メルシーベビー

言葉の国、文字通り、本棚7番街に住んでいます。エルマニア国立大学日本語日本文学科修士卒。

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  • お仕事日記

    仕事が中心のエッセイです。建築業界、不定期連載。

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    主にドイツ、フランス、それから日本の詩をご紹介していきます。訳は基本的に拙訳。詩の背景や作者にも言及しつつ、自分の感想なども書いていきます。不定期更新。

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    家族の話。

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    「あったらいいな」をまとめています。なんでも思いついたことを書きます。

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    短編小説と散文を集めています。

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出版しました。『体温の低い出産』

お知らせ まえがき  「子どもを持つ」ことに、ずっとリアリティが持てなかった。  いつかは出産するかもしれない。ひょっとしたら、しないかもしれない。絶対ほしいわけでもないし、絶対にほしくないわけでもない。ただなんとなく、産んだほうがいいのかな、と思っていた。  二十歳そこそこで結婚した友達が、二人目の子どもを授かる頃になっても、大学院の先輩が子どもを連れてキャンパスに来ていても、焦る気持ちは湧かなかった。  子どもを見ても「子どもだなあ」と感じるだけで、「すごくかわいい

    • 本日は「すやすや水曜日」です。週の後半に備えて、早く寝て元気をチャージしましょう。 写真は、ご当地ICカードの秋田バージョン「アキカ」。東北三大祭りのひとつ、秋田の竿燈がデザインされている。あれも不思議な祭りで、なんで提灯たくさんぶら下げて、片手や腰で持とうと思ったんですかね。

      • 久しぶり。我が家じゃないけど、わたしのホーム

         むかし通っていた喫茶店に来る。むかし、と言っても引っ越し前までの話だから、1年と少ししか経っていない。それでも久しぶりに見る街の様子は少しずつ変わっていて、店のランチの値段も上がっていた。    通い始めたときは800円だったのが、やがて900円になり、950円になった。もう千円にしてもいいんじゃないでしょうか、と言うと、店員のお姉さんが「それはちょっと」と苦笑していた。「『困る』ってお客さんもいて」。    光熱費も上がっていて、キツいんですけどね……。そう言って泣きそう

        • 育児と、そうでないほうがよかったようなこと

           「ヘマな失敗ばかり集めた本がほしい」と言ったのは、発明家エジソンだったか。子育てをしているいま、同じことを思っている。    育児本は世の中に数多くある。でも「うまくいった」系のお話は、正直そこまで興味がわかない。「子ども10人を全員ハーバード首席にしました、オーホッホッ!そんなあたくしの育児方法はこちら!」と言われても、すごいなあと思うだけで終わる。    そうじゃなくて、やらないほうがいいこと。例えば子どもの視点で「これはやめてほしかった。あの時点で性格が歪んだ」という

        • 固定された記事

        出版しました。『体温の低い出産』

        • 本日は「すやすや水曜日」です。週の後半に備えて、早く寝て元気をチャージしましょう。 写真は、ご当地ICカードの秋田バージョン「アキカ」。東北三大祭りのひとつ、秋田の竿燈がデザインされている。あれも不思議な祭りで、なんで提灯たくさんぶら下げて、片手や腰で持とうと思ったんですかね。

        • 久しぶり。我が家じゃないけど、わたしのホーム

        • 育児と、そうでないほうがよかったようなこと

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        記事

          タバコの代わりと、おいしい母乳

           赤ちゃんを乗せたベビーカーに、ぐっと顔を近づけてみると、いつもより空がよく見えた。ベビーカーは、背中の部分がうしろに倒れているので、必然的に上を見上げやすい。こんな光景が見えてるんだなあと思いながら、しばらく一緒に上を見ていた。    雲の流れが速い。木々が赤く染まっている。道端には、ブルーベリーのような紺色の実がなっていて、ときどき蝶が飛ぶ。そういうことを意識しながら歩ける散歩の時間は、なんだかとても落ち着いていて穏やかだ。    できるだけ目線を近いところに置いて、赤ち

          タバコの代わりと、おいしい母乳

          食事とセルフケア

           自分の考えとは違う意見が、当然のように出てくると、住んでいる世界の違いを見せつけられた気になる。いま読んでいる雑誌に、こんな文章が出てきた。    記事のタイトル「”食べる”というケア」に惹かれてページを開いた。貧困におちいった女性たちを支援する人が、上記の文章を紡いでいる。「生活が苦しくなっていく」イメージが、自分とは違うな、と気づく。自分が思うそれは、こんな感じだ。    まずちょっとした贅沢をやめるようになる。クリーニングに出していた服を家で洗うようになり、休日に映

          食事とセルフケア

          家族を大事にするのはむずかしい

           「日本にいるホームレスを見殺しにして、海外のボランティアに行く」とか「家族を雑に扱うのに人類愛を語る」とか。この手の話に、むかしからモヤッとしている。    就職試験なんかで「学生時代、アフリカにボランティアに行きました!」と言うのは、とりあえず華やかな感じがする。なにかやってた感。日本に帰ってきたら何もせず、両親をあごでこき使う人だったとしても、そんなことは言わなきゃバレない。    それに対して「日々、家族のために家事をしています」は地味だ。自己PRにこれを書いたら、場

          家族を大事にするのはむずかしい

          結婚とグレードダウン

           「赤ちゃんサロン」が団地で開かれていたので参加する。みんなで集まって、たたみの上で赤ちゃんをゴロゴロさせるだけの会。これがなかなかいい。大人は子どもをあやしていて、子どものほうはあやされていて、ただ幸福なだけの空間。    保健師さんたちもいて、赤ちゃんたちとニコニコ遊んでいる。7ヶ月の娘は、寝ころんでいる別の赤ちゃん(6ヶ月)のところに行って、顔にさわろうとしていた。あわてて止めた。向こうも女の子で、ずっと不思議そうに娘を見つめていた。    赤ちゃんはいい。ニッコニコで

