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【公認心理師】「消去」と「代替行動」について①

【子育て】の方で、2回にわたって娘の「お菓子買って!!」の話をしました。そこで、娘は「お菓子買って」コールをやめて、「説明提案」交渉ができるようになりました、とその成長を報告させていただきました。そこには、行動分析学や認知行動療法などの科学的な視点を含んだ考え方を取り入れて対応していた部分があるので、今回はそれがどんな視点だったのかを説明していきたいと思います。

まず1回目の「お菓子買って!!と言われたら」から考えていきたいと思います。ここでやったことは、「消去」と呼ばれる方法です。

消去の説明をする前に、少しだけ「行動」について話しておきたいと思います。
人や動物がする「行動」は、前後の環境の変化によって、同じ行動が繰り返し出現するか減少するかが決まります。
例えば、お腹が空いていた時にポテトチップスを食べるとお腹が満たされた、という経験がみなさんにもあるでしょうか?
お腹が空いているという状態が、「食べる」という行動によって、お腹が空いていない=満たされた状態に変わりました。空腹感が満腹感に変わることはわたしたちにとって、とても「良い出来事」なので、きっと次も空腹感を感じた時にポテトチップスが目の前にあると「食べる」という行動をする確率は高くなるでしょう。

反対に「良くない出来事=悪い出来事」が起こるとその行動は減ってしまいます。
例えば、近道をしたくてキャッチボールをしている人たちの間を通っていったら、ボールが当たって痛かったとしましょう。近道をしようとボールが飛んでいる中を横切っている状態です。そうすると、キャッチボールしているボールが当たってしまって痛みが生じました。「痛い」というのは「良い出来事」とは言えませんよね。おそらくほとんどの人が「良くない出来事=悪い出来事」だと捉えると思います。そのため、この人はきっとこれから先近道をしたくてもキャッチボールをしている間を横切ろうとすることは減るだろうと考えられます。

このように、行動の前後の変化によって人はその行動を繰り返しするようになるのか、反対にしなくなるのかが決まってくるのです。
もちろんこの説明はものすごくざっくりした説明なので、詳しい話はまたどこかの機会でしたいと思います。

さて、行動がどうやって増えたり減ったりするかがわかったところで、「消去」の話に戻したいと思います。

人が行動した後に、良いことが起きるとその行動が増えたり、悪いことが起こるとその行動が減ったりすると伝えましたが、では何も起こらなかったらどうなるでしょうか?少し想像してみてください。
例えば、誰かの反応が欲しくてSNSに何かを投稿したとしましょう。この時、誰からも何も反応がなかったらどうでしょうか。きっとすごくガッカリした気持ちになると思います。それでも、もしかしたら次こそは、と思って投稿して、また反応がなくて、それが繰り返されるときっとSNSに投稿するという行動はなくなっていきます。反応が欲しくて投稿したのに、欲しい反応が全く得られなかったのですから。

このように行動しても何も起きない場合、その行動はなくなっていってしまいます。なくなっていくので、「消去」と呼ばれています。

娘の場合を考えてみましょう。
娘は「お菓子買って!!」と訴えました。しかし父親のわたしからは良い返事がもらえません。最初にはっきりと
「今日はお姉ちゃんも迎えに行くし、習い事もあるから、お菓子は買わずに帰ります」
と伝えられ、断られました。
その後も、何度も何度も訴えますが、父親から反応があったとしても、「そうかー。」とか「買って欲しいんだねー。」なんて言う薄い反応だけです。娘の訴え(行動)は少しずつ激しくなっていきます。それでも父親は、望んでる通りにはしてくれません。何を言っても薄い反応で、訴えても訴えても効果がないのです。最終的には泣き喚きながら「お菓子買って!!」コールをずっと続けていましたが、家に帰るまでお菓子は買ってもらえず、父親からも反応がほとんどない状態でした。その後も30分ほど訴えていましたが、徐々に訴えは消えていき、落ち着きを取り戻しました。

こうして娘の「お菓子買って!!」コールの行動は消えていきました。
ところで、消去について一つ説明していないことがあります。娘の様子を追ってみると、消去の流れの中で、どんどんと行動がエスカレートしている場面がわかると思います。実際の場面で「消去」の方法を使おうとする時に難しさを感じられるのはこの場面です。消去を用いようとすると、一時的にその行動や似たような行動が増える「消去バースト」と呼ばれる状態になることが非常に多いです。そして、行動が激しくなったからと相手にとって「良い結果」を提示してしまうと、その激しい行動が増えることになります。だから、どれだけ行動がエスカレートしても、消去を始めたら一貫して消去をし続ける必要があります。

娘の例でいうと、最初は「お菓子買って!」と言うだけだったのが、泣きながら言うようになり、最後には「お菓子買って!!」コールになりました。こうやって要求が少しずつエスカレートしていったのです。
似たような例としては、スーパーとかでたまに見られるお菓子売り場で駄々をこねる子供でしょうか。最初は「買ってよー」と言っていたのが、最終的には床に寝転がってバタバタと手足を動かしながら「買ってー!!」と泣き喚く、というような感じですね。
他に考えられるところでは、自動販売機にお金を入れたのにジュースが出てこなかった時のことを考えてみてください。そんなとき、どうするでしょうか?人によって色々な行動を取るかと思いますが、何度も同じボタンを連打したり、お釣りレバーを何回も押したり、もしかすると自動販売機をガタガタと揺らしてしまう人もいるかもしれません。どれも、今まで一度ボタンを押すだけでジュースが得られていたのに、それが得られなくなったために起こった消去バーストと呼ぶことができます。

さて、ここまで消去がどういったものなのか、その時に起こる消去バーストの話をしてきました。消去の手続きをしていくのも、繰り返し行われる行動なので、本当にその行動がなくなったかどうかはその時はわかりません。一度でなくなることもあれば、何度も同じように消去の手続きをしていくことで、少しずつ行動の頻度が減っていくこともあります。いずれにしても、一度決めたらやり続けることが大切です。エスカレートした行動で「いい結果」を得てしまうと、望んでいた結果と真逆の効果になってしまうので、本当に注意が必要です。(ただ、消去バーストを用いての行動形成の方法もあるので、別の機会にお話できればと思います。)

またもう一つ大切にして欲しいポイントがあります。それは消去をしようとするときには、同時にそれ以外の適切な行動が身につけられるようにしてほしいのです。
繰り返し行われている行動なので、その人にとっては意味のある、いい結果をもたらしてくれる、もしかしたらとても大切なことを得ている行動であると考えられます。それを、何も得られない状態で、今まで得られていたものが得られなくなってしまうと、それはすごく悲しいことですよね。行動自体は不適切なものであったとしても、その行動の結果までをなくしてしまっていいかは別に考えておく必要があります。ですので、同じような「良い結果」を得るための適切な行動を伝え、それができるように支援していくという視点はとても重要なポイントとなります。
もしかしたら、得ている結果も不適切なものがあるかもしれません。そんなときは、別の似たような、同じくらい嬉しく思える「良い結果」を用意して別の行動に置き換えていく、ということも考えられます。
どういった場合にしろ、消去するだけではなく、別の行動を伝えていく、その人にとって大切なところは守っていけるように、適切な使用ができるように慎重に取り組んでいければいいと思います。
そこで次回は、娘の2回目を振り返りながら、「代替行動」の話をしていきたいと思います。

自分にできることが何かを模索しながら、とりあえずできること、発信できることから始めようと思います。少しでもリアクション頂ければ励みになりますので、よろしくお願いいたします。