろえば万人のためのひとりのたたかいおもう
2023/5.22
何も無い語るべきこと紫陽花の憐み深き色の前では
2023/6.13
変わらない何かをさがしあぐねたか色を濃くする中空(なかぞら)の雲
《二席》
2023/7.31
ひび割れた鏡に向かい五、六回ツァラトゥストラと早口で言う
2023/9.4
天からもわたくしからも立ち去ろう水面に一音の波を立て
2023/9.25
見えるものも見えないものも流星のその一線が貫き通す
2023/11.20
合計十五首