EBM(エビデンス)を一刀両断「後悔したくなければ「医者のいいなり」はやめなさい」名郷直樹
医療情報にふれると「エビデンス」「エビデンス」と連呼されることが多いが、そもそも「エビデンス」はそれほど確実なものなのか?著者の名郷直樹氏は20年以上「EBM」をもとにした診療を行っている西洋医学の医師だ。
「エビデンス」を突き詰めていくと、病院に行くのもいかないのも、治療を受けるのも受けないのも、患者次第。「どっちがいい」と言い切ることはできないと結論する。EBMの創始者、デビット・サケットはこう述べる。「医者はとにかく医療が役に立つと思いやすい。だから医者のいうことには気を付けたほうがいい」。
いたずらな医療批判になることなく、適度なバランスを保つのに知っておくと良い知識を得られた。
エビデンスの落とし穴
名郷氏は、医者が治療を有効だと「思い込む」4つの状況があると説明している。EBMを突き詰めていくと、近藤誠氏の主張に近づくのかもしれない。じゃあ、医療って・・・?という気持ちになってくる。
①勝手に治る病気を治療して有効だと思い込む
②どうやっても死んでしまう病気に有害なことをして最善の治療をしたと思い込む
③治療を受ける人は受けない人に比べてもともとよくなりやすいのを治療のせいと思い込む
④権威やその道の達人のやることはいいことだと思い込む
インフルエンザ治療のエビデンス
「実は、通常のインフルエンザは、薬を飲まなかったとしても平均すると1週間ほどで症状がなくなり治ってしまいます。 あるランダム化比較試験では、一般的な大人や子どもがタミフルを服用した場合、高熱やセキなどのインフルエンザによる症状が消えるのが、約21時間短縮されると報告されています。つまり、タミフルを飲めば約1日早く病状が良くなるということです。 タミフルを飲めば、6日間で症状がなくなる。 薬を飲まなくても、7日間で症状がなくなる。 こうして並べてみるとわかりますが、たった1日のために、副作用があるかもしれない薬を服用するのはどうでしょう。」
後悔したくなければ「医者のいいなり」はやめなさい (日本文芸社)名郷直樹 (著)
インフルエンザといえば、危険な副作用があるかも?といわれる「タミフル」という薬がある。冷静にエビデンスを調べると、わずかにインフルエンザが治る期間が短縮されるだけだということに気づく。
医師がインフルエンザと診断した後に患者に治療を選ぶ余地を与えてくれるとよい。病院に行くと薬をもらうというパターンができているけど、そのパターンを壊してみると見えてくる世界があるかもしれない。
ちなみに、以前は毎年のようにインフルエンザにかかっていたが、最近では風邪もひかなくなった。体調が不安定な時は、とにかくビタミンCを摂取するようにしている。そもそも、高タンパク質・メガビタミンなど日々の栄養摂取が大きい。
病院に行ってもしょうがない。基本的に薬も飲まない。これもひとつの選択だ。もちろん自己責任だけど。
がん検診のエビデンス
「多くのがん検診が行われていますが、ランダム化比較試験でがんの死亡率が少なくなるというレベルのエビデンスがあるがん検診は多くありません。大腸がんと乳がんくらいです。・・そのうち、乳がん検診によりどれほど乳がんによる死亡が少なくなるのか、見てみましょう。 以下はマンモグラフィーによる検診の効果です。 検診を受けないグループでは、13年間の乳がん死亡が0・24%に対し、検診したグループでは0・22%と、検診グループで少ないという結果です。どうですか。びっくりするような結果です。ただこの結果は、100の乳がん死亡を81まで減らすと表現することもできます。この数字で見るとまあまあという結果かもしれません。 より信頼性の高い研究に限って検討すると、どちらも13年間の乳がんの死亡は0・33%で、検診の効果が認められなくなります。」
後悔したくなければ「医者のいいなり」はやめなさい (日本文芸社)名郷直樹 (著)
芸能人が、がんを告白すると、その都度、がん検診に行こうブームが生じる。しかし、エビデンスを探ると、これまた、何も言えなくなる。がん検診を受けても受けなくても、死亡率に差がないなら、がん検診を受けないという選択肢もある。
