字幕付きの夢——公募展「無現夢」に寄せて
今日は先日行われたグループ展へ出展した作品について綴ろうと思う。基本的に、作品は観たままを感じて欲しいし、正解などないので、あくまでもこれはわたしの思考で、参考程度。作品の横に載っているキャプションのように、ふーんと読み流して欲しい。
・蟒蛇について
今作のタイトルは蟒蛇(うわばみ)という。言わずもがな、「星の王子さま」に登場する、象を飲み込んだ、帽子みたいなあのウワバミである。今は亡き、星の王子さまミュージアムという場所が、わたしは凄く好きだった。王子と薔薇、キツネ、バオバブの木、モチーフはたくさんあるが、蟒蛇は冒頭で強いインパクトを残している。
少年が描いた蟒蛇を、大人たちは皆、帽子だという。その頃から少年は筆を折ってしまった。彼は大人にならざるを得なくて、そのきっかけは随分とはやくに訪れてしまったのだ。
また、わたしの中にもこの蟒蛇ちゃんには思い出があった。星の王子さまミュージアムでお土産として当時一番親しかった存在にあげたことがあった、蟒蛇の小さなストラップ。ボールチェーンがついており、身体が大きく膨らんだ蟒蛇の中にはおめめがくりくりの象が潜んでおり、それを引っ張り出すことのできる構造。わたしも欲しかったが、何故かそのときわたしは購入せず、贈り物としてひとつだけ買って東京に帰った。
その贈り物は数日後に姿を消してしまう。規制される前の渋谷ハロウィンの人混みの中に——。
そのとき私の中でひとつの図式ができた。
それからわたしは都会(現実)が夢を破壊する、という文脈をこの出来事に見出した。弱肉強食、蟒蛇すら食べられてしまう、人間の悍ましさみたいなものを一人でに感じていたのである。
そういった背景をベースに、今回の「夢現」に出展するにあたり、以下の構想文をhydrangeaさんに提出した。その構想文が以下の文章である。
・夢の在り方
夢と現実は密接に関わっており、一時期わたしはその境界がわからなかった。だから現実で出会う人に、この前こんな話してた?と夢の話をしてしまったりしていたのだが、すべてを記憶し、同時に記録していると気が狂うというのは本当だったみたいだ。(だから今は文字として書き起こすことは普段していないのだが、機会があれば何かを打破すべきときにやってみようかと思う)
夢の話をするとき、いや、夢だけに限らないが自分の身に起こっていることをベースに人は話をしてしまう。
わたしが見る夢は限りなく現実に近い。一人称視点で、フルカラー。現実での知り合いが登場し、多少辻褄が合わない箇所はあれど、空を飛んだり、何か大きな脅威に追いかけられたりは基本なく、現実の延長線にある。だからこそ、皆そういったものを見ていると思っていた。が、以前、大学時代の後輩と夢の話をした際、下に字幕が付いていると聞いたことがあり、わたしは酷く驚いた。なんならモノクロだし、とのこと。字幕がついている夢があるのならば、漫画の吹き出しのように詩があっても良いのではないか、それが今回の詩作を作品に組み合わせる形のヒントとなった。
・ほかモチーフ
作品のモチーフとして一番目を惹くのは、恐らく中央にあるスプリットタンの顔だろう。セプタム等、既存の人間の形を変形させるようなピアスは、「人の形を変えるのは、神だけに与えられた特権だ」という『蛇にピアス(金原ひとみ)』の一文を思い出す。となると、この顔は人間か、それ以外かわからない存在となる。それ以外には中央の瞳。白眼がゴールドであるという点もこれは恐らく人間のものではない。
手前に描かれた道路と横断歩道、道路の先も、横断歩道の先も描かれていないので何処に繋がっているかはわからない。黄泉かもしれないし、現実の道がこの先も続いているかもしれない。ただ、横断歩道以外はフェンスで行手を阻まれている。この道を進むか、後進するか、止まるか、選択は貴方に委ねられている。
・詩「蟒蛇」
今作、加えて同時期に会期のある、gallery幻さんでの出展作品に於いても、今回わたしは絵画作品の中に詩を入れ込む、というのがひとつの挑戦であった。ただ、新作の詩は現実に持っていかれた精神状態では書き下ろすことができず、過去作から切り抜いて、パッチワークのように制作をした。
今回コラージュした詩は、この作品ができるよりもずっと前からあった詩で、元々そのタイトルが「蟒蛇」という。詩の解説はさすがに野暮だと思うので控えさせてもらうが、以下に全文を此処に記すので、ぜひお読みいただければと思う。
文庫本をちぎったようなデザインになっているのにはわたし自身も満足しており、実際に破くことは致しかねるので、半ペラに印刷したものをるんるんで破ったのを記憶している。文庫本を模したものを破壊するのは、紙の本を信仰する者としては御法度だ。だからこそ燃える、というのが人間の困った性かもしれない。
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