目標に向かう過程を楽しんでいるか「オケ老人」(主演 杏 監督 細川徹)
ちょっと息抜きに、肩ひじ張らずに見られる邦画鑑賞。何だかんだと、ほんわかした邦画が好きなのだ。血を見るものは苦手、できれば誰も死なないでほしい。そこで「オケ老人」だ。もうタイトルが面白い。
「オケ」はもちろん「オーケストラ」の「オケ」だ。映画の中では「カンオケ」の「オケ」と揶揄される場面も出てくるが、おじいちゃん、おばあちゃんたちのオーケストラが頑張る青春?ストーリーだ。予定調和と言えば、そうなんだけど、それでいいじゃない。見終わって爽やかな気分になれる映画でおすすめ。この映画からも、メンタルを強くする教訓を抽出してみた。
オケ老人(あらすじ)
数学教師の小山千鶴(杏)は「梅が丘フィルハーモニー」のコンサートを聞き感動して、再びオーケストラを始めたくなる。そこで、さっそく「梅が丘交響楽団」に入団するが、実は、ここは老人だらけのオーケストラだった。フィルハーモニーと交響楽団は違った!?のだ。すぐに脱退したかった千鶴だが、いつの間にか梅が丘交響楽団の指揮を行うことになり、気づけばオケを心から楽しんでいたのだ。そして、ついに梅が丘交響楽団主催のコンサートを行うことになる。
テーマ曲「威風堂々」が印象的に使われている。予告編だけでも面白い。
教訓1:「楽しめること」を目標に
千鶴(杏)は「梅が丘フィルハーモニー」のクオリティ高い演奏に惹かれていた。千鶴は二股をかけて、フィルハーモニーのオーディションを受けるのだ。しかし、フィルハーモニーのレベルは高く、プロ志向で、できない人はどんどんと切られていくシステムだった。最初は、高いレベルでの訓練を楽しんでいた千鶴も、だんだん追い詰められて、音楽がストレスになっていく。
一度は挫折を経験し、音楽を止めようとする千鶴だったが、周囲の人の励ましにより、再び音楽に向かい合うことになる。割り切って、老人ばかりの梅が丘交響楽団でのオケに真剣に取り組みだしたときに、音楽を心から楽しいと思えるようになるのだ。千鶴は、梅が丘交響楽団の老人たちのコンサートを成功させることを目標にしたのだ。
高い目標や夢を設定して、それを叶えようとしているのに少しも幸せそうではないことって「あるある」だ。高いレベルへのあこがれを持つのは悪くないが「プロ」と「楽しみ」は両立しないのも事実だ。時折、好きで好きで、気がついたらプロになっていたという人もいるけど、多くの場合、プロは血のにじむような努力をしていて、何度も止めたいという壁に衝突している。
そこまでの覚悟があるのか?というと、そこまでじゃないってこともあるだろう。それを本音として認めるのも大事だ。今の自分の実力で「楽しめる」ことを指標に舵を切るのも悪くない。先の夢や目標ばかり追い求めて、一日一日が楽しくないんじゃ意味がないのだ。
私の場合、基本、仕事中毒・燃え尽きタイプで、自分を追い詰めていないと罪悪感を持ちがちなんだけど、時に「上を目指さなくてもいいよ。楽しめることやろうよ」と自分に言ってあげることも大事かもしれない。別に目標を変えたっていいのだ。自分の人生なんだから。
教訓2:「過程」を楽しむこと
梅が丘交響楽団の指揮者だった野々村(笹野高史)は、何度も心臓発作を起こして生死をさまよう。指揮はできなくなってしまうものの、彼は最後に、バイオリンとしてオケに加わりたいと願う。野々村は、千鶴に大切なことを教えるメンター役の老人として出てくるんだけど、印象的なシーンがある。いよいよコンサート本番、出番間近で緊張する千鶴は、指揮者としての自覚から野々村に「今日は楽しみましょう!」と声をかける。それに対しての野々村の一言「もう楽しんでおるよ」。
これは、もうメンタルを強くする最強の秘訣じゃないか。先の目標や夢を追い続けて、その「過程」を楽しむことができないってのは、若い人あるあるじゃないかな。でも、旅の醍醐味は「目的地」だけではない、車窓から見る風景、そこに行くまでの「過程」も含めて楽しいわけだ。むしろ、そっちが目的だよね。老人はそういうことが分かっている。千鶴と共に、一年間、コンサートを目指して練習し続けてきた、その過程が十分楽しかったのだ。
目標を達成することだけではなく、目標に向かう過程も楽しめるようになると人生は無敵になる。楽しいことだらけだからだ。顔を醜くして、必死になって目標に向かう姿は格好よく見えるんだけど(私には)、楽しんでいる姿のほうが美しいかもしれない(第三者的には)。特に仕事の目標を持って励んでいる場合は「楽しんでいるか」という問いを、いつも自分に投げかけていたいと思った。
教訓3:老人から学ぶことは多い
変な言い方になるかもしれないけど、老人は侮れない。やはり人生経験というのは大きい。体は思うように動かなくなっているし、全体的にスローモーになるのは間違いない。しかし、人生経験から人を見る目や物事の本質を探る力は若い人よりはるかに持ち合わせていることが多い。千鶴もオケ指導をしながら、老人たちを引っ張っているつもりで、大切なことを彼らから学んでいたのだ。
若い時は目標に向かって全速力で走っていて、ほんと周りが見えなくなっていることもある。でも老人は、一度、そういう経験をしているから、若い人がどんな気持ちでいるかを察することができる。また、挫折を経験したり、リタイアしたりして、達観した目で若い人の目標を見ることができる。先輩風を吹かせると嫌われるから、自分からは主張しない老人も多いけれど、実は色々見えていて感じている。
特に若い人は老人から学ぶことを忘れないようにしなければならない。今、バリバリの経営者の成功本もいいんだけど、酸いも甘いも噛み分ける知識と経験を持った老人の人生訓を聞くのもいい。老人というと失礼だけど、出口氏の最後の講義もとても勉強になった。
感想まとめ
無理やり、メンタルを強くする教訓を引き出してみたけど、やっぱカギは「楽しむ」ことに行きつきそうだ。それにしても映画初主演の杏ちゃんは、表情が豊かでコメディがぴったりだ。見ているだけで楽しくなる演技。そして、音楽の使い方が良い。最初から最後までテーマ曲として「威風堂々」が使われるんだけど、最後のシーンの印象的な使い方に感動。映画を見た後、しばらくは、威風堂々を口ずさんでしまった。
目標やら、夢やら、追われるような気持ちになっている時には、実は足がもつれて転びそうになっているサインかもしれない。そんな時は、オケ老人でも見てクールダウンしたい。「楽しんでいるか、自分?」って。