がん検診を受けなければ、そもそも、がんを発見されないで済みますから、過剰診断、過剰診療を避けることができる。近藤氏のいうような、がんもどきを見つける必要はないのかもしれない。また、本物のがんを攻撃してしまい、がんが大暴れするという失策を避けられるのかもしれない。
近藤氏の意見には、強烈なアンチ(主にドクターたち)もいるが、いわゆるエビデンスに語らせると、近藤氏の意見は真っ当なものであることが分かる。健康診断、がん検診を「受けてはいけない」と主張するまでではないとはいえ、「受けなくても良い」と選択する人がいてもおかしくないということになる
「がん検診を受けないと手遅れになるかもよ!」という強い意見は「感情論」ということになる。体調を客観的に、数値的に知ることは良いことだと思うけど、それ以上の価値はないのかもしれない。
MRI検査のエビデンス
「実はMRI検査では、本当は正常だけれど、異常と間違えてしまう「偽陽性」が多いのです。病気を見逃さないために少しでも異常が疑われる部分があれば、それを映し出さなくてはなりません。そうなると、本当は正常なのに異常と指摘される部分が多くなってしまうのです。 言い換えると、MRI検査によって「無実の罪をかぶせられてしまう」というわけです。」
「それを証明する研究結果もあります。異常が何もない大人にMRI検査をして、症状がないことを伏せたままで画像を読んだところ、その8割近くに何らかの異常があると放射線の専門医が指摘したといいます。ただそういう患者は、そのうち症状が出てくるので、それで早期発見できているのだという反論があるでしょう。しかしこれに対しても研究が行われています。 とくに症状は出ていないけれど、MRI検査によって「異常がある」といわれた人を追跡調査したところ、ほとんどの人はその後も症状が出なかったというのです。」
後悔したくなければ「医者のいいなり」はやめなさい (日本文芸社)名郷直樹 (著)
CT検査は「被ばく」のリスクがある、MRI検査は「無実の罪をかぶせられてしまう」リスクがある。なかなか検査を受けられなくなってくる。腰痛でMRIをとると、ヘルニアだとか、なんだとか言われることがあるけど、結局、手術をしても痛みはなくならない。病院に行って、余計な「発見」をされるリスクは大きい。
腰痛に限って言えば、MRIなどで病変が発見された後の方が、症状が重くなる。いわゆるプラセボ効果だ。過去にTMSという腰痛治療の本を読んだが、実にしっかりしたエビデンスがある本だった。でも、こういう本は患者にも医師にも受け入れられない。
TMSプログラムのひとつは、脊椎の病変箇所が、いかに腰痛とは関係がないかというエビデンスを調べるところだ。まずは、その呪縛から逃れることが、腰痛治療の第一歩となる。
医師の仕事
より重篤な問題と、放置してもよい問題を区別するのが医師の仕事だが、なかなか「放置」してくれることはない。そのまま、強引な治療コースに進むことを考えると、なかなか病院に行こうという気にならない。
医師がこのような主張を本にするのは勇気がいることだろう。断定調に言われた方が、患者たちはついていきやすいのも事実だから。でも、エビデンスについて知れば知るほど、ごにょごにょした言い方になるわけだ。
「まっとうな意見の大部分は、「Aかもしれないし、Bかもしれない、あるいはCの可能性も」 というようなことではないか、EBMを20年間実践する中で私自身が明確につかんだことの一つです。 今もって、高血圧を診断すべきなのかどうか、治療すべきなのかどうか、私にはよくわかりません。糖尿病も、高コレステロールも、かぜも、インフルエンザも、みんな同じです・・・本当にどうすればいいか、医者もわからない、患者もわからない。誰もわからない。でも考える材料はあります。」
後悔したくなければ「医者のいいなり」はやめなさい (日本文芸社)名郷直樹 (著)
医療に対する見方がガラッと変わる、実におすすめの本だ。医師にかかるとき、また、極端な意見に触れたときにはぜひ読み返したい。
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