          結婚とグレードダウン

          赤ちゃんが水族館デビュー。ついでに電車デビュー。 いろんなところに連れて行くと、子どもにとっても新鮮でいいらしい。仮に水族館で眠ってしまったとしても、雰囲気だけは感じているからそれでいいんです、と子育て本に書いてあった。魚ではなく、あの薄暗い雰囲気を体験しに行く。そういう発想。

          赤ちゃんが水族館デビュー。ついでに電車デビュー。 いろんなところに連れて行くと、子どもにとっても新鮮でいいらしい。仮に水族館で眠ってしまったとしても、雰囲気だけは感じているからそれでいいんです、と子育て本に書いてあった。魚ではなく、あの薄暗い雰囲気を体験しに行く。そういう発想。

          「昭和の女の人みたい」と言われて

           「昭和の女の人みたい」と言われる。平成生まれだけど。むかしから「いまどき珍しい子」とか「なんか古い」とか言われ続けているので、いまさらなんとも思わない。結婚したあと「献身的な奥さんをやっている」というので、今回はそう評された。    旦那さんが家に帰るまでに、お風呂をわかし、ご飯を用意する。彼は入浴後に食事をするタイプなので、上がってくるまでに食卓に器を並べておく。いつもそうする。「いってらっしゃい」と「おかえりなさい」は、玄関先まで行って言う。    という話をすると「ご

          「昭和の女の人みたい」と言われて

          藤田嗣治「猫十態」から「眠る親子猫」の絵。かわいい。母が送ってくれた。 赤ちゃんを育てている自分に、母は「メルシーちゃんはいいお母さんだと思うよ」と言う。子育て初心者の娘を元気づけようとしているのかもしれない。ありがとう、いろいろあったとはいえ、お母さんもいい母親だと思います。

          藤田嗣治「猫十態」から「眠る親子猫」の絵。かわいい。母が送ってくれた。 赤ちゃんを育てている自分に、母は「メルシーちゃんはいいお母さんだと思うよ」と言う。子育て初心者の娘を元気づけようとしているのかもしれない。ありがとう、いろいろあったとはいえ、お母さんもいい母親だと思います。

          「過去」ができていく。【かつて住んだ街】

           10代の頃、なぜか入ってしまった喫茶店がある。薄暗い階段をのぼっていくところにあり、住んでいる寮に近い。近いけど、怪しい空気を醸していたので普段は近寄らない。その日は、なにかちょっと、いつもと違うことをしたかったのかもしれない。    そこは本当に喫茶店だったんだろうか。まるで民家のようなのれんをくぐって中に入ると、おばちゃんと猫がいた。猫は太っていて、店内を自由に歩き回っている。店にはカウンターがあり、ソファーがあり、家のようなお店のような、よくわからない空間だった。  

          「過去」ができていく。【かつて住んだ街】

          ありがとう、でもその善意はいらない。

           善意の取り扱いはむずかしい。    生活に困っている人への寄付を呼びかけると、お古を送ってくる人がいるという。例えばシングルマザーとその子どもたちに、履き古した靴や、バラバラになった色鉛筆が「善意で」送られてくる。当事者としては嬉しくない。    いま読んでいる『子どもと女性のくらしと貧困』にそんなひとコマが出てくる。こういう事態は、どう捉えたらいいんだろうな。自分は当事者でも支援者でもないから、傍観者の立場から考えてみる。    寄付をつのる人々は「送ってくれるのは、新品

          ありがとう、でもその善意はいらない。

          自分がズレているのかもしれない、けど

           赤ちゃんと、一日一緒の日が続いている。つかまり立ちをするようになり、手の届く範囲が広がった赤ちゃんは、前よりも目が離せない。とはいえ「だから育児は辛い、早くどこかに預けて働きたい」とも思わない。べつだん苦にならない。    人によっては「子どもとずっと一緒にいるのがしんどい」と言う。「だからどうしても保育園に預けたくて、予定より早く職場復帰した」「同じ理由で、マックの面接を受けに行った」など、小さい子と暮らすのがひどく苦痛の人もいる。    正直、なにがそこまで辛いのかよく

          自分がズレているのかもしれない、けど

          赤ちゃんを連れていると、自分ひとりの時とは世間のまなざしが違う。「違って見える」ではなく実際に違う。不思議なものを眺めるように赤ちゃんを見つめる子どもたち、手を振ってくれるおじいちゃんおばあちゃん、妙に態度を硬くする人もいれば、ベビーカーを持ってくれる人もいる。多くの人は優しい。

          赤ちゃんを連れていると、自分ひとりの時とは世間のまなざしが違う。「違って見える」ではなく実際に違う。不思議なものを眺めるように赤ちゃんを見つめる子どもたち、手を振ってくれるおじいちゃんおばあちゃん、妙に態度を硬くする人もいれば、ベビーカーを持ってくれる人もいる。多くの人は優しい。

          おいしい背伸び

           学生の頃、ちょっと背伸びして、ひとりで高いお店に行ったことがある。宝石店とかブランドショップとか、そういうところではなくて、レストラン。正確には「創作料理屋」だったか忘れたが、とにかく「大人の空間」って感じの飲食店だ。    そこは怪しい街の怪しい雰囲気の場所にあった。最寄りの駅はごみごみしていて、少し歩くと「風俗店案内所」みたいな看板が見える。ラブホテルの嘘っぽい華やかさの中を進んで行ったところに階段があり、それを上っていく。    店の紹介文には「隠れ家」と書かれていた

          おいしい背伸び