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『完全無――超越タナトフォビア』第六十五章

(店内の照明の匂いが、窓の外からのひかりによって、ほんのひと匙分ねっとりとしてきたことに、わたくしは気付き、一瞬、目を閉じてみる。
すると、愉快なワンちゃんトリオ、チビ・ウィッシュ・しろのトリニティが輪状に店内の空気を揺らし始めたのをまぶたに感じる。)


(宇宙のこととか深すぎてよくわかんないけど、宇宙ってきっとグミみたいなツブっていうか、むずかしく言うと粒子とかいうので満ちてるんじゃないかなー。
そんな感じのはなし、さっきもしたような気がしなくないわけではないけどねー(微苦笑)。
まあ、チビたちはファッショナブルでファンシーな粒子でできてるんだけどねー。
まあ神様よりもすごいんだもーん、チビってか、チビたちのいい子っぷりは(照)と、チビがあくびを隠しながらお茶目に言い、さらに、チビの粒子に名前をつけるとしたら、やっぱ「チビ粒子、もしくはびっチビ粒子かなー」と、お茶目を3倍くらいにしてはしゃぐ。
そしてチビは、ベートーヴェンの未発表交響曲よりも荘厳な可愛さを周囲に振り撒く。
そして、その周囲の渦が店内に拡散してゆくのだ。
世界におけるあらゆる境界線がその線を外していくのは、もしかするとチビのお仕事なのではないか、と思わせる程の愛嬌エナジーである。)

(続いて、次鋒のウィッシュがこう言う。
ウィッシュボーンはウィッシュボーン粒子によってアイデンティティを保っております!
ウィッシュとボーンというふたつの粒子でしょうか。
しかし、ウィッシュとボーンは仮想粒子ですので……。
なんと!
ウィッシュボーン自身もウィッシュとボーンを拝見したことはございません!
ははっ、とドストエフスキーの最高傑作『カラマーゾフの兄弟』の中に登場してくる最も晴朗な登場人物よりも仄明るい(ほのあかるい)声音で、ウィッシュはマック店内を青空で染め上げ、漂う空気を、福音の曼荼羅的に全方向へと震わせるのだった。)

(そして、中堅のしろは、しろりゅうしぃ! ときっぱり一言告げて、宿命の誤診などとはまったく縁がありませんといった風情で、珍しく眉毛をキリっと斜めに保ちつつ、じんわり座していた席から不意に立ち上がってみせるが、意志の勢いに身体が負けて、その場でちょっぴりふら付いてしまう。
そのふら付きの揺らぎは、真空の揺らぎよりも大らかであたたかそうに見えた、とわたくしが思った瞬間、しろがへなへなと再び席へと沈み込みつつ、こう呟く。
やっぱりしろは、肉まん粒子ぃ、全身肉まん~、と。
つまり、しろはしろ自身の本能に忠誠を誓っていることから逃れられずに、己のアイデンティティの根拠に対して、大いなる訂正を施したのだった。)


(さて、副将のわたくしをかたちづくるのは、一体全体どのような粒子であろうか。)

(それは大将である世界だけが知っているのだろう。)



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