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『「甘え」の構造』土居健郎

ブックカバーチャレンジ 2日目
『「甘え」の構造』土居健郎 弘文堂

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筆者は東大の精神科医。二日連続で精神科医の著作になった。前回の神田橋先生は日本の精神科医の中でも異端中の異端であるが、この土居先生は日本の精神医学におけるメインストリーム、大御所なんで、裏と表みたいな立ち位置である。

この本では、日本語の「甘え」に対応する言葉が英語には見つからないことに気づいた著者が、そこを端緒にして「甘え」概念の分析を試み、そこに日本と欧米の文化の違いを読み取る。

「甘え」概念は、SMマトリックスでも常に話題になり続ける「支配型М」に通じるものがあり、SMマトリックスの精度を高め、奥行きを深めるために以前、めんたねサロンのテキストとして読んでいた。

著者は「甘え」概念のみならず、いくつもの「甘え」関連概念も分析している。

たとえば、「気」の概念分析においては、「気がある」「気が多い」「気が置ける」「気が利く」「気が気でない」「気が暗くなる」「気が沈む」「気が付く」「気が詰まる」「気が遠くなる」など、「気」という言葉を用いたたくさんの言い回しを通じて、「気」概念に共通するものはなにか?を考察し、「気とは瞬間瞬間における精神の働きを指す」「気は常に快楽志向的である」などと結論付けている。

言葉というのは、耳で聞こえたり、目で読めたりと観察可能なものでありながら、感情や思考という頭の中にあって直接、観察不能な事柄への窓口となる。人の心を知るための重要な手がかりだ。

日頃、我々が何気なく使っている言葉に対して、実はどのような意味を読み込んでいるのかということを分析し、その背後にある思考や感情のあり様を明らかにしていく筆者の手法は、言葉から内心へアクセスする際の一つの方法論として、とても参考になる。

なお著者は「日本人」「欧米人」という大きなくくりで思考や感情の様式を分析したが、必ずしも概念分析の使い道はそれだけではない。「Aさんはいつもこういう言葉の使い方をしている。だから、その背後にこのような思考や感情があるのではないか?」などと個人レベルにもその方法論は適用できる。

複数の実例から共通構造を見つけ出して、考察を加えるやり方は、アドラー心理学におけるライフスタイル分析にも通じるものがあるし、ぼくが日ごろよく使っている「アナロジー」を支える根幹でもある。

平易な文章で、読みやすくわかりやすく書かれているので、誰でも臆することなく読むことができると思う。

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