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夫の前で流した最後の涙――手紙に込められた愛のかたち

「もうできる治療はありません。」

医師から告げられたその言葉は、
私の心を深い霧で包み込みました。

これまでどんなに辛くても、
夫の前では決して涙を見せなかった私が、
その日初めて彼の前で声を上げて泣いた日です。


抑えきれなかった感情

夫が病気になってから、
私は「泣かない」という選択をしてきました。

泣いてしまえば、彼をもっと追い詰めてしまう――
そう感じていたからです。

涙がこぼれそうなときは、
人知れず隠れて泣きました。
それでも彼の前では笑顔でいようと、
必死に感情を押し殺していました。

でも、その日は違いました。
抑えていた思いが一気に溢れ出し、
心の奥から絞り出すように泣きました。

私が泣くことで夫を困惑させることは分かっていました。
けれど、それでも涙は止まりませんでした。


彼の言葉がもたらした驚きと愛の深さ

先生のはなしを聞いてから1週間たったころ
私が夫の背中をさすっていると、
彼がぽつりとつぶやきました。

「実はね、入院中に君と子どもたちに手紙を書いたんだ。」

思わず手が止まりました。
手紙――その言葉が胸に突き刺さり、
同時に込み上げる悲しみが私を押しつぶしそうでした。

約1年前、化学療法室の看護師さんが
「ご家族に手紙を書いてみては?」
と彼に提案したことがありました。

そのときの私は、その言葉を全力で拒否しました。

「治療を頑張っているのに、最期を意識してほしくない」

そんな思いが強すぎて、
彼が手紙を書くことを認めることができなかったのです。
今回の入院中、心理士さんのサポートの元こっそりと書いていたそうです。


「生きているうちに読んでもいいし、僕がいなくなった後でもいいよ。」

彼の言葉には、すべてを受け入れたような静かな優しさがありました。


受け入れられない現実と未来への恐怖

そのとき初めて、
私は現実の重さを感じました。

「いなくなった後」――
その言葉を考えただけで、
心が張り裂けそうになります。

夫が私たちのために書いてくれた手紙。
そこには、きっと計り知れないほどの愛が詰まっているのでしょう。

でも、今の私は、その手紙を開く勇気がありません。
読むことで、全てが本当に終わりに近づいてしまう
そんな気がしてしまうのです。


今を生きるという決意


その手紙を読むのは、今ではなく「そのとき」が来たときにしよう。
今はただ、夫と一緒にいられる「この瞬間」を精一杯生きていこう。

彼の笑顔を少しでも多く見たい。
一緒に過ごす時間を、かけがえのないものにしたい。
それが、私が彼にできる最も大きな愛のかたちだと思っています。


未来への祈りと愛


悲しみはきっと消えることはありません。
でも、彼が残してくれた手紙は、私と子どもたちへの永遠の贈り物です。
その手紙を読む日が来たとき、彼の想いに触れ、
きっとまた涙を流すでしょう。

その涙が、悲しみだけでなく感謝や愛で
満たされるものでありますように――。

私は今日も、彼のそばで「今」という奇跡を
大切に抱きしめながら生きていきます。

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