人生で1番好きだったバンドが解散する。彼らの曲が、まだ聴けない。
来月、人生で1番好きだったバンドが解散する。
冗談抜きで、わたしにとって青春そのものだったバンドだ。
けれどごめんなさい、解散が発表された日からもう9ヶ月が経ったのに、まだあの日以来彼らの音楽が聴けません。
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中学校でアイマイミーマインを勉強するより早く好きになったゆえ、数年経っても「WEAVER」を「ウェーバー」だと勘違いしていたバンドが。
( マックス・ウェーバーじゃないんだからさ )
中学生の頃に流行った、雑誌の切り抜きやポスカで彩って自分のことを紹介するノートの好きなもの欄に必ず書いていたバンドが。
高校生の頃に人生で初めてお小遣いでCDを買い、軽音部の友達と一緒に人生で初めてライブハウスなる場所に行ったバンドが。
高校生の頃にロンドンへ留学すると知ったとき、「遠距離恋愛してるみたいな気持ち」と友達に話したバンドが。
大学時代、初めてバイト代で遠征したバンドが。
国家試験目前の年越しライブで開演を待ちながら、会場でスマホを駆使して過去問を解いていたバンドが。
社会人になってシフトを無理やり調整して神戸までライブに行ったバンドが。
そんな思い出のバンドが、解散する。
始まってしまったものはいつか終わるというのは世の摂理なのだから、その日がいずれ来ることは分かっていた。でもまさかほんとうに終わってしまうとは思わなかった。それも、こんなにも早く。
日々の移り変わりのなかで、彼らの音楽を聴く機会が減っていたのは正直のところ事実だ。「あの店が潰れるなんて」と言いながらほとんど足を伸ばしたことがなかった客が飲食店の閉店を惜しむのと同じように、「だからこうなる前に贔屓にしておけ」と思われても無理はない。でも、個人的には彼らの音楽に限った話ではなく、なぜか音楽自体を聴く機会が減っていた。変わらず好きなものとしてそこにあるけれど、積極的に手を伸ばさないようになってしまった。
好きなものが移り変わるより、変わらずそこにあるものに手が伸びなくなったことが悲しかった。
解散を知ったのは、仕事の昼休みだった。
いつも通り公式からのLINEを流し読みかけて、________いつもと何かが違うそれに、手が止まった。え、なに、と思う気持ちそのままにお知らせを開いて、一瞬、周りの音が消えた。それほどに衝撃的だった。
でも、たぶん心のどこかで分かっていた。気付いていた。解散が発表されて数ヶ月経った今ならすこしだけ冷静に俯瞰できる。答えを貰ってから解説を読むとすんなり理解ができるように、すべてがするすると繋がって見えた。
彼らの方向性が多彩になったこと。「3人で作る音楽」以外にも彼らが輝く場が増えていたこと。
件の感染症で音楽業界がどれほどダメージを受けたかは知る由もない。映画も本も音楽も、ありとあらゆるエンタメは「不要不急のもの」として隅に追いやられていた時期があったことも覚えている。彼らにしか知り得ない、苦しい時間が増えたのだと思う。それぞれが、それぞれの道を選んでいく中で出てしまった結論が解散なのだと思う。
分かっているのだ。
その決断をするにあたって、わたしたちよりも彼らが苦しかったことは。それでも苦しいのだ。だってこんなに早くその日を迎えると思っていなかったから。だっていつも彼らの音楽はそこに在り続けると思ったから。
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と、ここまで書いた時点でしばらく下書きのまま放置していた。冒頭には来月と書いたけれど、もう今日で1月が終わってしまう。東京で彼らのラストライブが行われるまで、もう2週間もない。なんなら彼らが解散するまでもう1ヶ月もない。
弾かれるようにして、ラストアルバムをダウンロードした。検索窓に彼らのバンド名を打ち込むことすらすこし躊躇した。ダウンロードした今ですら、新曲は聴けずにいる。
怖いのだ。受け入れてしまったら、ほんとうに終わってしまうと分かってしまうから。ずっと夢のなかにいて、ほんとうは解散なんてしない現実が待っているような気がして。
悲しいのだ。もう彼らが作る音楽は新しく生まれないのだと実感することが。
何度も何度も躊躇して、開いては閉じて開いては閉じて、でも意を決して、ずっと前の曲を再生した。デビュー曲。5周年記念のライブでサプライズがあってメンバーが泣きながら歌ったと聞いた曲。あの頃より前からずっと好きだった。
頭の中で前奏からなぞれた曲が、より鮮明な形を持って流れる。ちゃんと聴かなくてはいけない。だって彼らが作る音楽が好きだから。だってわたしの青春は彼らと共にあったのだから。
話は少しだけ変わるけれど、かつて好きだと思ったバンドに巡り合ったのが解散ライブ前日だったことがある。こんなにも好きだと一目惚れするように思ったのに、彼らの音楽をじかに聴く機会は無かったということがあった。そのバンドはandy moriといって、今でも繰り返し聴いている。なんなら昨日の夜もずっと流していた。
ちゃんとわたしは知っているのだ。
そこで彼らの活動が終わったとしても、彼らの音楽が終わるわけではないということ。
だからきっと大丈夫。
相変わらず聴くのは躊躇するし、解散することはまだ受け入れたくないけれど、多分受け入れられる。というか受け入れるしかない。新しい彼らの門出だと思えるようになると思う。
CDショップのフリーペーパーを集めてスクラップしていた頃、歌詞をルーズリーフに書いていた頃、アイドルにハマってあまり聴かなくなった頃、遠征で知らない街に行く楽しさを知った頃、精神的な不調で音楽自体から離れた頃、いろんなことがあったけど、いつだって彼らの音楽が御守りで、光だった。
2010年に出会って以来、「好きな音楽」のずっと1番特別な場所にいたのが彼らだった。
彼らを知るきっかけとなった曲に、こんな一節がある。
まさに、曲通りの彼らだった。
いつだって熱狂的に愛せていた訳ではない。アイドル( くらいかっこいいお兄さん達だけれど ) のようにキャーキャー言う対象ではないかもしれない。でもいつも1番近くにいてくれる音楽だった。弱い気持ちも後ろ向きな気持ちも肯定してくれる音楽だった。彼らから、沢山のものを貰った。
それは自信であり励ましであり、新しい場所との出会いであり、「彼らの音楽が好き」という共通項で得た出会いだった。それは消えない、なくならない。
どうか3人がずっと音楽を好きでいられますように。
どうか3人が高校生だったあの頃に出会ったことを後悔しない人生でありますように。
そんなふうに、彼らの幸せを願ってやまない。