とりつく暇もない話~chatGPTを使った言葉の選択
これは誤用です。正確には『とりつく島もない』です。しかしもはやそんな議論をしたところで「とりつく暇もない」のです。
とりつく島もない
語源は以下の通りです。
用例としては「頼みの綱だった上司にも断られてしまい取り付く島もない」などでしょうか。
似たような表現では「にべもない」「けんもほろろ」などがあります。そこでchatGPTを使って以下のような質問をしてみました。
chatGPTの解釈
質問内容
表現についての質問です
とりつく島もない
にべもない
けんもほろろに
といった表現があります
太郎は花子に話しかけたが相手にしてもらえなかったというシチュエーションで使う場合、花子が面倒をさけるような態度をとる場合の表現としてはどれが適切でしょうか?
一年ほど前にchatGPTを利用した時にはここまでの回答を期待できませんでしたが、すごい進歩ですね。
僕は「とりつく島」を採用することにしました。しかしここからが本題。
正確性と違和
しかし、この文章は僕の中では違和感はないが文法的には問題があるのではと物書き仲間から指摘を受けた。
たしかにそうなのだ。「とりつく島もない様子」というのは口語では一般的であるが、本来であれば主体が「どうにもできない」と感じるものであって地の文で書く、第三者の視点で書くには不適切とは言わないまでも、不正確である。
意味は伝わるがなんとも歯切れが悪い。違和がある。であれば『男はにべもなくジールマンを避けた。』などにしたほうがよほどすっきるする。或いは『すげなく』なども候補としてはある。
そこでもう一度chatGPTに意見を求めてみた。
質問内容
「太郎は花子に話しかけたが、花子はとりつく島もない様子で、無視した。」は花子が太郎を避けていたという様子を伝えることはできますが、本来の「とりつく島もない」は主体となる太郎の心情であって、正確に記すのであれば、「太郎は花子に声をかけたが無視をされた。太郎にすればとりつく島もないと感じていただろう」となるのではと考えました。
文章の正確性と違和を感じるかどうか、読み手に伝わるかどうかを考えた場合、正しくなくても簡潔に伝わる表現を選ぶべきかどうか。
意見をお願いします。
なるほど、トーンや文体ね。それはそうだと思う。そして『にべもなく』『すげなく』は僕自身があまり使うことがない表現であること。合わせて『島もなく』が『暇もなく』と誤用されることが多いということは、それだけこの表現が一般的であるという判断から、やはりと『りつく島』を採用しつつ、整合性を取ることにした。
結果はこうである。
まだ修正はしていませんが、これであれば地の文として明瞭にジールマンの心情を表現できているように思えます。まだ正解ではないかもしれませんが、だいぶイメージに近づいてきました。
イメージを言語化することを問い続ける
物書きというのはとどのつまりが自分がイメージしたことを多くの人に伝わるよう言語化する作業を命題としています。ときに正確性を求められ、時にレトリックを用いて強調、修飾し、ときに慣用的表現を使いこなし、それらをトータルにコーディネイトする必要があります。
ゆえに販売されている書籍は編集や校正を別に設けて内容をチェックし品質を管理する必要があります。『オートマタ・クロニクル』はただでさえ20世紀初頭のドイツという舞台設定に対する時代考証が必要です。
こいつをもし商用に書籍化しようと思ったらかなりの作業量が必要でしょう。しかしそうまでして舞台を海外に設定したのには理由があります。
それはおもしろいから!
電気や電話が普及し始め、馬車から汽車、路面電車、ガソリン自動車と交通手段が近代化し、人々の生活が大きく変わった時代。そんな舞台で物語を展開させたらおもしろいじゃないですか!
僕はそのためにこの時代の文化にできるだけ触れようとミュシャやモネといった絵画展に足を運び、当時のガソリン車の歴史を調べて博物館に足を運び、どのような食生活であったのかをネットで調べる。
そして驚いたことに現在のchatGPTは非常に優秀でそうした調べ物の助けになりえます。
『1910年前後のドイツの都市、ブレーメンの街の様子を教えてください』という問いに対して僕が知っている以上の情報を与えてくれます。しかし大事なことはまず自分で調べること。そのうえで自分の理解が正しいかどうかを検証するにはとても便利なツールだと感じました。
おそらく日本人にとって当時の『自由都市』というものがあまりイメージできないと思います。そのあたりの情報を調べるうえで非常に有効なツールでした。
その見たことのないブレーメンの街をいかに読者に感じてもらえるかは、僕の筆力にかかっているわけです。
知らないことを知ることの楽しさ
ハンザ同盟という言葉は世界史の中でなんとなく聞いたことがあるのではないでしょうか。僕もその程度の知識でしかありませんでした。ブレーメンといえば音楽隊。地理に詳しい人であればそこが港で栄えた貿易と造船の町だということくらいでしょうか。
僕が書いている物語は冒険小説までエンターテイメントに振れていませんが、できるかぎり当時の様子を描写して物語を読んでいるだけでその場所や時代に興味を持ってるような物語にしたいと考えています。
それは僕が知らない土地とその時代の文化や人々の生活を知ったときの楽しさを多くの人に共有してもらいたいからかもしれません。
そして新しいテクノロジーによって社会が変わっていく様子は2025年の現在と似ているように僕は思えるのです。馬が引いていた車両が自力で動いてより早く移動する世界。
当時の人たちはどのようにガソリン自動車を見ていたのでしょうか。また電報や電話の登場は彼らの生活をどう変えていったのでしょうか。
ああ、時間が欲しい。これが本当の『とりつく暇もない』かもしれませんね