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葬儀業界のぼったくり体質を憂う「死体の経済学」窪田順生

葬儀業界のぼったくり体質を考えると、死に際(正確にいうと死んだ後か)のことは、事前に考えておかねばならないと分かる。著者の窪田氏はジャーナリストだが、葬儀業界通の人物に聴きとり調査を行いながら、ぼったくり営業の内幕を暴露していく。冒頭のドライアイスの原価や、祭壇や生花のレンタルの暴利などの章を見ると、なかなかに衝撃的。

以前、葬儀屋さんのブログを見た時、本書に対して、非常に怒っていた(適当な事を書いて、葬儀屋を貶めているという批判)。しかし、一読者としては非常に役立つ本だった。私はこれまでに20冊ほど、葬儀・終活関連本を読んでいるが、本書は、単なる内幕暴露本ではないと分かった。葬儀業界の大きな流れをとらえ、今後業界が向かう方向を指し示しているのが興味深い視点だ。全体的には葬儀業界を「俯瞰」できる良書だった。

私がメモしておきたいと思ったところを忘備録代わりにまとめておく。

葬儀の「原価」

この本でもっとも述べたいところは、従来の葬儀業界のぼったくり批判ではなく、新しい「死」に関連したサービス・ビジネスの広まりだ。しかし、従来の葬儀を引き合いに出すにあたり、ドライアイスと祭壇に触れており、この箇所がやはり物議をかもす。

ドライアイスは原価の数十倍

「ドライアイスは1日10キロほどが適量とされている。これらすべてが気体に変わる頃を見計らって葬儀社が表れて、また新しいドライアイスを棺に納めるというわけだ。では、遺族はこのドライアイスにいくら払っているのか・・・1日8000円~1万円というのが相場だが、なかには未だに「ドライアイス代1日3万円」などと高額な代金を請求する業者もある。」(P22)

引用:死体の経済学 (小学館101新書 17) 窪田 順生 (著)

ドライアイスはもともと二酸化炭素が原料で、化学製品の廃棄物処理過程で生まれているので、原価は非常に安い。10キロ3000円で卸す業者もあるが、アイスクリームなどを売る場合は、無料でつけているようなものだと言う。ドライアイスをあてるのは、血流が多い箇所だということで、素人でも(遺族でも)コツが分かればできるそうだ。

今ではドライアイスも、アマゾンで売っている。10キロでやはり3000円くらいで売っている感じ。

しかし、原価が安くても、葬儀会社の人件費を考えると、ドライアイス代1万円前後もしょうがないかと思える。どんな技術サービス料でも出張時には5000円くらい簡単に取られる(何もしなくても出張料)。遺体に触れるサービスを込みで1万円というのは、高すぎると言えるのかどうかは、なんとも言えないところだ。

さて、著者の指摘は、葬儀業界にとって悪名高い「祭壇」に及んでいく。著者が本書で指摘しているように、旧来の葬儀会社の姿勢を示したもので、現在は、大きく変わりつつある状況も知っておかねばなりません。ともあれ、祭壇は儲かる。

祭壇レンタル業は大儲かり

「高額な祭壇も別に新調しているわけではなく、何度も葬儀で使用したものを「レンタル」という形で遺族に提供しているだけなのだ。「300万円の立派な祭壇を新調したら、60万円~100万円でレンタルしますね。4~5回葬儀をやればすぐに元がとれる。そして6回目以降はすべて儲け、維持費なんてかかりませんよ。わたしらがキレイに掃除をするだけ。うちで一番出ている祭壇はもう10年も頑張ってくれていますよ。」(中堅葬儀社社員)

生花まで使い回すという徹底ぶり
「祭壇を飾った花の中で安くて小ぶりなものは、葬儀が終わってご仏様とのお別れの際、棺に入れます。ただ、大ぶりで高価なものはそのまま我々が回収して、次の葬儀に使います。わずか数時間の葬儀だけで処分などするわけがないでしょう。私たちは一日とおしで使いますね。・・・「生花代」として一基につき1万円という金をとるが、実はそれが生花のレンタル代だったということを知っている人はどれだけいるだろうか。もちろん、そのような説明は葬儀社はしない。」(P45-46)

引用:死体の経済学 (小学館101新書 17) 窪田 順生 (著)

生花まで使い回している業者がいるとは知りらなかった。それが、そのまま請求されていると思うといらだつ気持ちも分からなくはない。ただ、レンタルというのも、実際にはこのようなものだ。先行投資が必要というデメリットがあるが、回転率を上げれば上げるほど、儲かるのがレンタルというサービスの仕組みだ。

この仕組み(あまりにぼろ儲けしている業界)に良心が痛んだ葬儀屋も少なくない。今は供花祭壇に軸足を移し、明朗会計の葬儀を打ち出している小林氏もその一人だ。(「葬儀」という仕事(小林和登))祭壇の利益率やグレードがあがっても、原価はそのままという、高利益率の業界に疑問を感じて、自身の葬儀社を作った。ティアの冨安氏もそうだ。(ぼくが葬儀屋さんになった理由

今では、葬儀業界の裏側は、オモシロ半分でスクープされることが多い。こうした流れも、消費者をよりシンプルなお葬式へと駆り立てている原動力になっている。今は、サービスの中身を全て公開しても、「あ~これだけやっているんだから、儲かってもしょうがないよな」と思えるような、いわば「透明」なサービス業が求められているのだ。

