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大企業とVCから生まれたジョイントベンチャーが、ゼロから人事制度を構築することを決めた理由

創業時と比べて増加してきたメンバー数。多様な人材が集まることで、部署や部門などの組織数、ポジションも増加し、今運用している制度の再検討の必要性を感じはじめている企業も少なくないでしょう。

人事制度は企業の成長に応じて各社がオリジナルで設計するケースが多いですが、果たしてそれは大企業のスピンアウトやカーブアウト型のスタートアップにも当てはまるでしょうか?

今回は、自社にフィットした人事制度を一から構築するためのプログラム「スタートアップ人事制度ブートキャンプ」の参加者であるSPACECOOL株式会社CFO 兼 コーポレート本部長の井口様にインタビューを実施しました。

SPACECOOLは、大阪ガスとWiLによるジョイントベンチャーで、放射冷却素材を活用した製品を展開しています。創業4年目を迎えた今、なぜ独自の人事制度構築に踏み切ったのでしょうか。井口様に、制度の構築を始めた経緯やプログラム参加の決め手についてお話しいただきました。

SPACECOOL株式会社 CFO 兼 コーポレート本部長 / 井口 晃一様
2015年、SMBC日興証券(株)入社。主にM&Aアドバイザリー業務に従事し、企業間の買収・売却、経営統合、非上場化、資本業務提携等、さまざまなM&A案件の執行に関与。
2024年1月にSPACECOOL(株)へ参画。CFOとして財務面の業務に従事する他、コーポレート本部長としてバックオフィス業務全般を統括。大阪大学大学院基礎工学研究科修了。

マーサージャパン株式会社 組織・人事変革コンサルティング部門マネージャー / スタートアップイニシアティブリーダー 筒井 祐輔
医療(Med tech)、Webメディア、マーケティングSaaS、EC、エネルギー等、さまざまな領域のスタートアップ・ベンチャー企業への支援をリード。社員数、数名規模の未上場企業から、数百名規模のメガベンチャーまで、幅広いフェーズのスタートアップを支援。マーサージャパンにて、スタートアップ支援のリーダーを務める。

最新技術を活かした製品をいち早く事業化するためにジョイントベンチャーとして独立

ー SPACECOOL株式会社の設立の経緯をお聞かせください。

井口様:代表の末光は大阪ガス勤務時代、社会人として京都大学の博士課程に通い、「光工学を使った新しい事業の創出」をテーマに研究をしておりました。そこでの知見も踏まえ、大阪ガス内での研究テーマとして放射冷却現象(地球上の熱が宇宙に放出され、大気が冷却される現象)を技術に活かしたプロダクトを開発したことがはじまりです。

放射冷却現象が技術として世界で初めて論文で示されたのは2014年頃と理解しています。世界中の人々が本技術を取り入れた製品を製造することを見据え、いち早く事業として成長させていく必要がありました。

そのようなスピード感が求められる環境下で、外部のノウハウも取り入れながら開発を進めるべく、大阪ガス社内で事業化するのではなく、日米を中心に有望なベンチャー企業の発掘・育成・投資を行うWiLとのジョイントベンチャーとして2021年4月に創業しました。

ー 井口様がSPACECOOLに入社した経緯を聞かせてください。

井口様:前職ではM&Aアドバイザリー業務に従事しており、短期間で企業の価値が向上するインパクトの大きい仕事に携わることにやりがいを感じていました。そして、多くの会社の成長過程を見る中で、企業の成長を支援する側ではなく、自分も成長する組織の中に身を置いてみたい気持ちが生まれ、転職を決めました。

「自分のバックグラウンドを活かしつつ、社会性の高い事業に関わりたい」という軸で複数のスタートアップ企業の求人を見ていたところ、シード・アーリーステージでCFOを探していた当社の存在を知りました。

私は当初、必ずしもCFOになりたいと考えていたわけではなかったのですが、CFOを求める企業はIPOの準備や上場を前提としたところが多い中、当時の当社の資金調達は大阪ガスとWiL、2社のみです。

カーブアウト型のスタートアップとしてあまり前例の無い資金調達の過程を経る必要のある当社で、その状況下でもCFOを探している環境に、事業拡大への期待感と共に新しい前例を作ることができるやりがいを抱き、自分のこれまでの経験も活かしながら携われそうだと入社を決めました

メンバー数の増加とともに難しくなる“公平な”評価基準

ー 創業からの3年間で、SPACECOOLが人事や組織設計において大切にしてきたことを教えてください。

井口様:実は創業以来3年間、当社には人事制度がありませんでした。我々の事業は、既存の市場がないところに新しい技術や製品を生み出すビジネスモデルです。他事例やロールモデルがない状況のため、組織内においても評価基準を定められずにいた側面もありました。

創業メンバーは、自身の社内評価よりも、いいプロダクトを生み出すことをモチベーションに自走できる人ばかりで、人事制度を構築する必要性に迫られなかったとも言えます。ですので、これまでは評価やバリューなどすべてプロダクトベースで考えることを重要視してきました。

ー 人事制度が存在しないことで困ったことはありませんでしたか?

