【わかりやすく解説】インスタストーリーのALL EYES ON RAFAHとはなにか
高校生の頃から世界史ギークで、日々英ニュースで世界情勢を追う某大学生です。
2024年5月29日現在、Instagramのストーリーで海外セレブやインスタグラマーを中心に、以下のような画像がシェアされているのを見かけた人も多いのではないでしょうか?
日本語で解説されている記事が少なかったため、なぜこのような事態が起きているのかもっと日本語話者にも知ってもらいたい!と思いこの記事をシェアすることにしました。
インスタストーリーにおけるシェア
上記に提示した画像は、イスラエルの軍事侵攻が進行中の「ラファ」という地域で起きている人道的危機に国際的な注目を払うよう人々に呼びかけるものです。
AI生成と思われるこの画像は、「All Eyes on Rafah」を綴るように配置されたテントキャンプの航空写真で、2024年5月27日にInstagramのストーリー機能を通じて@shahv4012からシェアが始まり、29日現在40M つまり4,000万人以上に拡散され続けています。
次章で詳しく解説しますが、「All Eyes on Rafah」とは日本語に訳すと「ラファに刮目せよ」「すべての視線がラファに注がれている」という意味です。イスラエル軍によってラファで行われている残虐な行為に目を背けず、自身の目で見てほしい、関心を持ち行動してほしいというニュアンスが込められていると思います。
Black Lives Matter(BLM運動)や #MeToo運動 のように、SNSを主軸に展開する抗議運動の一種であるといえるでしょう。
「All Eyes on Rafah」の背景
このスローガンは、2024年2月に世界保健機関(WHO)のパレスチナ占領地事務所でディレクターを勤める、リック・ピーパーコーン氏が会見で"All eyes are on Rafah(すべての目がラファに向けられている)"と述べたコメントが由来だそうです。
紀元前の出来事に端を発し、4回にわたる中東戦争を経てなお、2024年現在も緊張が高まるパレスチナ問題。
非常に長く複雑な歴史がありますが、世界史を学んだことのない人にもこれを機に知っていただけるよう、簡潔に紹介したいと思います。
・前提知識
パレスチナとは地中海東岸一帯の地域名で、現在のイスラエルやヨルダン川西岸地区、ガザ地区をまとめて指す言葉です。
グレー部分がイスラエル国。国民の多くはユダヤ人でユダヤ教を信仰しており、主な公用語はヘブライ語です。首都はキリスト教・ユダヤ教・イスラム教の聖地として知られるエルサレムです。
一方で、オレンジ部分はパレスチナ自治区(正式名称:パレスチナ暫定自治政府, 通称PLO)と呼ばれる地域で、独立国家ではありません。住民の多くはアラブ人でイスラム教を信仰しており、アラビア語を話します。
・超☆概略な歴史
「肥沃な地」と称されるパレスチナでは、紀元前からユダヤ人による王国(※1)がありましたが、紀元後になるとユダヤ人を迫害する(※2)ローマ帝国の支配により追放されたユダヤ人は世界中に散らばり(※3)、パレスチナの地では新たに移住してきたアラブ系の人々が暮らすようになりました。
中世では貿易の要衝として栄えていました(※4)が、16世紀以降になるとオスマン帝国の一部になり、 パレスチナでイスラム教徒・キリスト教徒・ユダヤ教徒が共存する時代が続きました。
しかし19世紀、西欧諸国の中東進出によってオスマン帝国に崩壊の危機が訪れると、オスマン帝国からの独立を目指すアラブ人の動きが活発化するとともに、紀元後以降、ヨーロッパ各地で差別・迫害を受けていたユダヤ人の間で、パレスチナに国家再建設をめざす「シオニズム運動」が生まれます。
このような状況で迎えた第一次世界大戦中、イギリスが「三枚舌外交」を行なったことで民族主義の衝突が決定的になり(※5)、第二次世界大戦後にパレスチナの地にアラブとユダヤの二つの国家を作るという「パレスチナ分割決議」が国連で採択されたものの、その土地配分に猛反発が巻き起こり、不利な条件を提示されたユダヤ人はイスラエル建国を宣言します。
この宣言を受けて第一次中東戦争が勃発し、その後もアメリカや周辺アラブ諸国の思惑が大いに反映されながら第二次、第三次、第四次まで紛争は続き、1993年にパレスチナ暫定自治協定によってパレスチナ自治区が認められた(※6)ことで、上記に示した現在の領土分割図のようになりました。
・構図
このように、「パレスチナ問題」は、ユダヤ人(イスラエル)とアラブ人(PLO)がパレスチナの地に国家を建設することに関して勃発する紛争を巻き起こします。
周辺アラブ諸国の当問題への関わり方は時代とともに変容していますが、アメリカは一貫としてイスラエル側を経済的・政治的に支持しており、真偽はともあれイスラエルを支援するとされる欧米企業の不買運動(ボイコット)が近年起きています(※7)。
・直近の動向
第二次世界大戦後から断続的に続く紛争に、なぜ今「All Eyes on Rafah」というスローガンが掲げられて注目を浴びているのでしょうか。
それには、ここ数日で起きたイスラエル軍による軍事攻撃が大きく関係しています。
今年2月にイスラエル軍によってガザ北部から徐々に南下して行われた爆撃は、ガザ地区にいた人口約230万人の半分以上もの人々を「安全地帯」と宣言されていた最南部・ラファへの避難に追いやりました。ところが、民間人の死傷者に対する世界的な抗議や国際司法裁判所(ICJ)の牽制にもかかわらず、イスラエル軍は日曜日(2024年5月26日)、人々の詰め込むラファに陸上攻撃と航空攻撃の両方で進撃したのです。地元当局は、この砲撃・空撃によって、ラファのテントキャンプに避難していた少なくとも45人の民間人が死亡したと報じました。また、火曜日(2024年5月28日)には、ラファ西部の避難キャンプで21人が死亡し、水曜日(2024年5月29日)の朝にも空襲が報告されたようです。
イスラエルのベンジャミン・ネタニヤフ首相は、この事態を「悲劇的な事故」だったと議会でコメントしましたが、これらの被害には、幼い子供や女性も半数以上含まれており、「All Eyes on Rafah」というスローガンは、約140万人もの人々が避難しているラファでまさに今、起きていることから目をそらさないようにと傍観者へ要求することを意図していると言えます。
おわりに
「世界で最も解決が難しい紛争」といわれるパレスチナ問題。
民族的・宗教的な対立は深化し、大量の難民と死傷者を出し続けている一方で、ユダヤ人もアラブ人も歴史的に慣れ親しんだ土地を追われたもの同士であり、パレスチナ全域は現在多様な移民の文化が混在するモザイク社会になっていることも確かです。
自分には直接的な影響がないから、と無関心になることなく、今まさに世界で起きている出来事により多くの人が関心を抱いてほしいと切に願います。
この記事がその一助になりますように!