渡邊雄太の挑戦：崖っ縁からの五輪への道
日本のバスケットボール代表チームは、19位の成績を収め、アジアでトップの成績を持つチームとして、次回のパリオリンピックへの出場権を手に入れました。チームの中心選手である渡辺雄太選手（28歳・サンズ所属）は、この大会でオリンピック出場権を逃すことになったら、代表から退くという強い決意を前もって公にしていました。このプレッシャーの中、彼は自らの目標を達成しました。
2023年9月2日、日本は順位決定リーグの最終戦でカボベルデを下し、オリンピック出場を確定させました。その瞬間、渡辺選手は日本の国旗を背負い、感極まって叫びました。
「死ぬまで代表やります！ 死ぬまで日本代表です。僕は」
これまでの代表引退の危機を乗り越え、彼は堂々と“生涯代表”であることを宣言しました。
渡辺選手が初めて代表引退を考えると公言したのは、2023年7月15日の都内でのイベント後でした。「日本を五輪に導けなければ、代表としての資格がないのではないか」という強い思いから、「代表ユニホームを脱ぐつもり」と語りました。
大勢のファンの前で、彼は「パリ五輪に進出できなければ、これが最後の代表活動になるかもしれません。もっと長く代表ユニホームを着てプレーしたいので、沖縄での試合で応援してください」とファンに訴えました。
W杯では、開幕直前に怪我を負いながらも、全5試合に先発出場しました。彼の出場時間は1試合平均35分と、チームで最も長かったです。
1次ラウンドでは、前回優勝国のドイツや、2021年東京五輪で銅メダルを獲得したオーストラリアに敗れましたが、強豪のフィンランドを破るなど、日本がW杯で欧州のチームに勝利するのは初めてのことでした。
順位決定リーグでは、ベネズエラやカボベルデを連勝しました。特にフィンランド戦では18点差、ベネズエラ戦では15点差を逆転するなど、劇的な勝利を収めました。
チーム内での活躍者は多かったものの、チームを引っ張っていたのは間違いなく渡辺選手でした。彼はゴール下で体を張り、ピンチの時には個人の技術で得点を重ねました。
渡邊選手は、2011年に16歳で日本代表デビューを果たしました。2016年のリオ五輪最終予選では出場権を逃し、2019年のW杯では5戦全敗、2021年の東京五輪では3戦全敗と、これまでの大会での結果は芳しくありませんでした。しかし、今回の大会では3勝2敗という成績を収め、日本としてW杯6回目の出場で初めて勝ち越しました。
渡邊選手が代表引退を考えるようになった背景には、過去の経験が影響していました。2018年には、NBAのグリズリーズとツーウェー契約を結び、日本人として2人目のNBAデビューを果たしました。その後、ネッツでの活躍を経て、新シーズンからはサンズと2年契約を結びました。
「NBAでも、自分を限界まで追い込んだ時に、良い結果が得られた経験がある。今回も、逃げ場をなくすことで、良い結果が得られると信じていた」と彼は語りました。
この強い決意は、チームメイトにも伝わりました。特に若手の河村勇輝選手は、大会中に渡邊選手に「まだ代表引退はさせません」と何度も伝えました。このような強い絆で、チームは一丸となりました。
大会終了後、渡邊選手は「計算して行動したわけではない。でも、その結果、チームに火がついたのなら、それは良かったと思う」と振り返りました。
チームは、大会終了後の2023年9月4日に沖縄から帰京しました。渡邊選手は、NBAの規定により、代表活動には世界大会の4週間前からしか参加できないため、次回の合流はパリ五輪直前となる見込みです。
彼が所属するサンズでのNBA6シーズン目は、2023年10月25日に開幕します。パリ五輪に向けて、彼は世界最高峰のリーグでさらに成長することを目指しています。
「崖っ縁に強い自分として、再び限界を迎える状況を作り出し、パリ五輪での活躍を目指す」と彼は語りました。
彼が次にどのような方法で自分を追い込むのか、その行動や言葉から目が離せません。
笠原彰心理学的考察：
渡邊選手の行動や言葉から、彼が自らを追い込むことで最高のパフォーマンスを引き出すタイプの人間であることが伺えます。これは、自己効力感という心理学的な概念と関連があります。自己効力感とは、自分が特定の行動を成功させる能力があると信じる度合いを指します。渡邊選手は、過去の経験から、自らを限界まで追い込むことで最高の結果を得られるという自己効力感を持っていると考えられます。また、彼のこのような姿勢は、チームメイトにも影響を与え、全体のモチベーションを高める要因となったと思われます。心理学的には、このようなリーダーシップの持ち主がチームにいることは、チームの結束力やパフォーマンスを向上させる要因となります。
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