父の匂いとカメムシ
最近父の夢をみた。怖い夢だった。
夢の中で起きた出来事も怖かったけど、父がこのまま居なくなったらどうしようという怖さのほうが強かった。
目が覚めて夢とわかった時、急に父に会いたくなった。
だから今日は父の話。
今年で67になるんだっけか?
父は口数は少なく、穏やかでマイペース。
時間があれば読書してる。
細身。ベストにスラックスがよく似合う。
沢山ごはん食べるのに痩せてる。なんでだ。
冬になると乾燥で手がカサカサになる。
一応保湿クリーム塗ってるらしいけど
私から見た感じ、効果はなさそう。
パジャマはズボンにINするタイプ。
私がオタク気質なのは完全に父の影響だと思う。
数年前に父はレース鳩にハマってた。
賭け事が好きなんじゃなくて、
あくまでもレースに出場する鳩が好きらしい。
どこが好きなのか聞いたことがあるけど、
全く理解できなかった。
マニアック。完全にオタク。
今では完全にそのオタク魂(DNA)が私の中に刻み込まれていると感じる。
その後は熱帯魚、メダカにハマり、
最近では俳句が趣味らしい。
この前自分の俳句が新聞に載ったらしく、嬉しそうに記事を見せてくれた。
私は父の匂いがすき。
香水はつけてない。柔軟剤の匂いとも違う。
多分体臭なんだと思う。
父は落ち着く匂いがする。
父は早起きで、朝は新聞を読みながら
オリジナルモーニングセット(コーヒー、食パン、ヨーグルトに蜂蜜)を食べる。
私が幼い時からこのメニューだったと思う。
昔は紅茶も飲んでたような気がする。
小学生のとき、私が朝ごはんを食べ始める時間がちょうど父が家を出る時間だった。
だから父と朝ごはんを一緒に食べた記憶はあまりない。
私が起床する頃にはリビングは既に暖まっていて
ほかほかした空気の中は
トースターで焼かれた食パンの香ばしい匂いと
コーヒーの匂い、新聞の匂い、父の匂いでいっぱいだった。
思わず大きく息を吸いたくなるような、そんな匂い。
その匂いに包まれながら
焼いてカリカリになった食パンにバターを塗るときに飛んだのか、口に入れるときに落ちたのかわからないけど、父がテーブルの上に残していったパン屑をボーッと眺めながら、私は朝ごはんを食べてた記憶がある。
私が中学生になる頃、父は出張で地方にいることが多かった。
出張に行くたびに、ご当地キティーちゃんのキーホルダーを買ってきてくれた。
結局何個集まったんだろ。
当時は、わーいキティーちゃん増えた〜!位にしか思ってなかったけど、今思うと出張先でも私のこと思い出してくれてたんだな〜って嬉しくなる。
出張から帰ってきたスーツ姿の父から
いつもの父の匂いがしたのを覚えてる。
私が高校生になったある時
父から手のひらサイズの紙の箱を渡された。
箱の中身はカメムシ。
厳密に言うと、ダンボールで作られた
父特製の手作りカメムシが箱の中に入っていた。
箱には「注意!中には臭いカメムシが入っています」と書いてあって、箱の中のカメムシ(ダンボール)が息できるように空気穴まで開けてあった。
あれは一体なんだったんだ。
そしてそういったものを人に渡す時って
ほら!カメムシ!!くっさいぞ〜
みたいなテンションで渡さない?
父は
「ティッシュ1枚取ってー」
「はい(どうぞ)」
と同じくらいのテンションだった。
もう一度いう。
あれは一体なんだったんだ。
段ボールカメムシからかなりの年月が経った。
私は大学に進学するタイミングで実家を離れ、
今も一人暮らしをしている。
数年経った今も尚
鮮明に覚えているダンボールカメムシ
私はまだまだ父のことを知らないのかもしれない。
今度実家に帰ったら、父にダンボールカメムシの真相を聞いてみようかな。あの朝のほかほかした空気の中で。