【詩を紹介するマガジン】第7回、フリート
今日、紹介する詩は「怖い顔して正しいことを言ってるだけじゃ、味方が集まらないぞ」と話しかけてくる。エーリヒ・フリートによる「目的意識」。
目的意識
ユーモアを持たないとね
僕は戦略的な理由からそうする
だってクソ真面目なだけで
少しも笑えないようじゃ
僕らの大事なことに
誰も集まってくれないからさ
親切にならないとね
僕は戦略的な理由からそうする
だって無慈悲だったり
冷たかったりしたら
僕らの大事なことに
誰も集まってくれないからさ
こんな風に考えると
それが固く根を張って
僕を成長させるんだ
こういう役に立つ気質をね
だから僕が善人に見えるのは
ユーモアみたいなものだよ
正しいことさえしていれば、人が集まってくるわけじゃない。ユーモアがあって親切な人のいるところに、みんな集まる。真面目にしていれば味方が増えるってものでもない。ユーモアがあって笑える場所に、優しい人たちがいる空間に、人は集まる。
「人に戦略的に優しくするなんて、なんか違うと思う」人もいるかもしれない。だけど、それが戦略であろうが偽善であろうが、結果として誰かが助かるなら、それをするのは「いいこと」じゃないだろうか。
自分に親切にしてくれる人に対して「たぶんこれ、なんらかの打算が入ってるんだろうな」と思うことはある。つい最近も電話をかけてきて「元気にしてるかなと思って連絡したのよ」と言いつつ、ついでに「今度の選挙はあの人に投票してね」と付け加える人がいた。
選挙のときしか思い出さないとしても、電話して近況を聞いてくれるのは嬉しい。お互い近くに住んでいたときは、何かをお世話になった人だった。親切ないい人だ。前向きで明るく、きれいな声をしていて、地元の人気者だった。
「投票してね」と言われた候補に入れるかはともかく(たぶん入れない)、彼女からの電話を取るのは、親切にしてもらった記憶があるからだ。政治思想の絡まないところでなら、お願いされた大抵のことは叶えたいと思うだろう。「あなたの町でしか買えない物が欲しい」と言われたら融通するだろうし、「あなたの地元のこの料理が好きで」と言われたからお中元に贈ったこともある。
言っていることが正しいか、していることが理にかなっているか。それはとても大事なことだけど、たいていの人はそれだけでは動かない。そこに血の通った人間がいて「この人の言うことなら聞こう」と思わせるだけのものがないと始まらない。
詩の作者、エーリヒ・フリートは、ドイツ語で詩を書くユダヤ人だった。混迷を極める20世紀ヨーロッパを見ながら、どんな気持ちでいたのだろう。ヴィーンに生まれ、少年の頃にロンドンに亡命。父親はナチスに殺された。そういう人だ。
詩の中で「僕らの大事なこと」と訳したのは、おそらく政治的な活動を指す。フリートは、たくさんの政治家や活動を見ながら、無慈悲で笑えない人々が、最後には支持を失って廃れていくのを見たのかもしれない。一時期は一大勢力を誇ったナチスも、結局は破綻した。
他者と生きていく以上、「他人にとってどんな人間であるか」で測られる。それは受け入れるしかない。自分の言っていることが正しいという自信があるなら、ユーモアと親切心と共にそれをアピールしたほうがいいかもしれない。冷酷で面白みのない人に、人は集まらないから。
裏を返せば、親切で面白ければ、正しくない人だって支持されてしまう可能性は十分にある。いつだったかのアメリカ大統領選みたいに、メディア席に向かって「フェイクニュース!!」と叫ぶ楽しそうなおじさんが選挙に勝つこともある。
正しいだけじゃ渡れないオトナの世界を軽やかに書いてみせる、フリートのしなやかさが滲む一篇。
本を買ったり、勉強したりするのに使っています。最近、買ったのはフーコー『言葉と物』(仏語版)。