【読書感想文】ホワイトラビット 伊坂幸太郎さんの(個人的には)新感覚小説
立てこもり事件の犯人と人質の実態が明らかにされたあたりから再読することに決めた。予想だにしない展開になるが、何しろこの小説は時系列と語り手が入り乱れているので、どこで核心にたどり着くのかが分からない。
以前は小説は一度読めば十分だと思っていた。最近になって、結末を知ったうえで読むと、伏線であることを示すような表現になっていることや、読み過ごしていた登場人物の僅かな感情の揺れなどを発見できるという再読の面白さに気が付いた。
物語が複数の登場人物目線で紡がれることはよくある。この小説が新感覚なのは、登場人物ではなく作者目線の文章が入っていることだ。それはまるで、読みながら頭の中のスクリーンに映し出される映像を、作者が握るリモコンによって一時停止させられては、解説を聞かされ、この入り乱れた時系列に従って巻き戻して続きを再生、あるいは早送りして再生、と操作されているような感じだった。
「ホワイトラビット」は、口コミで「レ・ミゼラブル好きにおすすめ」というのを見て読みたくなった。私は小学生の頃に青い鳥文庫の「ああ無情」を読んでからこの物語が好きで、近年ではヒュー・ジャックマン主演のミュージカル映画を三度は観て、ニューヨークにこのブロードウェイを観にいったぐらいのレ・ミゼラブル好き。でも、長編小説はまだ読破できていない。青空文庫で読んでいたが、この「ホワイトラビット」内でも触れられているように、なにしろ映画やミュージカルで触れられるストーリーの大筋部分と関係がなさそうな説明や話が、やたらと多いし長くて挫折してしまった。とはいえ、作中の空き巣を生業とするような若者でも5年かけて読んだらしいので、これを完読せずには「レ・ミゼラブル好き」とは言えない気がしてくる。
「オリオン座」にまつわる神話や形、他の星座との位置関係なんかが物語の鍵となって、ストーリーが展開されていく。どうってことのない蘊蓄を交えた雑談のようにみえる会話が、後に重要な意味を持っていたりするのが面白い点だった。
伊坂幸太郎さんの作品には、人として持つべき感情だったり思考だったりが、さりげないメッセージとして含まれていると感じる。いいなと思う表現だったり、心に刺さる一文があったりする。そして、どんなに登場人物が悪党だらけ(マリアビートルやAXなどの殺し屋シリーズも好きな作品)であっても、コミカルな部分があり、どこかハートフルな部分がある。
本作のユーモアを含んだ表現は個人的にかなりツボにはまる部分があり、通勤のタクシー内や、暇でノートパソコンを盾に読む仕事中に笑い声を抑えるのに苦しんだ。
メッセージ性が強い作品とはいえないけれど、誘拐、泥棒、詐欺なんかを生業とするような人物が多く登場する中、「レ・ミゼラブル」をキーワードの一つとして、゛正しく生きる”とは何かを考える作品だったのかなと思う。