そこで出てきたのが、この本の主体ともなっている「葬儀周辺ビジネス」だ。この種の業者が自分たちの仕事の「凄惨な面」「たいへんな面」を喜んで語るのもよく理解できる。

葬儀社のサービスは5つ

葬儀社のサービスが5つの部分からなっているというのは、言われてみないと気づかない点だ。この視点を獲得できただけでも、この本を読んだ甲斐が合った。

「この奇跡の高収益ビジネスを支える「原価」について見ていこう。まず葬儀社が遺族におこなうサービスは大きくわけて「運搬」「遺体に触れるサービス」「販売」「レンタル業」「専門業者への手配」と5つあることを知っていただきたい。」(P41)

「粗利の高い葬儀ビジネスだが、すべてが高収益をたたきだせるというわけでもない。実はこの5つの中にも業者にとってあまり魅力を感じないサービスがある。・・・葬儀社が真にコストをかけて、実際に収益をあげているのは「遺体に触れるサービス」と「レンタル業」ということになる。」(P44)

引用:死体の経済学 (小学館101新書 17) 窪田 順生 (著)

ちなみに「運搬」と「販売」は美味しく無いそうだ。利益をあげるのは「レンタル」と「遺体に触れるサービス」。「レンタル」では最たるものとして「祭壇」が登場する。本書で特に強調されているのは、ドライアイスと祭壇の暴利。(ただ、これは一時代前の葬儀です。今、祭壇にバカ見たくお金をかける遺族は少なくなっている。)

活路を見出すために、葬儀業界が今向かっている方向は「遺体に触れるサービス」で料金を上げていくことだ。具体的に言えば、エンバーミングや湯灌、遺体の修復技術を商品化するのだ。本書によれば、エンバーミングは葬儀業界にとっても、それほど儲からないので、実際には、普及しないのではないかという論調ではある。現実を踏まえて、今後、どのように業界が進んでいくかが興味深い。

さて、著者は、葬儀業界が高額な「レンタル」業者としての需要を失ってきたいま、「サービス業」としていくつもの周辺分野に、ビジネスチャンスができていることを示している。

葬儀周辺ビジネス第三世代

「従来の祭壇型の葬儀で高収益をあげてきた葬儀社を第一世代、・・・それまでの葬儀業界に疑問を抱き、「遺体に触れるサービス」に特化していく人々を第二世代とすると、この第三世代は葬儀業界はおろか、今まで「死」というものを生業にしたことがなく、単にそこに困っている人がいて、葬儀業界ではカバーできていない「市場」があることに気づいたことから参入してきた人々である。」(P149)

「多くの葬儀関係者が取材を拒否するし、匿名でなければ答えられないという姿勢が当たり前で、それが「死」を扱う人々の特徴でもあった。だが、この新しい世代は違う。社会に対して自分のやっていることを広くアピールして、社会の中に自分たちの仕事は絶対に必要になってくると訴えているのだ。今、「死」を扱う業界は大きな変化の時を迎えているのかもしれない。」(P182)

引用:死体の経済学 (小学館101新書 17) 窪田 順生 (著)

エンバーミングから始まり、四川大地震で活躍した遺体保管スプレー、納棺師、湯灌師、遺体修復業者、死臭を消す消臭剤を開発した業者、遺品整理屋、変死の清掃業者と「死」に関連したさまざまなサービスが紹介されている。新規にこうした事業に参加する人たちにとって「死」はタブーではあない。彼らからは、積極的にこういう業態をアピールしていこうという気概さえ感じる。

私が読んだ本でいうと、この本の著者が、まさにそういう感じ。清々しいまでのビジネス意識だ。儲かるから死体関連ビジネスを行うと割り切っているのだ。

著者が言うように、死に関係する第三世代の「サービス業」が時代を動かしつつある。とくに本書の後半で中心的に語られている「遺品整理」、自殺現場、変死現場のような凄惨な現場を復旧させるサービスの場合は、費用も比較的高額・・・20万~30万かかることもある。しかし需要はある。遺族にとっても、自分では決してできないことだから、この種のサービスに数十万を払うことは抵抗がないのだ。

以前は、ドライアイスを原価の何十倍で提供し、原価数十万の祭壇を何度も数百万でレンタルし、仕出し業者や坊主からキックバックを受けて・・・決して消費者には見せられない「裏側」が、葬儀業者の飯の種だった。しかし、今はそうではない。遺族すらできないこと、どうしてもできないことを、代わって行ってあげる「代行業」としての葬儀周辺ビジネスが伸びてきているのだ。この費用は、消費者は喜んで出すようになっている。

葬儀業界の人にとっては「昔はよかった」という話で、今の時代の変化を辛く思うかもしれないけど、これは葬儀業界だけではない。宗教儀式としてではなく、流通業として葬儀が認知された時の当然の結果なのかもしれない。

葬儀業界を例にとりながら、死に関係したビジネスがどんな変化を遂げていくのかを、読み解くことができる、面白い本だったと思います。少し内幕的な暴露話が聞きたい人にも、葬儀周辺ビジネスのこれからの展望を知りたい人にもオススメの書籍だ。

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綿樽 剛@AGA・薬を使わない薄毛対策
大人のADHDグレーゾーンの片隅でひっそりと生活しています。メンタルを強くするために、睡眠至上主義・糖質制限プロテイン生活で生きています。プチkindle作家です(出品一覧:https://amzn.to/3oOl8tq

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