井口様:困ったことはなかったと聞いています。人事制度がないので昇降級の仕組みも無かったわけですが、パフォーマンスが落ちることもなければ、退職者もいませんでした。

筒井:素晴らしいですね。SPACECOOL様はこれまで人事制度がない状況下でも順調にメンバーを増やされています。採用活動の際に意識されていたことはありますか?

井口様:創業時も現在も変わらず、「プロダクトに対して愛を持っているか」を採用基準のひとつにしています。「このプロダクトなら売りたい」「さらによくしていきたい」という志がある方に入社していただきたいので、採用プロセスの中には実際に製品を見てもらう時間も設けています。

ただ、創業時から大きく変化したことのひとつに、メンバー数が数名から25名まで増えたことが挙げられます。プロダクト生産量の増加に伴い、生産管理や品質管理をするメンバーが必要になるなど、事業が進展するにつれて求められるポジションも多くなりました。

単に同じ役割の人が増えただけであれば、同じ評価基準が適用できますが、それぞれ役割が異なれば当然求められる能力や評価基準にも違いが生じます。メンバー全員を同じ物差しで評価することが難しくなってきたのが現状です

人数の増加と役割の細分化が進むなか、組織として目指す方向性や何が評価される取り組みなのかなど、会社としての羅針盤を示さなければ、全員の意を一つにして動くことが難しい状況が近い将来訪れるのではないかと危惧しておりました。

まだまだ小規模な組織ですが、今後適切な評価がなければメンバーの不満は募り、企業の成長は見込めません。将来を見据えての基盤を整えていく時期だと感じています。

さらなる組織拡大を見据え、早めの人事制度の構築を決意

ー 今回、人事制度を構築することを決めた背景を聞かせてください。

井口様:今年(2024年)の4月に末光が代表取締役に就任し、それに伴い採用計画や人員計画を見直したところ、当初の想定よりも前倒しでメンバーを増員する必要があることが分かりました。

これまでは人事制度を構築せずとも、プロダクトに対するモチベーションだけで業務に注力できる組織でした。しかし、今後事業や組織が拡大していくとメンバーのモチベーションは自ずと多様化していきます。

プロダクトへの愛が重要であることは変わりませんが、それだけで組織をまとめるのは難しくなるでしょう。メンバー数が増加しても、各人が目指す方向性を見失わないためにも、このタイミングで人事制度を導入するのが最適だと判断しました。

筒井:先行投資の意味合いもありますよね。社員数が100名を超えたタイミングや、上場後に人事制度を導入する企業もある中で、20名規模の段階で人事制度の必要性を認識されているのは良いと思います。組織が拡大した後にも耐えうる制度運用やマネジメントに早期に取り組むことは重要ですし、遅くなればなるほど導入の負担も大きくなります。

ー 人事制度を構築するにあたり、なぜ「スタートアップ人事制度ブートキャンプ」への参加を決断されたのでしょうか?

井口様:プログラムを知ったきっかけは、WiLの子会社としてさまざまなHR支援事業を展開している株式会社TBAの方からの紹介です。

当初はスタートアップ企業向けの人事に関する書籍を読みながら、自社内で構築することも検討していたのですが、独学では「本当にその進め方が正しいのか」を知る術がありません。

6週間という短期間で人事制度を構築できるスタートアップ人事制度ブートキャンプは、組織が新体制になる4月に向けて、時間的な余裕があまりない当社にとって理想のプログラムでした。

当プログラムであれば、不明点をその場で解消しながら正しい知識を得られるだけでなく、実際に制度をつくり上げられるのが魅力のひとつです。人事未経験の私にとって、実際に自分で手を動かすことで知識や情報が定着すると思い、座学+実践型の本プログラムに参加しました。

また、プログラムに参加することで、いい意味で強制的に制度構築を進める環境が整い、4月からのスムーズな導入につなげられると考えました。

ー 大阪ガスの人事制度を引き継ぐことは検討しなかったのでしょうか?

井口様:大企業とスタートアップ企業ではフィットする人事制度が異なるという認識があったため、大阪ガスの人事制度を活用することは考えていませんでした。大阪ガスと当社では、当然ながら経営目的も働くメンバーの志向性も異なりますから。

大阪ガスの意向ではなく、自分たちが目指すべき姿を制度に反映させるためにも、ゼロから制度設計をすることを決めていました。経営者の思想が入る人事制度は自社で設計すべきかなと。

プログラムには私とコーポレート本部長前任者の2名で参加し、代表の末光とも話し合いをしながら詰めていったことで、経営サイドの意向も取り入れながら制度を構築できました。

筒井:スタートアップ企業では、代表の前職で活用していた制度や思考に引っ張られてしまうケースもあります。一度立ち止まり、自分たちの置かれている状況やなりたい姿を踏まえてゼロから構築する思考に至ったのは、非常に素晴らしいと思います。


「スタートアップ人事制度ブートキャンプ」で組織拡大を見据えた準備を今から始めませんか?

インタビュー前半では、人事制度が存在しなかった状況から制度導入に至った経緯や、プログラム参加の決め手についてお話いただきました。後編では、プログラム受講の感想や人事制度をスムーズに導入するための実践方法について伺います!

「スタートアップ人事制度ブートキャンプ」では人事制度の構築を始めたい方や、人事制度について学びたい方からのご参加を心よりお待ちしております。

▼「スタートアップ人事制度ブートキャンプ」詳細はこちら

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