トム・ホーバス監督の繊細な指導法：女子選手への心のケア

笠原彰　とちぎスポーツ医科学センター協力心理相談員　プロメンタルコーチ　作新学院大学教授

2023年9月5日 15:25

前回の準決勝のフランス戦で、オコエ桃仁花選手のプレーが今一歩だったため、私は彼女に厳しく注意しました。結果的に彼女は試合中に涙ぐむシーンも見られました。それを見て、私自身も「あれ？もしかして強く言いすぎたかな」と反省しました。そこで、翌日の練習前に桃仁花選手と少し時間をとり、二人きりで話しました。「あまりにもストレートに言葉を投げかけたかもしれません。しかし、桃仁花、自分を責めず、しっかりと自分の役割を全うしてください。狭い視野ではチーム全体のことが見えませんから」と励ましました。その後、彼女の表情は明るくなり、決勝のアメリカ戦での彼女のプレーも随分と向上しました。

　言葉には限界があり、完璧なコミュニケーションをとることは難しいです。そのため、私は選手たちのボディランゲージや表情を常に注意深く観察しています。特に選手のエネルギーが低下すると、目線が下がることが多いです。そういった時に「視線を下げず、前をしっかり見るように」と励ますようにしています。私自身、相手のリアクションや身体の言語が読み取れない通話は得意ではありません。

　女子選手を指導する際の特別な意識としては、「少しの褒め言葉の効果」を意識しています。少しの褒め言葉でも、一貫して冷静に対応している選手が涙を流すことがあります。彼女たちがこれまで褒められることが少なかったのかもしれません。選手たちは非常に真面目で、欠点ばかりを指摘されると落ち込んでしまいますが、褒めることでそのエネルギーは高まるように感じます。私は選手それぞれの力を心から信じており、少しの褒め言葉で彼女たちの自信を引き出すことを意識して指導しています。

笠原彰心理学的分析：
人間は承認欲求があり、自分の行動や努力が評価されることでモチベーションが上がり、自身の存在意義を感じます。特にプレッシャーの多いスポーツの世界では、負のフィードバックが多い中でのポジティブなフィードバックは大きな効果を持ちます。トム・ホーバス監督は選手たちの心理的な側面を理解し、バランスの良い指導を心がけているようです。褒めることで選手たちの自己評価が向上し、その結果としてパフォーマンスも向上するのは心理学的にも支持される考え方です。

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