集団心理~人はどのように行動するのか~ 新型コロナウイルス編
群衆心理・集団心理とは何か
群衆心理、集団心理は社会心理学の一部です。人間が社会や生活の中でどのように行動するのか、人の心と行動の仕組みについて研究する学問です。
例えば、代表的な例としてはソロモン・アッシュの同調実験は有名なものとしてあります。実験参加者10名が集められ、そのうち9人はサクラで、本当の実験参加者は1人。その1人がどんな行動をするのかを見るものです。実験では3本の異なる長さの線を提示します。その後新しく1本が提示され、3本の線と同じ長さのものはどれでしょう?と尋ねると、サクラは全員が間違った選択をして、それに対する参加者の選択を見るという実験です。
これによって3分の1の参加者が、サクラと同じ選択をしてしまう、というのが同調行動の例です。
他にも日常生活では色々な同調行動が見られます。TwitterやFacebookでのいいねについては、ほとんど思考せずにみんながいいねを押していたから、いいねがたくさんついていたから押している人はたくさんいます。本心でいいねを押している人はそれほど多くはないのです。(ましてや投稿を見ずにいいねを押している人もいるでしょう)
フランスの心理学者ル・ボンは『群衆心理』の中で
意識的な個性が消え失せてあらゆる個人の感情や観念が同一の方向に向けられる。そして一つの精神集団が生まれるのである。その集団精神は個よりも劣り、個が良い方向へ導こうとしてもそれを阻んでしまう圧倒的な勢いを持つものである。
と述べています。つまり集団に属している時と個人でいる時では違った行動や判断をする生き物なのです。そしてそれは興味深いことに、個人を説明する心理学では説明できないものがあります。それを扱っているのが社会心理学、集団心理学というものなのです。
そして今回はコロナ禍における集団心理とはどういったものなのかを、集団心理の観点から解説していく前に、集団を形成する前の個人はどのように行動するのか、何に突き動かされているのかを明らかにしていきます。それを踏まえて、コロナウイルス終息後の集団の行動を考察していきたいと思います。
なお、コロナ禍、コロナ後における心理学の視点からの論文はほとんど出ていないため、社会心理学の観点からこういうことが考えられる、というまでしか言及できません。事実になるかどうかも今時点では確認できないので、後知恵バイアスに引っかからないためにもここに記していこうと思います。
※後知恵バイアスというのは、物事が起きたあとに「そうだと思ったー」などと、まるでそのことが「はじめからそうなるとわかっていた」と考える心理的傾向のことをいいます。
コロナ禍における個人の行動
では、まず個人の行動を見ていきます。テレビ番組やニュースでもよく見かけましたが、自粛をせず自分勝手な行動をする人や、自粛期間に耐え切れずに外出を繰り返してしまう人、不安を感じてトイレットペーパーを買い占めてしまう人もいました。
では、なぜそのような行動を取ってしまうのでしょう?
これはとても難しい問題でひとつの要因だけで説明できないものであります。例えば、自己中心的なパーソナリティを持っていたり、神経症傾向が高いパーソナリティを持っているために、不安を感じやすく、冷静に考える前にその不安を解消しようとして、そのような行動をとったのかもしれませんし、自粛をしろ!と強制されたことによる、心理的リアクタンス(~してください、と言われるとしたくなくなる)かもしれません。
このように単一の理由で説明することはできないので、複数の原因を探っていきます。
例えば、進化心理学の視点から考えると、人は不安になると身を寄せ合う習性を持っています。しかし、コロナ禍においてはその行動が逆に身を危険にさらす行為になってしまうのですが、正しい判断ができなくなってしまっているのはそういった原因も考えられます。
また、個人の知性も関係しているかもしれません。知性が低いために正しい判断ができないということもありますが、知性があれば正しく、冷静な判断ができるかと言えばそうとも限りません。なぜなら、知性が高くても人間はバイアスにはかかるものだからです。
バイアスとは偏ったものの見方のこと。心理学では認知バイアスというように言われています。簡単にいうとこれは思考のクセのようなもので、この偏った見方をすることによって人間は巧みに生存してきました。なので、バイアスが一概に悪いというわけではないことは覚えておいてください。
例えば、後ほど紹介しますが、私たちはネガティビティ・バイアスというものを持っていますが、こういったバイアスを持っているおかげで、コロナウイルスの脅威に対しても対応できているのです。このバイアスがなければ、コロナなんて大丈夫~、と考え脅威と認識しないために、感染が広がることは容易に予想できます。そのため、バイアスというのは持っているからこそ、健全な対処法を学ぶ必要があるのです。
ではコロナ禍においてかかりやすいバイアスにはどのようなものがあるのでしょうか?
持続性バイアス
1つめは持続性バイアスです。
これは「いまの環境・感情や状況がずっと続く」と思ってしまうバイアスです。
コロナはいつ終わるのだろう、ずっと、しばらく、もう少なくとも3カ月?ワクチンが開発されるまでだから一年以上?
様々な憶測が飛び交う中、多くの人がこの状況はしばらく続くと思っていました。
しかし、蓋を開けてみれば先週5月15日頃には、東京では1桁まで減少しました。
いまの状況がずっと続くことはまずありません。感情においても同じです。
ずっと不安な感情でいられたり、ずっと怒っていられる人も、ずっと喜んでいられる人もいません。失恋したときには絶望の淵にいて「もう一生彼女なんてできない、人生おしまいだあー」と思っていても、1年後には新しい恋人と出会ったりするのです笑
人は今を変えるために、前に進むために成長する素晴らしい生命体です。ずっと同じ「今」にいられるような生き物ではないのです。だから「今」がずっと続くことはありません。
それは、恋愛や家族、友人も同じ。今を大切にしようと思えると相手との接し方も変わります。そしてこの自粛生活についても、新しい見方ができるようになるのではないでしょうか。
正常性バイアス
2つめは正常性バイアスです。これは自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価するバイアスです。
このバイアスが一番取り上げられるのは、地震や震災が起きた時です。津波が起きた時も、「自分だけは大丈夫」と考えてしまい、逃げ遅れてしまうということが多くありました。
そんな私もバイアスの勉強を改めてしている中で「正常性バイアスが働いていたな、、、自分だけが大丈夫なんて保障はどこにもないんだ」ということに気づけるようになりました。
リスクは誰にでも等しく訪れます。自分だけがかかる可能性が低い、というラッキーボーイやラッキーガールではないことを忘れないようにしましょう。
現在バイアス
3つ目は現在バイアスです。これは「いま、現在に起きていることが重要だ/現在の方が価値が大きい」と考えてしまうバイアスです。これに関する心理学の実験では、このようなものがあります。
「いま10000円をもらう」or「1ヶ月後に10500円もらう」
あなたはどちらを選びますか?
実験では8割~9割の人が「いま10000円もらう」を選択すると言われています。
「俺は10500円にしたぜ!」という方はこの実験について知っている、もしくは投資やお金の勉強をされている方でしょう笑
1ヶ月後に10500円もらうということは1ヶ月で5%も利益になっているということですので、なかなかお得な話ですよね。
人は目先の誘惑に弱い生き物です。ダイエットをしようと思っていても、目の前にケーキがあったら今日は特別!といって食べてしまうし、夏休みの宿題は重要だとわかっていても先延ばしするものです。
そして現在のコロナ時代においてはどうでしょうか?自粛をすべきとわかっていても外出してしまう力が働いてしまうのは、この現在バイアスの影響もあるということです(禁止されると逆に破りたくなる、カリギュラ効果というのもあるでしょう)。
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