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祝!2024年度オスカーシーズン幕開け

今月中旬、本年度のトロント国際映画祭が終わり、オスカーシーズンが始まりました。

実際の賞レースはまだ先ですが、その対象になる作品がほぼ出そろうのが、秋の映画祭です。

例年、ベネチア映画祭、テルライド映画祭、トロント映画祭でお披露目される映画の中から、オスカー有力作品が出てきます。しかし、今年の秋の映画祭でのお披露目作品は、やや地味目だったようです。昨年の夏から秋にかけて起こった俳優組合、脚本家協会のストライキの影響です。

トロント映画祭は300本以上のラインアップが揃う大型映画祭ですが、コンペ部門がありません。代わりに観客が任意で投票をする観客賞が設置されており、受賞した作品はかなりな確率でオスカー作品賞候補にノミネートされます。今年は、ほとんど誰もがノーマークだった『The Life of Chuck』と言う作品が受賞しました。トム・ヒドルストン主演、スティーブン・キング原作の、ハートウォーミングな作品と聞いています。これまでも、『グリーンブック』『英国王のスピーチ』『スラムドッグミリオネア』など、感動を齎すハートウォーミングなドラマがしばしば観客賞を獲り、その後オスカー作品賞を受賞しました。作品賞ノミネートだけなら『ジョジョラビット』『ベルファスト』など、近年の観客賞受賞作はほとんど該当します。そんな理由から、本来はこの『The Life of Chuck』がオスカー作品賞有力候補のひとつに上がってくるはずなのですが、今年は少し様相が違います。それはこの作品、オスカーキャンペーンに何よりも必要な、アメリカの配給会社がまだ決まっていないのです。

オスカーは、作品が良ければノミネートされるものではなく、何よりも大事なのが配給会社の後押しになります。ここ数年はそれに加えてSNSで勢いをつけることがとても大事で、9月の時点で配給が決まっていないというのは、12月末までに劇場公開が義務付けられるアカデミー賞の候補になるためには大きな痛手と言えます。

それでは現時点でどんな作品が話題になっているのか。私の周りで圧倒的に評判が良く、頭一つ抜けていると感じる作品は、ジャック・オディヤール監督作品『Emilia Perez』です。本作は、オスカー国際長編部門のフランス代表になっている作品で、カンヌ映画祭では複数女優まとめた形で女優賞を受賞しました。オスカーではアンサンブル賞はないので、各俳優で賞レースに挑むことになりますが、主演のカーラ・ソフィア・ガスコン、助演のセレナ・ゴメス、ゾーイ・サルダナ共に、ノミネートが期待されています。特に主演のガスコンは、該当作品出演時点でカミングアウトしているトランスジェンダーとしては、初めての俳優賞ノミネートとなるので、大きな注目が集まっています。(俳優賞以外の部門でのノミネートは既にあり。また、エリオット・ペイジはエレンの時代にノミネートあり。)

今年のエミー賞授賞式で、司会のダン・レヴィーは「ストレートが演じなくてもゲイの役でノミネートされることが可能と証明してくれた」と、『フェロートラベラーズ』の二人を評して言いましたが、ガスコンがノミネートされれば、ハリウッドにおけるダイバーシティ&インクルージョンが進んでいることを広く印象付けることになります。その意味でも、彼女のノミネーションは業界全体でサポートされるはずで、現時点での情勢は、「Emilia Perez」が一歩リードしているように見えます。

とは言えまだ始まったばかりのオスカーシーズン、この先どのような展開になるのかはまだまだ分からず、2ヵ月後の最初の批評家賞まで、見守り続けたいと思います。

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